現行の4代目ロードスター（ND型）は1.5Lエンジンを搭載するソフトトップモデルと、2.0Lエンジンを備える電動開閉式ハードトップのRF（リトラクタブルファストバック）の2種類で展開されてきました。しかし、先々代の3代目ロードスター（NC型）にはソフトトップボディにも2.0Lエンジンが搭載されており、オープンカーでありながら高い動力性能を求めるファンから「現行ソフトトップに2Lエンジンを」という要望が継続して寄せられていました。
こうした背景を踏まえ、マツダはモータースポーツ活動や関連車両開発を統括するMAZDA SPIRIT RACINGブランドの第一弾市販モデルとして、ソフトトップボディに2.0Lエンジンを搭載する「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」を開発。2025年1月に開催された東京オートサロン2025での正式発表を経て、本格的な販売準備が進められています。この決定は、ロードスターファンにとって一つの大きな転換点となり、スポーツドライビングとオープンエアの快感を両立させる高性能モデルの実現を意味しています。
MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERに搭載される2.0L直列4気筒エンジンは、ロードスターRFに採用されているスカイアクティブG 2.0と同基本スペックを採用しています。総排気量は1998ccで、最高出力は184馬力を7000回転で発生、最大トルクは20.9kg-mを4000回転で発生します。この動力性能は、現行ソフトトップモデルに搭載される1.5Lエンジン（最高出力136馬力、最大トルク15.5kg-m）と比較して約1.4倍の向上を実現しており、クローズドボディのRFに搭載されるエンジンと同等の実力を備えています。
さらに注目すべきは、限定モデルの「12R」に施される専用チューニングです。同モデルではピストン、カムシャフト、シリンダーヘッド、そしてフジツボ製の専用エキゾーストマニホールドが採用され、これらのエンジン内部パーツの最適化により最高出力は200馬力にまで引き上げられます。この200馬力という数値は、スーパー耐久シリーズで培われたマツダのモータースポーツ技術が直結した結果であり、オープンカーでありながらハイパフォーマンスを実現する稀有な存在となっています。
燃料はプレミアムガソリンを使用し、WLTC燃費は約15.8km/lと実用的な値を保っており、環境性能と走行性能のバランスが取られた設計となっています。
動力性能の大幅な向上に対応するため、MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERのシャシーと足回りには専用開発品が採用されています。サスペンションには世界的なサスペンション専門メーカーであるビルシュタイン製のCリング式車高調整タイプが採用され、スポーツ走行を想定した硬さに設定されたスプリングとダンパーの組み合わせにより、しなやかで自由自在なハンドリングを実現します。
さらに、ボディ底面には板厚を増したトンネルブレースが施工され、ボディ全体の剛性が向上。これにより、2.0Lエンジンの高いトルク出力をボディ全体でしっかり受け止め、パワーロスを最小化する設計となっています。
ホイールはレイズ（RAYS）製の鍛造アルミホイールが専用開発されたもので、軽量化により不感時間の短縮と応答性の向上を実現。バネ下重量の軽減は乗り心地と操縦性の両面に大きな影響を与え、運動性能全体の底上げに貢献しています。
ブレーキシステムもアップグレードされ、フロントにはブレンボ製の対向4ピストンキャリパー（レッド塗装）を標準装備。リアブレーキもローターが大型化され、制動力は大幅に強化されており、より高い走行性能に対応した制動能力が確保されています。
MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERの価格体系は2つのグレードで構成されています。量産モデルの標準グレードは500万円台の前半となる予想で、約500～520万円程度と見込まれています。この価格には、ビルシュタイン製車高調、レイズ製鍛造アルミホイール、フジツボ製スポーツマフラー（ステンレス）、ブレンボ製対向4ピストンブレーキキャリパーなど、チューニングカーとしての完成度を高める装備が標準で含まれています。
一方、200台限定販売の特別仕様車「12R」は700万円台の後半、予想で700～780万円程度とされています。12Rではエンジン出力が200馬力に高められるとともに、フジツボ製専用エキゾーストマニホールド（バンテージ巻き）、レカロ製フルバケットシート、アルミ製タワーバーが追加装備され、より本格的なサーキット対応を実現しています。
