道路交通に関する条約(1968年)とウィーン条約締約国の国際運転免許証

1968年に締結されたウィーン道路交通条約は、国際的な交通ルールを統一し安全性を高めるための重要な国際条約です。日本が未批准である理由や自動運転への対応、ジュネーブ条約との違いについて、自動車を運転するあなたが知っておくべき情報をまとめました。海外ドライブを計画する際、どの条約が関係するかご存知ですか?

道路交通に関する条約(1968年)とは

この条約の3つの重要ポイント
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国際的な交通ルールの統一

86カ国が批准し、主にヨーロッパ諸国で統一的な交通ルールを実現

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自動運転技術への対応

2016年3月に改正され、自動運転システムの使用が条件付きで認められた

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国際運転免許証の相互承認

締約国間で国際運転免許証が有効となり、国際移動が容易に

道路交通に関する条約(1968年)の基本概要と締結の背景

道路交通に関する条約(1968年)は、一般に「ウィーン交通条約」または「ウィーン道路交通条約」として知られる国際条約です。この条約は、国際連合経済社会理事会の交通に関する会議において、1968年10月7日から11月8日まで協議が行われ、1968年11月8日にオーストリアのウィーンで正式に締結されました。条約の発効は1977年5月21日で、2024年7月時点で86カ国が当事国となっています。

 

この条約が締結された主な目的は、条約締結国の間で国際的な交通を容易にし、また統一的な交通ルールを設定することで道路の安全性を高めることにあります。第二次世界大戦後の国際化やモータリゼーションの進展に伴い、国境を越えた自動車交通が増加する中で、各国の交通ルールの違いが事故やトラブルの原因となっていました。ウィーン条約は、こうした課題に対応するため、道路標識や信号の標準化、運転免許証の国際的な相互承認など、多岐にわたる内容を定めています。

 

条約の第48条により、従来の道路交通条約、特に1949年の道路交通に関する条約(通称ジュネーヴ交通条約)に取って代わる条約として位置づけられています。ただし、実際には両条約が並存しており、国によって批准している条約が異なるという状況が続いています。この会議では同時に「道路標識及び信号に関するウィーン条約」も締結され、交通標識の国際的な統一化も図られました。

 

道路交通に関する条約(1968年)と日本の関係性

日本はウィーン道路交通条約(1968年)を批准していません。この理由は、日本が既に1949年のジュネーブ道路交通条約を批准しており、それに基づいて国内の道路交通法や関連法規を整備してきたためです。ウィーン条約に加盟するためには、日本の国内法を大幅に改正する必要があり、そのコストや労力を考慮すると、現時点では加盟の必要性が低いと判断されています。

 

日本と同様に、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどもウィーン条約を批准していません。これらの国々も既にジュネーブ条約を批准しており、独自の交通法規を確立しているため、ウィーン条約への加盟には消極的です。ただし、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ベルギーなどのウィーン条約加盟国とは、日本は個別に二国間道路交通協定を結んでおり、日本で発行された国際運転免許証でこれらの国での運転が可能となっています。

 

日本が発行する国際運転免許証は、ジュネーブ条約の様式に基づいており、基本的にはジュネーブ条約締約国でのみ有効です。しかし、前述の二国間協定により、一部のウィーン条約加盟国でも使用できるようになっています。逆に、ウィーン条約に基づいて発行された国際運転免許証は、原則として日本国内では使用できません。ただし、ジュネーブ条約締約国が発給した国際運転免許証であれば、日本への上陸日から1年間(免許証の有効期間内に限る)は日本国内での運転が認められています。

 

道路交通に関する条約(1968年)における自動運転技術への対応

ウィーン道路交通条約は、当初、第8条第1項で「自動車にはドライバーがいなければならない」とし、第8条第5項と第13条1項で「ドライバーによるコントロールがなされなければならない」と規定していました。第13条では具体的に「運転者はいかなる状況においても、必要な操作を実行する立場にいつもいることができるよう車両を制御下におかねばならない」と定めており、この規定は完全自動運転車の実用化において大きな障壁となっていました。

 

こうした課題に対応するため、国連の欧州経済委員会の道路交通安全作業部会(WP1)において、条約改正に向けた議論が進められました。その結果、2014年3月にウィーン条約の改正案が採択され、2016年3月に施行されました。改正された第8条第6項では、「自動運転システムが国際基準に適合している場合、または運転者による優先制御もしくは電源切断が可能な場合は、条約上許容される」という内容が追加されました。

