ホンダのF1エンジンは「信頼性が高い」と思っていませんか?実は2026年開幕テストで、アストンマーティンのバッテリーは4基中2基が損傷し、予備ゼロという絶体絶命の状態でシーズンに突入しました。
アストンマーティンF1チームは、2021年にF1へ復帰したばかりの比較的新参チームに見えます。しかし実際には、1990年代に遡る長い歴史とホンダとの縁を持っています。
このチームの前身はエディ・ジョーダンが1991年に設立した「ジョーダン・グランプリ」です。ジョーダンはフォード、ヤマハ、ハート、プジョーとエンジンを乗り換えながら活動を続け、1998年から2000年までは「無限ホンダ」エンジンを搭載していました。この時期のジョーダンは、1998年のランキング4位、1999年のランキング3位と好調で、ホンダとの組み合わせで輝かしい成績を残しています。
さらに2001年にはホンダとの正式契約を締結し、「ジョーダン・ホンダ」として戦いました。2002年の日本GPでは佐藤琢磨がF1デビューを果たし、同レースで5位入賞という印象的なシーンを生んでいます。つまり、2026年のアストンマーティン・ホンダは「再びの組み合わせ」とも言えるわけです。意外ですね。
その後チームは、ミッドランドF1→スパイカーF1→フォース・インディア→レーシングポイントと名称と運営母体を変え続けました。フォース・インディア時代にメルセデスエンジンへ切り替えた2009年以降は成績が向上し、セルジオ・ペレスが5回の表彰台を達成するほど競争力あるチームへと成長しました。
2020年、大富豪ローレンス・ストロールがチームを買収し、アストンマーティン社の株式を取得した上で2021年から「アストンマーティンF1チーム」として61年ぶりのF1参戦を果たしました。2021年から2025年はメルセデス製パワーユニットを搭載し、セバスチャン・ベッテルやフェルナンド・アロンソといった元王者を擁して活動。そして2026年、ついにホンダとのワークス契約を結ぶことになったのです。
アストンマーティンF1チームの変遷・歴史を詳しく解説(F1速報)
2026年に投入された「RA626H」は、F1史上最大規模と言われるレギュレーション改定に対応した完全新設計のパワーユニットです。
最大の特徴は、内燃機関と電気モーターの出力比率が「ほぼ50:50」になったことです。2025年シーズンまでは内燃機関が出力全体の約80〜85%を担い、電気モーターは補助的な役割にすぎませんでした。2026年からはMGU-Kの最高出力が従来の120kW(約163馬力)から350kW(約476馬力)へと約3倍に引き上げられました。わかりやすく言えば、電気モーターだけで大型乗用車1台分以上の馬力を発生させる計算です。
内燃機関は引き続き1.6リッターV6ターボを採用しています。これが基本です。ただし使用燃料は2026年から100%サステナブル燃料(持続可能燃料)が義務付けられ、環境面でも大きな変革を遂げました。
また、1周あたりに回生できるエネルギーの上限も従来の4MJから8.5MJへと2倍以上に引き上げられました。回生したエネルギーをバッテリーに蓄え、次のストレートで放出するサイクルが、チームの戦略とドライバーの腕前に直結する「エネルギーマネジメント」の時代が本格的に始まりました。
シャシーとの統合面では、アストンマーティン独自製の8速セミオートマチック・トランスミッションとRA626Hを組み合わせることで、パッケージングの自由度を最大化しています。車両重量は768kg(ドライバー込み・燃料除く)と定められており、ホイールベースは最大3,400mm、全幅は最大1,900mmと2025年型より小型化されています。
なお、F1界での技術的蓄積はホンダのEVや航空機エンジンにも波及します。高効率燃焼技術やターボの高速回転技術は、eVTOLや持続可能な航空燃料(SAF)の開発にも活用されているという点は、一般ユーザーとしても注目に値します。
ホンダ公式:RA626H発表会の全スピーチ内容と技術説明(本田技研工業)
2026年プレシーズンテストでアストンマーティン・ホンダが直面した苦境は、多くのF1ファンの予想をはるかに超えるものでした。深刻です。
第1回合同テスト(バルセロナ)では、他チームがシェイクダウンや事前走行を済ませた状態で臨んだのに対し、アストンマーティンは開発の遅れから遅れて合流、初日はわずか4〜5周で走行を終えるという惨状でした。続くバーレーンテストでも問題は連続し、振動・バッテリートラブル・PUパーツ不足が重なりました。
