九州自動車道における最大の難所が肥後トンネルと加久藤トンネルです。これら2つのトンネルは、日本の高速道路トンネルの中でも特に長く、ドライバーにとって重要な情報源となります。肥後トンネルは熊本県八代市から人吉市へ向かう標高840mの肥後峠を貫く延長6,340mの長大トンネルで、1989年12月に暫定2車線で開通後、1999年4月に4車線化されました。加久藤トンネルは人吉市と宮崎県えびの市の県境間に位置し、下り線が6,264m、上り線が6,255mという日本の高速道路トンネルとしては第6位の長さを持ちます。
これら2つのトンネルは、NATM工法によって建設されました。NATM工法は、事前調査による地質把握と段階的な施工により、地盤の崩落を防ぐ工法です。特に肥後トンネルは多数の断層破砕帯からの大量湧水に見舞われ、施工は極めて困難を極めました。一度トンネル内に入ると、最初の走行区間から出口までの距離が壁面に1km毎に表示されるため、「あとどのくらいか」を確認しながら走行することができます。
肥後トンネルは下り線6,340m、上り線6,331mで、日本の高速道路トンネルでは中央自動車道・恵那山トンネルに次ぐ第5位の長さを誇ります。一方、加久藤トンネルは下り線6,264m、上り線6,255mで第6位の長さです。九州地方では、肥後トンネルが最長で、加久藤トンネルが2番目という序列になります。走行時間に換算すると、時速100km/h での走行を想定した場合、肥後トンネルでは約3分50秒、加久藤トンネルでは約3分45秒の時間を要します。
この長さは、一般的な運転手にとって精神的な負担になることがあります。トンネル内では外の風景が見えず、同じような光景が続くため、単調さを感じたり、疲労を感じたりすることがあります。実際に、長時間の集中運転により、運転者の集中力が低下する傾向が報告されています。このため、八代JCT~人吉IC間の連続する23本のトンネルには、トンネル番号が表示されており、運転手が現在地を認識しやすいようになっています。加久藤トンネルでは上り線に「1」が、下り線に「1」が付けられており、トンネルを抜けるまでの距離を段階的に確認することができます。
肥後トンネルと加久藤トンネルを含む八代JCT~えびのIC間では、道路法第46条第3項の規定に基づき、危険物を積載する車両の通行が禁止または制限されています。禁止の対象となる危険物には、火薬類、高圧ガス、毒劇物、有機過酸化物、石油などが含まれます。タンクローリーやその他の危険物積載車両が該当し、これらの車両が南九州へ向かう場合には、南九州西回り自動車道や国道3号を経由する必要があります。
特に令和2年7月豪雨の際には、一般道路が被災したため、特例措置としてエスコート車両を伴う形でタンクローリーの通行が認められたという事例があります。この通行制限が実施されている理由は、長大トンネルの構造を保全し、通行する全ての車両の安全を確保するためです。危険物が積載されている場合、トンネル内での事故発生時に大規模な災害に発展する可能性があるため、こうした予防措置が講じられています。
肥後トンネルと加久藤トンネルの両トンネルには、複数の安全対策が施されています。まず、トンネル入口にはトンネル用信号機が設置されており、異常が発生した場合に通行を制御できるようになっています。次に、両トンネルとも換気方式に工夫が施されており、肥後トンネルでは「集じん機付2分割立坑送排気縦流式」の換気方式が採用されています。この方式により、トンネル内の排気ガス(NOx、PM)濃度が適切に保たれます。
加久藤トンネルでは、設計当時は天井板を吊金具で支える構造でしたが、笹子トンネルの天井板落下事故を受けて、2012年12月に緊急点検が実施されました。その結果、上り線で吊金具の一部に異常が確認されたものの、安全上の問題はないと判断されました。その後、自動車の排気性能向上に伴い、天井板の撤去が決定され、下り線で2013年、上り線で2014年に撤去工事が完了しています。ドライバーは、トンネル内での最高速度制限を守り、前方車両との距離を十分に保ち、集中力を切らさずに走行することが求められます。
肥後トンネルと加久藤トンネルの完成により、日本の高速道路網は青森から鹿児島まで一本の線でつながりました。加久藤トンネルが完成し、人吉ICとえびのICの間が開通したことで、この歴史的快挙が実現されたのです。これは、日本の道路交通網における重要なマイルストーンとなっています。トンネルの西側には、約2km西側に肥薩線が走っており、矢岳第一トンネルが存在します。矢岳第一トンネルは1909年に完成し、肥薩線が全通したことにより、関門海峡の船舶連絡を挟んで初めて青森から鹿児島まで日本列島を縦貫する鉄道網が完成しました。
加久藤峠の地盤は比較的弱く、トンネルを掘るのに相当な時間を要しました。この難しい地盤条件下での施工技術は、現代の土木工学における重要な実績として記録されています。加久藤トンネルの下り線は2004年の車線拡幅によって追加されたもので、上り線と異なりピカピカした状態が保たれています。トンネル内で熊本県を抜けて宮崎県に入ることになり、県境を越えるというユニークな体験もできる区間となっています。
参考資料:九州自動車道の歴史と技術的背景について
九州自動車道肥後トンネルの施工について - 建設技術情報
NATM工法による施工方法、断層破砕帯からの湧水対策、避難連絡坑などの詳細な技術情報が記載されています。
参考資料:加久藤トンネルの基本情報と県際管理
加久藤トンネル - Wikipedia
トンネルの全長、開通年、県域跨越の詳細、天井板撤去工事の完了時期、危険物規制の詳細情報が記載されています。
参考資料:危険物積載車両の通行規制について
大型・特殊車両や危険物積載車両を運転される方々へ - NEXCO西日本
肥後トンネルと加久藤トンネルを含む長大トンネルにおける危険物の通行禁止・制限の対象となる物質、対象車両、代替ルートに関する詳細情報が記載されています。