2013年10月の第43回東京モーターショーで公開されたハスラークーペは、同時期に発表された市販版初代ハスラーと異なり、あくまで「参考出品車」として位置付けられていました。その後10年以上経過した現在でも市販化の発表はなく、コンセプトモデルのままです。
ハスラークーペの市販化が実現しなかった背景には、軽自動車市場における商品選択基準の違いがあります。軽自動車ユーザーは実用性や居住空間の広さ、経済性を最優先する傾向が強い一方で、ハスラークーペはデザイン性を最前面に押し出したモデルでした。このギャップが販売戦略との相容れない部分を生み出し、スズキは市販化を見送ったと推測されます。
価格面では、当時の市販ハスラーの上級グレード「Xターボ」が約160万円だったことから、ハスラークーペはそれより15~25万円上乗せされた175~185万円程度が想定価格となります。さらに専用装備を加味すれば200万円に迫る可能性もありました。このような価格帯は、軽自動車としては相当に高額であり、販売のハードルとなった要因の一つと考えられます。
ハスラークーペの最大の特徴は、後方に向かってなだらかに傾斜するルーフラインです。全高が標準ハスラーの1,665mm(初代)から1,630mmへと35mm低く設定され、いわゆる「ファストバック」と呼ばれるスポーティなシルエットを実現しています。この流麗なボディラインにより、軽自動車とは思えない高級感と洗練されたイメージが生み出されました。
サイドビューでは、後部座席のドアハンドルが「Cピラー」と呼ばれる窓枠の後方に隠された「ヒドゥンタイプ」が採用されています。この処理により、一見するとドアが2つしかない2ドアクーペに見え、視覚的に流麗なサイドラインが強調される仕上がりとなっています。実際にはドアは4つ存在しますが、デザイン上の工夫により、スポーツカーのようなコンパクトな印象が演出されました。
一方、悪路走破性を損なわないため、180mmの最低地上高と15インチの大径タイヤが継承されています。フロントには「HUSTLER」アルファベットエンブレムが装着され、ブラック塗装のバンパーガーニッシュやリアの大型スポイラーなど、タフな雰囲気も随所に感じられるデザイン要素が盛り込まれていました。
ハスラークーペの全体的なボディサイズは以下の通りです。
これらのサイズは軽自動車の規格(全長3,400mm以下、全幅1,480mm以下、全高2,000mm以下)の限界内に収まりながらも、クーペスタイルのエッセンスを最大限に引き出す設定となっていました。特に全高35mmの削減は、クーペシルエットの印象を大きく変える重要な変更点です。
当時の初代ハスラーの基本グレード「G」が約128万円、上級の「Xターボ」が160万円程度だったことから、ハスラークーペは15~25万円のプレミアムを上乗せして175~185万円に設定されたと想定されます。この価格設定は、カスタマイズ性の高さや専用デザイン要素への評価を反映したものであったでしょう。
ハスラークーペの内装に関する詳細な公式情報は極めて限定的です。東京モーターショーでの展示時も、注目はエクステリアデザインに集中し、内装についてはほとんど言及されませんでした。公開画像や映像から推測できる範囲では、基本的なインパネレイアウトは同時期の市販版ハスラーに近いものであったと考えられます。
ただし、コンセプトカーとしての特別性を表現するために、専用の加飾やシートデザインが施されていた可能性は高いです。市販版ハスラーが「遊び心」をテーマに機能的な内装で人気を集めたことを考えると、ハスラークーペはより「パーソナル」で「スポーティ」な空間が演出されていたかもしれません。例えば、専用デザインのメーターパネルやホールド性を高めたセミバケット風シート、スポーツカーを思わせる配色などが検討されていた可能性があります。
現行の市販ハスラーでは、ボディカラーと連動した複数の内装色選択が可能です。もしクーペが市販されていたならば、さらにユニークな内装配色提案が実現されていたかもしれません。
現在市販されているハスラーは2020年1月20日に発売開始された2代目モデルです。2024年5月の最新仕様変更時点での価格は以下の通りです。
ノンターボモデル
ターボモデル
※4WD車は各グレード13万円~14万円高となります。
2024年5月の仕様変更では、全車にLEDヘッドランプが標準装備されました。また、「タフワイルド」がそれまでの特別仕様車から正式なカタロググレードへ昇格し、SUV感を強調した外観と撥水加工されたインテリアが特徴です。
もしハスラークーペが当初の予想通り175~185万円で市販されていたなら、現在の「HYBRID X ターボ」(175万円帯)と競合する価格帯に位置していたはずです。ただし、当時と現在で技術革新や装備内容が大幅に進化していることを考えると、現在のモデルラインナップの価格は相対的に妥当なものとなっています。
ハスラークーペが市販化されなかった時期と同じく、ホンダは2014年に「N-BOXスラッシュ」を発売しました。このモデルもスライドドアを廃止し、2ドア風のクーペシルエットを狙ったデザインでしたが、2020年に販売終了となっています。軽自動車市場における実用性重視の傾向の強さが、こうした設計判断に反映されていることは明白です。
しかし、時代は変わりつつあります。EV化やカーボンニュートラル対応が急速に進む中、デザイン性を重視した独創的な軽自動車への需要が高まる可能性も考えられます。スズキが2013年に提案したハスラークーペのコンセプトは、当時としては市場にそぐわないものでしたが、今日的な視点で再評価する価値があるとも言えるでしょう。
現在、スズキは「ジムニーノマド」など、よりユニークな軽自動車の開発・販売に踏み出しており、かつてコンセプトカーであったハスラークーペのような大胆な提案も、将来的に復活する可能性は完全には排除できません。軽自動車市場の今後の展開とともに、ハスラークーペへの関心が再燃する日が来るかもしれないのです。
スズキ公式ハスラーサイト:現行2代目モデルの最新グレード、価格、仕様について確認できます。
軽自動車ペディア「ハスラークーペ内装解説記事」:クーペ市販化の経緯、予想価格、デザイン特徴について詳しく解説しています。