ダイハツ工業の商用車に初めて導入されたDNGA（ダイハツ ニュー グローバル アーキテクチャー）技術は、軽自動車から小型登録車に至るまで共通の設計思想に基づいており、部品の共用化を最大限推し進めることで開発効率化とコスト削減を実現しています。アトレー6代目では、このプラットフォームを採用することで、骨格構造を根本から見直し、車体の軽量化と静粛性の向上を達成しました。従来の軽自動車では難しかった高い剛性と広い室内空間の両立が、DNGA導入により初めて可能になりました。さらに、前後サスペンションのジオメトリー（配置角度）も最適化され、乗り心地の向上と走行安定性の向上が同時に実現されています。この技術的進化により、アトレーは単なる商用車の枠を超えた、質感と機能性の融合を手に入れたのです。
参考に、ダイハツ工業のプラットフォーム開発戦略について。
アトレー6代目に搭載される660cc直3ターボエンジンは、最高出力64馬力を発揮し、全グレードに標準装備されています。エンジン単独の性能だけでなく、軽バン初となるCVT（無段階変速機）との組み合わせにより、従来のATでは実現できなかった加速感とスムーズな走行が可能になりました。特に重要なのは、このCVTがFR（後輪駆動）用に新開発されたという点です。軽商用車の大多数がFR駆動であることから、このCVTの採用により、高速走行時の回転数を最適に保つことで、エンジン効率が大幅に改善されました。ターボエンジンの爆発的な加速力と、CVTのスムーズな制御が融合することで、配送業務など頻繁な発進・停止を繰り返す業務でも、運転者の疲労軽減が期待できます。さらに、このCVTとターボの組み合わせにより、JC08モード燃費値19.7km/Lという優れた燃費性能が実現されています。
ダイハツの公式発表では、アトレー6代目のWLTCモード燃費は14.7km/Lとされています。これは市街地13.3km/L、郊外15.7km/L、高速道路14.7km/Lという内訳となっており、実際の使用状況を反映した燃費データです。ただし、ユーザーの実燃費報告値を集約すると、平均的には12～15km/L程度で推移することが多く、カタログ値との間に若干の乖離が見られます。この理由としては、スポーツドライビングやエアコン多用、重たい荷物の積載といった実際の運用環境の影響が考えられます。特に配送業務で毎日アトレーを使用するユーザーの報告では、走行パターンやルート次第で実燃費が大きく変動することが報告されており、市街地中心の配送では13km/L前後、郊外・高速を多用する業務では15km/L前後になる傾向です。興味深いことに、軽バンの中ではアトレーの燃費性能は優れた部類に入り、同クラスの競合車種と比較しても優位性があります。燃料タンク容量が38Lであることから、実際の航続距離は最大で約560km程度となり、長距離の配送業務でも中間給油を最小限に抑えることが可能です。
参考に、軽商用車の燃費比較情報。
アトレー6代目の全グレードに標準装備される「スマートアシスト」システムは、ステレオカメラを使用した次世代型の予防安全技術であり、実に14種類もの機能を搭載しています。衝突回避支援ブレーキは前方の歩行者や車両を検知し、危険と判断した場合に自動的にブレーキ制御を実行します。車線逸脱警報機能は、走行中に車線から逸脱しようとするのを検知して運転者に警告し、場合によっては自動で修正ステアリング入力を行うレーンキープコントロール（LKC）機能も上位グレードに搭載されています。誤発進抑制制御は、アクセルの踏み間違いを検知して、発進を抑制し事故防止に寄与します。これらの機能は、特に配送ドライバーなど長時間運転する職業ユーザーにとって極めて重要です。さらに、標識認識機能により、進入禁止標識や一時停止標識、最高速度表示を認識し、ドライバーに情報提供することで、より安全な運行管理を実現しています。ADB（アダプティブドライビングビーム）ヘッドランプも上位グレードに設定されており、対向車に配慮しながら最適な照射範囲を自動調整します。これらの機能が全グレード標準装備されることは、軽バンの安全性評価を大きく引き上げるものとなりました。
参考に、ダイハツの安全装備技術について。
アトレー6代目は基本的に3つのグレード構成となっており、まずベースグレードの「X」は2WDが156万2000円、4WDが171万6000円で展開されています。「X」グレードでも基本的な快適装備は充実しており、全車LEDヘッドランプやキーフリーシステム、プッシュボタンスタート、ポップアップ機構付リヤガラスなどを標準装備しています。上位グレードの「RS」は2WDが167万2000円、4WDが182万6000円であり、「X」との差分は約11万円です。このグレードアップにより、オートエアコンや上位仕様のシート材、両側パワースライドドア、より充実した内装トリムなどが加わります。特にパワースライドドアはドライバーの利便性を大幅に高め、配送業務での積み下ろし時間短縮に貢献します。さらに、「RS」には全車速追従機能付ACC（アダプティブクルーズコントロール）がメーカーオプションで設定可能になり、長距離走行時の運転負担軽減が期待できます。デッキバン仕様は2WDが191万4000円、4WDが206万8000円であり、リア部分がオープンデッキとなることで、より多彩な積載ユースに対応できます。4WD駆動方式は、雪道や悪路での安定性を求める企業ユーザーから特に支持されており、初期投資は高いものの、長期的な運用コストの削減につながる場合が多いのです。価格改定については、2024年11月に原材料高騰への対応として全グレードで値上げが実施され、「X」グレードで7万7000円、「RS」と「デッキバン」で各8万8000円の値上げが行われました。
参考に、アトレーの価格・グレード詳細。
アトレーのラインナップの中で見落とされやすいが非常に重要なのが、「フレンドシップシリーズ」の一部である福祉車両「スローパー」仕様です。6代目からは、ウインチボックスの設計が大幅に見直され、従来型よりもより大幅な幅の車いすの乗降が可能になり、乗車スペースも拡大されました。レバーを引くだけで荷室をフラットにできる前倒し機構が新たに追加されており、介護施設の送迎や医療機関への通院支援など、社会福祉の現場でのニーズに対応しています。特に注目すべき点は、スローパー仕様でも通常のアトレーと同等のスマートアシスト安全装備が搭載されることで、被介護者と介護者の両者の安全性が確保されることです。3点式シートベルトが車いす乗車用に標準装備されることにより、固定の安全性が向上しました。また、スローパーは通常のアトレーと異なる価格体系を採っており、企業や施設からの導入需要に対応した特別な融資制度やリース制度が各ダイハツディーラーで用意されています。福祉施設の経営効率化を視野に入れた場合、従来の介護用専用車両と比較して、アトレースローパーの導入コストと汎用性のバランスは極めて優れているといえます。この福祉車両としての活用は、単なる移動手段を超えた、生活の質向上を実現する選択肢として今後注目が集まるはずです。
