a型エンジンのインジェクション化とは、従来のキャブレター方式から電子制御燃料噴射システムへ変更する改造を指します。キャブレターは機械式で負圧を利用して燃料を供給しますが、インジェクションはコンピューターが気温・気圧・酸素量などを測定し、各条件下で必要な燃料を正確に噴射します。A型エンジンはL型と同じターンフロー構造を持ち、インテークとエキゾーストの配置がインジェクション化に適している特徴があります。
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旧車であるサニーやサニトラのa型エンジンは、もともとキャブレター仕様として設計されていました。しかし近年、チューニングショップを中心にフルコン(フルコンピューター)を使用したインジェクション化が広まっており、HKSのF-CON VProやMoTeC、NISTUNEなどの制御システムが利用されています。このシステムでは、4スロットル(4連スロットル)を装着し、各気筒に独立したインジェクターを配置する仕様が一般的です。
参考)https://ameblo.jp/rs-yasu-ken/entry-12924513635.html
インジェクション化には、エンジン本体以外にも多くのパーツが必要になります。クランク角センサー、スロットルポジションセンサー、水温センサー、吸気温度センサー、MAPセンサー、デリバリーパイプ、インジェクター、高圧燃料ポンプ、燃料レギュレーターなどを新たに装着しなければなりません。A型エンジンの場合、デスビ位置にブラケットを製作してクランク角センサーを取り付けるケースが多いですが、フロントカバーをワンオフ加工してカムシャフト先端で信号を取る方法もあります。
参考)GC10ハコスカ インジェクション化 F-CONVPro フ…
キャブレターからインジェクションへ変更する最大のメリットは、季節や環境による影響を受けにくくなることです。キャブレターは気温や気圧の変化に弱く、冬場はエンジンがかかりにくい、標高の高い場所ではかぶる(燃料が濃くなりすぎる)といった問題が頻繁に発生します。これに対しインジェクションは、コンピューターが環境変化に応じて燃料噴射量を自動調整するため、四季を通じて安定した始動性と走行性能を維持できます。
参考)内燃機関超基礎講座
燃費の向上も大きなメリットです。キャブレターはあらかじめセッティングした通りにしか燃料を供給できませんが、インジェクションは走行状態に応じて最適な燃料量を噴射するため、無駄な燃料消費を抑えられます。特にa型エンジンのような旧車では、キャブレター特有の「交差点でブワンブワン吹かす」必要がなくなり、クールに走行できるようになります。
参考)http://flat.dreamblog.jp/blog/10944.html
車検対応の面でも大きなアドバンテージがあります。フルコン化したインジェクション仕様なら、4スロットルの状態(ブローバイ還元は必要)でも車検取得が可能です。昨今、車検が厳しくなっている中で、キャブ車のオーナーは今後さらに苦労すると予想されますが、インジェクション化することでこの問題を回避できます。
参考)【サニトラ読むべし!】サニーやサニトラのエンジンチューンを考…
以下の表は、キャブレターとインジェクションの主な違いをまとめたものです:
項目 | キャブレター | インジェクション |
---|---|---|
制御方式 |
機械式(負圧利用) |
電子制御(コンピューター) |
始動性 | 季節・気温に影響される | 安定して始動 |
燃料調整 | 固定セッティングのみ | 走行状態に応じて自動調整 |
燃費 | 相対的に悪い | 最適化により向上 |
車検対応 | 厳しくなる傾向 | フルコン化で対応可能 |
インジェクション化に必要な主要パーツとして、まずインジェクター本体が挙げられます。4気筒エンジンの場合、各気筒に1本ずつ計4本のインジェクターが必要です。マルチポイントインジェクション方式では、インジェクター交換費用が約100,000円から140,000円程度かかります。ただし、中古パーツや流用パーツを使用することでコストを抑えることも可能です。
参考)「加工が必要なアフターパーツよりも、基本ポン付け可能な純正流…
燃料システムの変更も不可欠です。キャブ車用の燃料ポンプは0.3kg/cm程度の圧力ですが、インジェクション用(NA)は0.8kg/cm〜1.5kg/cmの圧力が必要なため、専用の高圧燃料ポンプに交換しなければなりません。サニトラの施工例では、荷台下側にポンプとフィルターを取り付けてエンジンルームをスッキリさせる工夫が行われています。
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センサー類とECU関連のコストも考慮が必要です。クランク角センサー、スロットルポジションセンサー、水温センサー、吸気温度センサー、MAPセンサーなど複数のセンサーが必要になります。これらのセンサーからの情報を処理するフルコンECUとして、HKSのF-CON VProやMoTeCなどが使用されますが、ECU本体と配線作業だけでも相応の費用がかかります。
参考)キャブ車をインジェクション化するメリットとは?「MoTeC」…
