排気ガス規制ディーゼルから理解する環境対策と維持費

ディーゼル車の排気ガス規制は環境保護のために厳格化され、NOxやPMの削減が求められています。DPFなどの装置や地域規制、メンテナンス費用について知りたくありませんか?

排気ガス規制ディーゼル

ディーゼル排気ガス規制の重要ポイント
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規制物質の削減

NOx(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)が主要な規制対象で、人体への健康被害を防ぐため段階的に強化

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浄化装置の導入

DPF(微粒子捕集フィルター)やSCR(選択触媒還元)など、排気ガスをクリーンにする装置が標準装備

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地域別規制の存在

東京都や埼玉県など首都圏を中心に、基準を満たさない車両の運行を禁止する条例が実施中

ディーゼル車の排気ガス規制は、大気環境の改善と健康被害の防止を目的として段階的に強化されてきました。日本では1974年に初めてディーゼル車に対する規制が開始され、当初はNOx(窒素酸化物)のみが対象でしたが、1994年からはPM(粒子状物質)も規制対象に加えられました。これらの有害物質は、光化学スモッグの原因となるだけでなく、呼吸器系への悪影響や肺がん、喘息などの健康被害を引き起こす可能性があるため、厳格な規制が必要とされています。
参考)https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/research-meeting/h18-01/1802-diesel.pdf

規制は昭和58年規制から始まり、平成元年規制、短期規制(平成6年)、長期規制(平成9~11年)、新短期規制(平成15~16年)、新長期規制(平成17年)、そしてポスト新長期規制(平成21年)へと段階的に強化されてきました。現在では、平成22年(2010年)排出ガス規制に対応したクリーンディーゼル車が主流となっており、DPFなどの後処理装置の搭載が標準化されています。
参考)ディーゼル車規制条例 - Wikipedia

ディーゼル排気ガス規制の歴史と段階的強化

日本におけるディーゼル車の排気ガス規制は、1974年の昭和49年規制から始まりました。この初期規制ではNOxのみが対象で、49年使用過程車比80%への削減が求められていました。当時の対応技術としては、燃焼室形状の変更、噴射ポンプやノズルの改良、EGR(排気ガス再循環)の追加などが採用されました。​
1990年代に入ると、浮遊粒子状物質による健康影響が社会問題化し、1994年の短期規制からPMも規制対象に加えられました。これにより、ディーゼル車はNOxとPMという相反する関係にある物質を同時に低減する必要に迫られました。NOxを減らそうとするとPMが増加し、PMを減らそうとするとNOxが増加するというトレードオフの関係があるため、技術開発には高度な工夫が求められました。
参考)【夏休み特別篇:第1話】自動車排出ガス規制の歴史 - 株式会…

2000年代以降は規制がさらに厳格化され、平成15~16年の新短期規制、平成17年の新長期規制、平成21年のポスト新長期規制へと進展しました。特に2010年以降に生産された車両は平成22年排出ガス規制に適合することが求められ、DPFやSCRなどの高度な後処理装置の搭載が義務化されました。
参考)302 Found

興味深いことに、規制の強化は単なる環境保護だけでなく、自動車産業の技術革新を促進する契機ともなりました。各メーカーは規制をクリアするために、コモンレールシステムやターボチャージャーの改良、電子制御技術の高度化など、様々な技術開発を進めてきました。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/05139373a6c6511d964625c204426067d3d7cad0

ディーゼル車のNOxとPM削減技術の仕組み

ディーゼルエンジンから排出されるNOxとPMを削減するため、現代のディーゼル車には複数の浄化装置が搭載されています。主要な装置としては、DOC(ディーゼル酸化触媒)、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)、SCR(選択触媒還元)、そしてアンモニア酸化触媒が挙げられます。
参考)PMとNOxは減らせる!? ディーゼル車の排ガス浄化装置DO…