プレシーズンテスト3回を通じた総走行距離は約2,100kmで、全11チーム中最少となりました。首位のメルセデスが記録した2,365kmは1回のテストの話であり、新規参戦のキャデラックですら約4,000kmを走破したことを考えると、その差が際立ちます。トップチームからのタイム差は約4秒でした。
特に深刻だったのがバッテリー問題です。アストンマーティンはオーストラリアGP開幕戦に4基のバッテリーを持ち込みましたが、コンディショニング異常と通信トラブルにより2基を失い、残り2基で戦わざるを得ない状況に追い込まれました。エイドリアン・ニューウェイ自身が「予備がない」と認め、「かなり恐ろしい状態」と語ったほどです。
さらに、燃料がバッテリーの振動を抑えるダンパーの役割を果たすため、ホンダ側が低燃料走行を大きく制限。これにより予選シミュレーションすら十分に行えず、スタート練習も未消化のままオーストラリアGPに突入することになりました。フェルナンド・アロンソは「バーレーンと大きな違いは感じなかった」と率直に語っています。
ニューウェイが語ったホンダ人材流出問題の詳細(topnews.jp)
2026年シーズン開幕に向けた苦境の根本には、ホンダの組織的な問題が横たわっています。これは見逃せない視点です。
エイドリアン・ニューウェイは、2025年11月に東京を訪問して初めてある事実を知ったと明かしています。ホンダが2021年末にF1から撤退した後、体制を再構築した際、レッドブルとチャンピオンを獲得した経験豊富なエンジニアの多くが「太陽光パネル開発など別の仕事」に転じており、F1現場に戻ってきていなかったのです。ニューウェイの言葉を借りれば、「再編されたチームの多くは実際にはF1経験の浅い人材で、以前のような経験値はなかった」とのことです。
さらに追い打ちをかけたのが、予算制限(バジェットキャップ)の問題です。ホンダが本格的にF1再参入を決めた2023年は、ちょうどエンジン(PU)にも予算上限規定が導入された最初の年でした。メルセデス・フェラーリ・レッドブルといったライバルはこの制限導入前から開発を継続できていたのに対し、ホンダは「当初の約30%の体制で戻ってきた上に、すでに予算制限の時代に入っていた」(ニューウェイ談)という、二重の不利な条件でのスタートを強いられました。
回生能力についても深刻な問題が指摘されています。BBCの報道によれば、RA626Hは本来350kWの電動出力を発揮すべきところ、規定の想定する下限値とも言える250kWにも達していない可能性があると伝えられました。これが事実であれば、最大で約100kWの差が生じる計算となり、ライバルがストレートエンドまでモーター全開で加速し続ける中、アストンマーティンは途中でモーターが止まる、という深刻な競争力不足を意味します。また、PUが15kg近い重量超過にあるとも取り沙汰されています。つまり性能、信頼性、重量の三重苦というわけです。
ネガティブな話題が続く一方で、舞台裏では巻き返しに向けた具体的な動きも始まっています。これは使えそうです。
スペインのF1解説者アントニオ・ロバトは、ホンダがさくら(栃木県・HRC本拠地)において改良型「Bスペック」エンジンの開発に全力で取り組んでいると報告しています。FIAのバランス・オブ・パフォーマンス規定によれば、トップメーカーのPUとの出力差が2%以上確認された場合、最短で第7戦という早い段階から改訂仕様を投入する道が開かれています。つまり序盤を耐えれば、シーズン中盤以降に「別のマシン」として登場できる可能性があるということです。
また、アンディ・コーウェルCSOが実際に日本へ渡り、HRCのエンジニアと密接に協力しているとされます。コーウェルはかつてメルセデスAMGハイパフォーマンスパワートレインズ(HPP)の代表として8連覇時代の最強エンジンを作り上げた人物です。このメルセデスのノウハウを持つ人間がホンダのエンジン改善を直接支援していることは、長期的な競争力向上への期待材料です。
シャシー面では、ニューウェイ自身が「6〜8戦後には空力面でグリッド最高のシャシーになる」と確信しているとも伝えられています。ニューウェイが設計に携わったマシンは、ウィリアムズ・マクラーレン・レッドブルで合計25ものタイトルを獲得しています。エンジン問題さえ解決すれば、シャシーのポテンシャルによる大逆転も決して夢物語ではないかもしれません。
2027年に向けては、内燃エンジンの出力を大幅に引き上げることが最優先課題とニューウェイも述べており、来季以降の本格的な競争力向上を見据えたロードマップも存在します。目下の苦境は長期計画の中の「序章」と捉える視点も重要です。
ホンダエンジンの最新動向を追いたいファンには、HRCの公式サイトでパワーユニット開発に関するアップデートが随時発信されているのでチェックしてみましょう。