その他の必要部品として、以下のようなパーツがあります:
a型エンジンのコンプリートチューンエンジン+インジェクション仕様として提供しているショップもあり、総合的な費用は数十万円規模になると考えられます。
参考)https://www.rs-yasu.jp/posts/33737568/
インジェクション化で最も重要なのが、クランク角センサーの取り付けとセッティングです。A型エンジンでは36-2トリガーホイールをクランクプーリーに圧入・溶接して固定し、純正のような仕上がりにする方法が一般的です。この作業には旋盤加工が必要で、クーラー付きのダブルプーリーにも対応できるよう設計されています。
スロットル同調の精密な調整も欠かせません。キャブレターでは各気筒が独立して空気の流れに応じて燃料を吸い出すため、スロットルの同調がずれていても空燃比の差異は発生しません。しかしインジェクションでは、コンピューターが吸入空気量を計算して燃料を噴射するため、スロットルの同調が取れていないと各気筒で異なる空燃比になってしまいます。TWM製スロットルは一度合わせた同調がズレにくいという特徴があります。
ECUの初期設定と現車合わせが必須です。キャブからインジェクション&ダイレクトイグニッション化する場合、クランク角センサーが認識しているクランク角度とECU(Vプロなど)の認識角度を一致させる作業に手間がかかります。タイミングライトを使用してモニター画面を見比べながらセルを回すこと数十回、実際のクランク角度とECUが認識している角度が一致してようやく初爆が出始めます。NISTUNEの現車合わせセッティング工賃は、ノーマルエンジンで80,000円(税別)、チューンエンジンで100,000円(税別)程度が目安です。
参考)NISTUNE 現車合わせセッティング工賃(料金)|チューニ…
インジェクション化後によくあるトラブルとして、燃料圧力の不足があります。前述の通り、キャブ車用の燃料ポンプはそもそも使えないため、必ずインジェクション用の高圧ポンプに交換する必要があります。燃料ポンプの能力不足は、エンジン始動不良や加速時のパワー不足につながる重要な問題です。
センサー類の故障や配線トラブルも頻発します。水温センサー、吸気温センサー、スロットルポジションセンサーなど、複数のセンサーからの信号がECUに正しく届かないと、適切な燃料噴射ができません。特にキャブ車からの改造では配線を一から組む必要があるため、配線ミスや接触不良に注意が必要です。配線の取り回しは、専門知識を持った業者に依頼することが推奨されます。
参考)旧車好きなら知っておきたい「エンジンスワップ」について解説
エンジン本体の状態も重要です。圧縮比を上げたチューニングエンジンでは、ノーマルスターターでは確実に回らないため、リダクション式の強化スターターが必須になります。また、ヘッドのポート研磨やバルブ周りの加工を行う場合、フルポート研磨だけでリューターを握りっぱなしで丸2日かかるような作業になります。こうしたエンジン内部の加工精度が、最終的なインジェクションの性能を左右します。
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a型エンジンにターボとインジェクションを組み合わせることで、さらなるパワーアップが可能になります。310サニーのターボ仕様では231馬力を達成した事例があり、イマドキのa型ターボはトルクフルで乗りやすい特性を持っています。従来の「ドッカンターボ」とは異なり、フルコンによる緻密な制御で過給圧を上げなくても乗りやすいセッティングが実現できるようになりました。
参考)310ターボ 231㎰【4】ターボがA型エンジンの在り方を変…
ターボ化とインジェクション化を同時に行う場合、さらに多くのパーツと調整が必要です。ターボチャージャー本体、インタークーラー、ブーストコントローラー、強化クラッチ(メタルディスクは癖があるため注意)など、過給に耐えられる部品への交換が求められます。フルコンECUでは、ブーストアップに対応したマップの作成や点火時期の調整が可能で、これがターボエンジンの性能を最大限引き出すカギとなります。
参考)https://nosweb.jp/nostalgichero/articles/detail/4573
a型エンジンはコンパクトな設計のため、エンジンルーム内でのターボキットの取り付け作業は比較的容易です。しかし、ターボ化すると冷却系の強化も必要になります。純正のリジットファンではチューニングエンジンには役不足であり、電動ファンへの変更が推奨されます。また、オイルキャッチタンクの設置やブローバイ還元の処理も、車検対応のために重要な作業となります。
参考)サニートラックのソレックス44・スポーツインジェクション・ス…
参考となる専門ショップの情報:
RS-YASU:サニトラ エンジン別物に生まれ変わり♪ そして新しくA型インジェクション化もレギュラーメニューに
A型エンジンのインジェクション化をレギュラーメニューとして提供しているショップの施工事例が参考になります。
ツァウベルクラフト:GC10ハコスカ インジェクション化 F-CONVPro フルコン仕様
HKSのF-CON VProを使用したハコスカ(A型エンジン搭載)のインジェクション化の詳細な作業内容が解説されています。