スズキのスズカーゴは、特定小型原動機付自転車の規格内で最大級のボディサイズを実現した、まさにミニ軽トラです。全長1900mm、全幅600mmというコンパクトサイズながら、175リットルの荷台容量と最大30kg積載能力を備えており、農業、配達業、アウトドア、建設現場など、様々な用途での活躍を想定しています。
一人乗り軽トラとしての大きな強みは、走行モード選択機能です。通常の車道走行時には最高時速20kmで走行でき、狭い歩道や人通りの多い場所では最高時速6kmの「カメモード」に切り替え可能。この柔軟性により、老若男女を問わず安全かつ自由に移動できるのが特徴です。また、ハンドル両端に装備された表示灯により、走行モードを周囲に視覚的に伝えるという安全配慮も見逃せません。
最大積載量30kgという仕様は、一般的な軽トラ（350kg〜500kg）と比べると限定的ですが、一人での日常業務や趣味の道具運搬、買い物袋の複数個運搬など、実用的なシーンでは十分な容量といえます。
スズキは長年にわたり電動車いす「セニアカー」を製造してきた経験を、スズカーゴの開発に活かしています。4輪独立懸架というサスペンション方式を採用することで、路面の凹凸をしっかりと吸収し、転倒しづらく、走行安定性に優れた設計を実現しました。これは電動キックボードなどの2輪モビリティにはない大きなメリットです。
ハンドル操作だけでなく、ドライバーから前輪タイヤが見える設計にすることで、タイヤの切れ角を目視確認できるようにしました。このユーザビリティの工夫により、狭い道路や駐車時の不安が軽減されます。さらに、坂道や未舗装路を走行できるセニアカーの高い走行能力も受け継いでいるため、農業やアウトドアシーンでの活躍も想定しています。
操作系統もシンプルに統一されており、ハンドル右側グリップの付け根にあるアクセルレバーで加減速、左右のブレーキレバーで停止という直感的な操作感を実現。複雑な操作が不要であることは、高齢者利用を想定した設計思想の表れといえます。
従来の軽トラックは軽自動車規格（全長3400mm以下、全幅1500mm以下）に属する2名乗りが主流です。一方、スズカーゴは特定小型原動機付自転車として1名乗りに特化し、全長1900mm、全幅600mmという極めてコンパクトなサイズを実現しました。
この根本的な違いがもたらす利点は複数あります。まず、駐車スペースの効率性が大幅に向上し、従来の軽トラでは停められないような狭い路地や駐車場でも対応可能です。次に、運転免許が不要（16歳以上であれば）という点は、都市部で増加する若年ドライバーや、免許を保持していない高齢者にとって革新的な選択肢となります。
さらに、電動化による低騒音・低排気ガスという環境面でのメリットは、住宅密集地での利用において従来の軽トラよりも優位性があります。一方で、最大積載量が30kgに限定される点は、大量の農産物運搬や建設資材の運搬には不向きであり、使用目的を選ぶ必要があります。
スズカーゴの発表後、スズキには多くの実装シーンからの問い合わせが寄せられました。公開された用途としては、交通インフラに課題を持つ地域団体からは住民の移動足としての活用、工場や大型施設内での運搬用途、そして農業やアウトドアを中心とした趣味の活用が挙げられています。
特に注目される分野は、ラストマイル配送です。都市部の配達業では、軽トラックよりもコンパクトで駐車しやすいスズカーゴの活用が期待されています。買い物支援サービスや配達業では、荷台容量175リットルと30kg積載能力があれば、日常品の配達に十分対応可能です。
また、高齢化社会の中で通院や買い物の足として、既存のセニアカーからのステップアップモデルとしての役割も注視されています。従来のセニアカーの最高速度6km/hでは物足りないと感じるユーザーにとって、走行モード選択機能を備えたスズカーゴは理想的なソリューションとなる可能性があります。
さらに、農村部での小規模農業や、キャンプ場でのアウトドアギア運搬、イベント会場でのグッズ販売など、創意工夫次第で様々なシーン展開が考えられており、一人乗り軽トラとしての新たな活用法が広がっていく見込みです。
スズカーゴの登場背景には、2023年7月の道路交通法改正による「特定小型原動機付自転車」という新たな車両区分の創設があります。従来、電動キックボードは複雑な法制度の狭間にあり、公道走行が困難でしたが、この新区分により、一定の基準を満たした電動小型モビリティの走行が合法化されました。
特定小型原動機付自転車に求められる基準は、全長1.9m以下、全幅0.6m以下、定格出力0.6kW以下、最高速度20km/h以下、自動変速（AT）であること、最高速度表示灯の装備です。スズカーゴはこれらすべての要件を満たすとともに、公道走行には別途、道路運送車両法の保安基準適合、自動車損害賠償責任保険の加入、ナンバープレートの取り付けが必要です。
この法制度の進化により、従来は販売困難だった超小型モビリティ市場が開拓され、スズキのような大手メーカーも参入しやすくなりました。将来的には、地方自治体や物流企業による積極的な導入も予想され、一人乗り軽トラが新たな移動手段インフラとなっていく可能性があります。
スズキ公式ウェブサイト、スズカーゴ技術情報ページ
https://www.suzuki.co.jp/
ジャパンモビリティショー2023、スズカーゴ・スズライド出展情報
https://www.japan-mobility-show.jp/
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