2025年3月上旬、愛知県内でレクサスLX570が盗難被害に遭いました。防犯カメラに記録された映像から、その手口の詳細が明らかになっています。深夜3時を過ぎた時間に白色のレクサスRXが現れ、3人組の男が組織的に盗難を実行。1人が玄関前で見張り役として待機し、別の男がCANインベーダーを使用してドアロックシステムにアクセスします。その後、電動工具を手にした男が運転席に乗り込み、ハンドルロックを切断開始。火花が3回にわたって飛び散り、わずか30秒で3箇所の切断に成功しています。切断完了から逃走まではわずか5分。V8エンジンが始動し、RXとともに現場から消去していったのです。
この事件は組織的な車両盗難グループの典型的な手口を示しており、ハンドルロック単独での防犯効果の限界を露呈させました。特筆すべき点は、被害者がハンドルロックを装着していたにもかかわらず、専門的な工具と技術があれば対抗不可能な状況です。
近年の盗難手口は劇的に進化しています。従来のピッキングやドアロック破壊といった粗暴な方法から、高度な技術を駆使した方法へシフトしているのです。
キーエミュレータ(GAME BOY)の登場
2024年以降、最も深刻な脅威となっているのがキーエミュレータです。この装置は愛称「GAME BOY」と呼ばれ、特にトヨタ・レクサス車を対象にしています。このシステムの恐ろしい点は、クルマに全く傷をつけることなく盗めることです。ドアハンドルをつかんだ時に発する信号をキャッチして解析し、わずか5分から45分程度でスペアキーを現地で製造してしまいます。価格が非常に高額で、1ユーロ160円換算すると最高300万円から500万円近いという、極めて組織的な盗難グループが所有するものです。
CANインベーダーとの組み合わせ
もう一つの主要な技術がCANインベーダーです。フロントバンパー裏から直接アクセスできる、車両のコンピュータシステムに対する攻撃方法です。2024年の統計から、盗難事件の中心的な手口となっています。これとハンドルロック切断を組み合わせると、ハンドルロックはほぼ無効化されてしまいます。
施錠状態の車両が70%以上の確率で盗まれており、盗難場所は自宅と駐車場が66%を占めています。
ハンドルロック単独では不十分であることが明らかになった現在、複数の防犯対策を組み合わせる戦略が不可欠です。
複数の物理的防犯手段の組み合わせ
ハンドルロックに加えて、タイヤロック(ホイールロック)、GPS追跡装置、警報装置の同時装着を推奨します。これらを組み合わせることで、犯人の作業時間が大幅に延長され、盗難リスクを軽減できます。ただし、どの防犯グッズを装備しているかが外から目視できる場合、その対策方法を事前に調べられてしまう危険性があります。
技術的対策の重要性
CANインベーダーやキーエミュレータに対抗するには、純正のセキュリティシステムやディーラーオプションの追加セキュリティが有効です。高級車ディーラーでは、このような新型盗難手口に対応したセキュリティパッケージの提案が増えています。
盗難犯は単なる衝動犯ではなく、組織的な準備を整えて行動します。2~3週間前から入念な下見を実施するのが通例です。複数回の下見を通じて、装備されたセキュリティの種類、周囲の防犯カメラの有無、Nシステムの配置、ヤードまでの逃走ルートを詳細に調査しています。
ハンドルロックは運転席に装着されるため、スモークガラス越しでも外部から容易に確認可能です。盗難グループはここで「どのモデルか」「どこを切断すればよいか」「必要な工具」などを事前に把握して対策を立案します。最近ではハンドルそのものを切断する技術も登場しており、より高度化しています。
警察庁生活安全企画課は2024年3月に「自動車盗難等の発生状況等について~盗難防止機器の活用」を発表し、センサー感知式警報装置、ハンドル固定器具、ホイールロック、GPS追跡装置の活用を推奨しています。しかし、この推奨から数ヶ月後には盗難手口がさらに高度化し、推奨品だけでは対応できない状況が生じているのです。
新車ディーラーでは、従来のハンドルロック販売に加えて、より高度なセキュリティシステムの提案が増加しています。実勢価格は1万円以下のものが中心でしたが、多層防御の重要性が認識されるにつれ、より高額で高機能なシステムへの需要が高まっています。年間6万台以上が盗まれていた2000年代初頭から毎年減少傾向を示していたものの、2021年の底(5182台)を経て、近年またじわじわと増え始めています。
参考リンク:自動車盗難の最新情報と技術的対抗手段について、組織的な盗難グループの手口分析を行うサイト
自動車盗難情報局