参考として、現行ロードスターのソフトトップモデルで最もスポーティなグレード「RS」の価格は約367万9500円。MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERの量産モデルはここから150万円程度高くなりますが、エンジン排気量の拡大とそれに伴う専用チューニング、各種パフォーマンス部品の採用により、価格以上の価値が提供される設計となっています。
MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERの販売スケジュールは既に明確に告知されています。2025年秋、具体的には10月ごろに商談予約受付が開始される予定で、その後2025年11月ごろに正式発表が行われ、年内の販売開始を目指すという段階的な進め方が取られています。
この予約制度により、興味のあるユーザーは早期に購入枠を確保することが可能となります。特に200台限定の「12R」については、抽選方式で販売対象者が決定される可能性が高いとされており、予約時点での応募が必須となる見込みです。販売店では既に情報収集と顧客ニーズの把握が進められており、ロードスターファンの間でも高い関心が集まっています。
東京オートサロン2025での公式発表以降、マツダの公式Webサイトや販売店での詳細情報提供がさらに充実することが予想され、2025年夏から秋にかけて、より具体的な詳細スペックやオプションパーツの情報が続々と明かされる可能性があります。購入を検討している方は、販売店への早期相談と情報収集を強くお勧めします。
MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERには、基本装備に加えてさらなるカスタマイズを可能にする豊富な専用オプションパーツが用意されています。これらはマツダ・スピリット・レーシングチームがスーパー耐久シリーズでの実戦経験に基づき選定した、信頼性と性能の両立したメーカーとのコラボレーション成果です。
外装面ではハーフリバース対応の専用エアロパーツが標準化されており、一層アグレッシブなスタイリングを実現しています。内装ではアルカンターラ調の人工皮革がダッシュボードやセンターコンソールに貼り込まれ、光の反射を抑えながらドライビングに集中できる上質な環境を提供します。
オプション設定では、チタン製マフラー（フジツボ製）による軽量化と音質改善、強化ブッシュとショートバンプストッパーを組み合わせた「スポーツアライメントキット」による足回りのさらなるシャープ化、ブレンボ製スリットローターとスポーツパッドの組み合わせによる「ブレーキセット」による制動性能の追求など、多段階のカスタマイズが可能です。
さらに、サーキット走行を想定したオプションとしてサベルト製4点式ハーネス（MAZDA SPIRIT RACINGロゴ入り）や、横浜ゴム製アドバン NEOVA AD09といったハイグリップタイヤなども設定されており、街乗りからサーキット走行まで、用途に応じた細かなチューニングが実現可能な設計となっています。
MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERの登場により、ロードスターのラインアップ構成に興味深い変化が生じています。従来は1.5Lソフトトップと2.0Lハードトップ（RF）の二者択一的な選択肢でしたが、新モデルの追加により、2.0Lエンジンの動力性能とソフトトップのオープンエアという相反する特性を両立させるという、新しいカテゴリが確立されました。
現行のロードスターRFは2.0Lエンジンと電動開閉式ハードトップの組み合わせで、全天候対応と高性能を同時実現するプレミアムオープンカーとしての地位を保ちます。一方、MAZDA SPIRIT RACING ROADSTERは、スーパー耐久シリーズで培われたレーシング技術を活用し、ハードコアなドライバー層をターゲットとした本格スポーツモデルとしての差別化を図っています。
価格帯でも2.0Lロードスターは明確に上位グレードとして位置付けられ、RF標準グレード（約600万円前後）との競合よりは、むしろ限定市販スペシャルモデルとしての希少価値と実力を兼ね備えた製品として企画されています。このため、マツダとしても販売数量の制限を視野に入れた生産管理と品質確保がなされる見込みで、ロードスターファンにとってはまさに「最高峰のロードスター」といえる位置づけとなるでしょう。
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