 

この改正により、運転者が乗車していて、即座に人間による運転に切り替えることが可能な状態であれば、自動運転システムの使用が合法となりました。つまり、完全な無人自動運転ではなく、いわゆる「レベル3」の自動運転までが条約上認められることになったのです。さらに興味深いのは、2016年3月のWP1における合意で、公道実証実験に関しては、自動車を制御するドライバーが車内にいるか否かを問わないこととされ、遠隔操作による公道実証実験が現行の道路交通条約の解釈上可能であることが確認された点です。

 

道路交通に関する条約(1968年)とジュネーブ条約の違い

道路交通に関する主要な国際条約には、1949年のジュネーブ道路交通条約と1968年のウィーン道路交通条約の2つがあり、両者には重要な違いがあります。まず締約国の違いですが、ジュネーブ条約は日本、アメリカ、カナダなどが批准しているのに対し、ウィーン条約は主にヨーロッパ諸国85カ国以上が加盟しており、地域的な特色が明確です。

 

国際運転免許証の様式も両条約で異なります。ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証は、日本をはじめとする締約国で発行される形式で、ウィーン条約の国際運転免許証とは互換性がありません。このため、海外でレンタカーを利用する際には、渡航先がどちらの条約に加盟しているかを事前に確認する必要があります。

 

自動運転に関する規定の改正状況にも大きな違いがあります。ウィーン条約は2016年3月に改正が施行され、条件付きで自動運転が認められるようになりました。一方、ジュネーブ条約についても2015年3月に同様の改正案が採択されましたが、批准国の多数の賛成が得られず、施行には至っていません。このため、自動運転技術の法的扱いについて、両条約の間でずれが生じているという課題があります。

 

また、条約改正の手続きにも違いがあり、ウィーン条約は比較的スムーズに改正が進んだのに対し、ジュネーブ条約は加盟国の合意形成が困難という問題を抱えています。これは、ジュネーブ条約の加盟国がより多様で、交通事情や法制度が大きく異なることが影響していると考えられます。

 

道路交通に関する条約(1968年)が定める運転者の義務と車両管理

ウィーン道路交通条約では、運転者の義務と車両管理について詳細な規定を設けています。特に重要なのは第8条と第13条で、これらは道路交通の安全性を確保するための基本原則を定めています。第8条第1項では、すべての自動車には必ずドライバーが存在しなければならないという原則を明確にしており、無人運転は原則として認められていませんでした。

 

第13条では、運転者の責任について具体的に規定しており、「運転者はいかなる状況においても、道路の状況、交通状況、視界の状況を考慮し、必要な操作を実行する立場にいつもいることができるよう車両を制御下におかねばならない」と定めています。この規定は、運転者が常に車両を完全にコントロールできる状態を維持することを求めており、運転中のスマートフォン使用や居眠り運転などを防止する法的根拠となっています。

 

2016年の改正後も、これらの基本原則は維持されつつ、技術の進歩に対応する形で柔軟性が加えられました。改正された第8条第6項により、自動運転システムの使用が条件付きで認められましたが、その条件として「運転者による優先制御が可能であること」または「システムの電源切断が可能であること」が求められています。つまり、完全な無人運転ではなく、あくまでも運転者が最終的な責任と制御権を持つことが前提となっているのです。

 

車両の整備や安全基準についても、条約は加盟国に対して国際基準に沿った規制の整備を求めています。これには、ブレーキシステム、照明装置、方向指示器などの基本的な安全装置の装備義務が含まれます。また、車両の定期的な検査や整備の実施も推奨されており、加盟国はこれらの基準を国内法に取り入れることが期待されています。

 

日本の道路交通法も、これらの国際基準を参考にしながら、運転者の安全運転義務や車両の整備基準を定めています。ただし、日本はウィーン条約ではなくジュネーブ条約の締約国であるため、直接的な適用関係はありませんが、国際的な調和の観点から、両条約の内容は相互に影響を及ぼし合っています。

 

海外でレンタカーを借りる際に知っておきたい参考情報として、ジュネーブ条約締約国の一覧や国際運転免許証の取得方法については、各都道府県警察のウェブサイトで詳細が確認できます。

 

埼玉県警察:国外運転免許証の申請手続
ウィーン道路交通条約の全文や最新の改正状況については、国連欧州経済委員会(UNECE)の公式サイトで英文の条約テキストが公開されています。自動運転技術の発展に伴う条約改正の議論も継続的に行われており、今後さらなる改正の可能性もあります。