DPFは、排気ガス中のPM粒子をフィルターで物理的に捕集する装置です。フィルターは微細なメッシュ構造をしており、PMを効果的に捕捉します。しかし、PMが蓄積し続けるとフィルターが目詰まりを起こし、排気ガスの排出が困難になるため、定期的な再生が必要です。再生のプロセスでは、インジェクターから軽油を追加噴射(ポスト噴射)し、DOCを通過させて酸化反応を起こすことでDPF内の温度を約600℃まで上昇させ、蓄積した煤を燃焼させます。
参考)【ディーゼル】DPFの再生方法を解説!DPF・DPR・DPD…

SCRシステムは、NOxを削減するための装置で、尿素水溶液(アドブルー)を排気ガスに噴射することで、NOxを無害な窒素と水に分解します。この技術により、ディーゼル車でもガソリン車並みのクリーンな排気ガスを実現することが可能になりました。
参考)ディーゼル車維持費!11年目に直面する増税とメンテナンス費用…

注目すべき点として、これらの装置は単独で機能するのではなく、DOC、DPF、SCR、アンモニア酸化触媒が連携して作動することで、高い浄化効果を発揮します。また、DPFの再生は自動的に行われる連続再生式が主流となっており、運転者が特別な操作をする必要はほとんどありません。ただし、短距離走行が多い場合や低速走行が続く場合には、DPFの温度が十分に上昇せず、再生不良を起こす可能性もあるため注意が必要です。
参考)DPFとは?DPF再生・洗浄の重要性と警告灯の対処法

ディーゼル規制対象地域と罰則の実態

ディーゼル車の排気ガス規制は、国の基準に加えて地方自治体独自の条例によっても実施されています。特に首都圏では、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の1都3県が2003年10月1日から厳格なディーゼル車規制を開始しました。これらの地域では、条例で定めた粒子状物質排出基準を満たしていないディーゼル車の運行が禁止されています。
参考)ディーゼル規制とは?規制対策・車検対策から罰則・下取りの内容…

対象車種は、軽油を燃料とするトラック、バス、およびこれらをベースに改造した特種用途自動車です。具体的には、1・4・6ナンバーの貨物自動車、乗車定員11人以上の乗合自動車、8ナンバーの特殊用途自動車が該当します。ただし、初度登録から7年間の猶予期間が設けられており、この期間内に基準適合車への買い替えやDPFの装着などの対策を講じることが求められました。
参考)条例の主な内容:九都県市あおぞらネットワーク

規制に違反した場合の罰則は厳しく、基準を満たさないディーゼル車を運行させた者には運行禁止命令が出され、命令に従わない場合は50万円以下の罰金が科せられます。この規制の実施により、九都県市の大気環境は大幅に改善され、令和元年度には1都3県の全測定局でNO2環境基準が達成されるという成果を上げています。​
さらに、愛知県、三重県、兵庫県などの都市部でも同様の規制が実施されており、全国的な広がりを見せています。旧式のディーゼル車でも、DPFを装着することで規制対象から外れることが可能で、適合証明ステッカーが貼付されます。ただし、この措置は2007年までに生産された車両が対象であり、平成22年排出ガス規制に対応したクリーンディーゼル車は最初から対象外となっています。
参考)ディーゼル車規制とは?撤廃される?対象車種や対策を解説 - …

ディーゼル車の維持費とメンテナンス費用

ディーゼル車は燃費の良さと燃料代の安さがメリットですが、メンテナンス費用についてはガソリン車と異なる点が多くあります。特に10年以上経過したディーゼル車では、エンジン内部の部品摩耗によりメンテナンスコストが増大する傾向があります。
参考)ディーゼル車維持費の真実!知られざるコストを徹底解説 - ト…

ディーゼル車特有のメンテナンス項目として、まずアドブルー(尿素水溶液)の定期的な補充が必要です。これはSCRシステムでNOxを削減するために使用される液体で、オイル交換と併せて補充することが推奨されています。補充費用は比較的安価ですが、忘れると排気ガス浄化性能が低下するため注意が必要です。​
最も高額なメンテナンス項目がDPFの交換・洗浄です。DPFは排気ガス中のPMを捕集するフィルターで、定期的な洗浄が必要となり、場合によっては交換も必要になります。交換費用は10万円以上になることもあり、車両の維持費を大きく押し上げる要因となります。一般的には6万キロメートルごとにDPFのメンテナンスが推奨されており、長距離を走行する車両ほど頻繁なメンテナンスが必要です。​
エンジンオイルの交換頻度もガソリン車より高く、費用もかかります。ディーゼルエンジンは圧縮比が高く、燃焼時に燃料の燃えかすが多く出るため、ガソリン車が1万5000kmまたは1年に1回の交換で済むのに対し、ディーゼル車は1万kmまたは1年に1回の交換が必要です。また、燃料に含まれる硫黄成分の影響でエンジン内部が汚れやすいため、より高価なオイルを使用することが求められます。​
一方で、ディーゼル車の燃費はガソリン車より2~3割ほど良く、軽油はガソリンより20~30円安いため、燃料代の面では大きなメリットがあります。例えばマツダCX-5の場合、ディーゼル車のWLTCモード燃費が17.4km/Lであるのに対し、ガソリン車は14.6km/Lと、明確な差があります。長距離を頻繁に走行するユーザーにとっては、メンテナンス費用の増加分を燃料代の節約で相殺できる可能性が高いと言えます。
参考)ディーゼル車とは?ガソリン車との違いやメリット・デメリット、…

将来の排気ガス規制と電動化の影響

欧州では、さらに厳格な排気ガス規制である「ユーロ7(Euro 7)」の導入が進められています。ユーロ7は、気候変動対策の一環として欧州委員会が定める新たな規制で、2030年までに温室効果ガス排出を55%削減するという欧州グリーンディールの目標達成に向けた重要な政策です。
参考)欧州の排ガス規制「ユーロ7」とは?開始の時期や概要を解説 -…

ユーロ7の注目すべき特徴は、電気自動車を含むすべての車両を対象に統一規格による基準を採用することです。従来のユーロ6では車種別に異なる規制が設定されていましたが、ユーロ7ではトラックやバスなど大型車両の規制が大幅に厳しく強化されています。また、従来対象外だったN2O(一酸化二窒素)の排出制限が追加され、CO2以上に地球温暖化を引き起こすこの物質の削減が求められています。​
さらに画期的なのは、車のブレーキやタイヤから排出されるマイクロプラスチックも世界で初めて規制基準の対象となることです。電気自動車のバッテリー耐久性に関する基準も新設され、資源の節約にも配慮した包括的な規制となっています。ユーロ7では、専用の測定器を使用してデジタル技術を積極的に活用し、より正確な排出量測定を実施することも決定されています。​
当初、ユーロ7は乗用車・バンが2025年度、大型車が2027年度から開始される予定でしたが、自動車業界やEU加盟国の一部から基準の修正や期間調整を求める声が上がり、現在は2028年以降に適用される見通しとなっています。
参考)EU、次期排ガス規制案「Euro 7」に政治合意、内容は欧州…

日本でも欧州の動向を注視しており、都市部でのトラック・バス・ディーゼル車を対象とした特別な排出ガス規制が継続されています。東京都、大阪府、愛知県などの都市部では、NOxやSPM(粒子状物質)の排出量を規制し、大気環境の改善に取り組んでいます。また、公道を走行しない特定特殊自動車(ショベルカー、ブルドーザー、コンバインなど)に対する「オフロード法」も施行されており、一定基準をクリアした基準適合表の所持が義務付けられています。​
参考リンク:欧州の排ガス規制「ユーロ7」の詳細については、欧州委員会の公式発表や環境省の資料で最新情報が確認できます。

 

環境省|ディーゼル車対策技術評価検討会
参考リンク:東京都のディーゼル車規制の具体的な内容と運行禁止の詳細が掲載されています。

 

東京都環境局|ディーゼル車規制の内容
参考リンク:DPFの仕組みと再生方法について技術的な詳細が説明されています。

 

TDKテクマグ|クリーン・ディーゼル・エンジン その1「DPF」