
図解入門よくわかる最新全固体電池の基本と仕組み[第2版] (How-nual Visual Guide Book)
トヨタ自動車は2027年から2028年にかけて、全固体電池を搭載した電気自動車(BEV)の実用化を目指しています。当初はハイブリッド車への搭載を計画していましたが、電池寿命の短さを克服する技術的ブレイクスルーを発見したことで、方針を転換しBEV向けの開発に集中することになりました。
参考)トヨタの全固体電池、27-28年実用化へ前進! 住友鉱山と協…
2023年10月には出光興産との協業を発表し、硫化物系固体電解質の量産技術開発と生産性向上、サプライチェーン構築に共同で取り組むことを決定しています。出光興産は2024年10月に固体電解質の大型パイロット装置の基本設計を開始し、年間数百トンという世界トップクラスの生産規模を予定しています。
参考)出光興産、全固体電池向け固体電解質の大型パイロット装置の基本…
2025年10月には住友金属鉱山と全固体電池用の正極材量産に向けた共同開発契約を締結しました。両社は2021年頃から共同研究を進め、充放電を繰り返す中での正極材の劣化という課題に取り組み、住友金属鉱山の独自の粉体合成技術を活用して「耐久性に優れた正極材」を新たに開発しています。
参考)住友金属鉱山とトヨタ、全固体電池用の正極材量産に向けて協業
トヨタの全固体電池による航続距離は、現行のEV「bZ4X」向けリチウムイオン電池の約2.4倍となる約1200キロメートルを目標としています。さらに急速充電時間は10分以下を目指しており、ガソリン車並みの利便性を実現する計画です。
参考)トヨタ、全固体電池を27年にもEV向け投入 航続距離1200…
トヨタはさらに性能を向上させ、10分以下の充電で約1500キロメートルに伸ばす仕様も同時に開発中です。全固体電池は従来の液系電池と比較し、電解質が固体であるためイオンがより速く動ける特徴があり、急速充電時のさらなる時間短縮や出力向上のポテンシャルが見込まれます。
参考)2027~2028年の全固体電池実用化に向けた固体電解質大型…
現在のリチウムイオン電池では、出力スペックが3kWhの充電器でバッテリー容量60kWhを100%充電する場合、約20時間かかりますが、全固体電池は50kWや150kWなどの急速充電器の恩恵を最大限に受けられ、まさにガソリンスタンドで給油するような短時間でのフル充電が期待されています。
参考)〈EVバッテリー ✕ ITエンジニア〉EV用バッテリーが 全…
全固体電池は正極・負極・固体電解質を主な構成素材とし、現在主流の電解液を使用した液系リチウムイオン電池と比べて、小型化・高出力・長寿命のポテンシャルを持つ次世代電池です。最大の違いは電解質が液体ではなく固体である点にあります。
参考)固体電池とリチウムイオン電池の違いを解説 — Large B…
リチウムイオン電池は液体またはゲル状の電解質を使用しますが、全固体電池は固体材料を使用しているため、安全性が高く、より多くのエネルギーを蓄えることができます。電解質が固体であるためイオンがより速く動けるという特徴があり、高電圧・高温に強いため、エネルギー密度の向上や長寿命化が期待できます。
トヨタと出光興産が協力して開発している全固体電池は硫化物系であり、その原料となるのは石油です。出光興産が石油製品を製造する過程で発生する硫黄成分から、硫化物系固体電解質が作られており、量産体制の構築に向けて段階的に開発を進めています。
参考)全固体電池をわかりやすく解説。従来の電池との違い、トヨタ・日…
全固体電池の最大のメリットは、発熱・発火・液漏れリスクが極めて低く、安全性に優れる点です。最大の理由は電池内部に可燃性の有機電解液を用いないことにあり、有機電解液を使用しないため漏液や発火の危険性が大幅に低減され、電池の安全性が飛躍的に向上します。
参考)全固体電池の発熱・発火・液漏れリスクと寿命を解説
従来のリチウムイオン電池で発火に至るような厳しい条件下でも全固体電池では発火・発煙・破裂が起こらず、高い安全性が実証されています。また液漏れの心配がないため、長期間の使用や衝撃を受けた場合でも電解液の漏出による機器損傷や人体への悪影響を防止できます。
全固体電池は急速充電時に熱を保ちやすいリチウムイオン電池に対し、高温に強いため、発熱・発火の危険性が低く、安全性が高いという特長があります。エネルギー密度が高いため、同じ容量でもバッテリーサイズを小さくでき、車両の軽量化やスペース効率の向上にも貢献します。
参考)全固体電池とは?仕組みや種類、メリット・デメリットなどを解説…
全固体電池には多くのメリットがある一方、改善すべき課題も存在します。第一に界面抵抗の大きさがあり、全固体電池はリチウムイオン電池より電極と電解質の界面抵抗が大きく、電池の出力を上げにくい問題があります。ただし現在、液体の電解質と同等の伝導性のある材料の開発が進んでおり、今後改善が進むと思われます。
参考)全固体電池の種類やメリットと課題、利用用途を解説!実用化はい…
第二の課題は電極と電解質の密着性です。電池が高い性能を発揮するには電極と電解質が常に密着している必要がありますが、固体同士では常に密着することが難しく、電極や電解質に亀裂が入ったり、接触部が剥がれたりすると、電池の性能低下や不具合の原因となります。
第三の課題は安定した製造技術です。硫化物系の全固体電池に使用されている固体電解質は、大気中の水分でも変質するくらい水分に弱い性質があるため、生産にはレベルの高い水分管理が求められるドライルームなどの専用設備の導入が必要です。トヨタは現在、コスト低減と量産工法の開発に取り組んでおり、量産実証装置を作り実際に電池を生産し、段階的な開発を進めています。
トヨタの全固体電池実用化は、自動車業界全体にとって大きな転換点となる可能性があります。長年の課題であった充電時間と航続距離の問題を解決できれば、電気自動車の普及が一気に加速され、まさに「ゲームチェンジャー」となることが期待されています。
参考)トヨタの全固体電池戦略がもたらすEV革命と次世代コーティング…
トヨタのような大手メーカーが全固体電池の量産に踏み切ることで、関連するサプライチェーンやインフラも整備され、将来的なコスト低減や性能向上が期待できます。この技術が普及すればEV市場全体がさらに活性化し、環境負荷の低減にも大きく貢献することが予想されます。
2027年から2028年の実用化目標に向けて、トヨタは出光興産、住友金属鉱山との協業により、固体電解質の量産技術開発、正極材の耐久性向上、サプライチェーン構築を着実に進めています。世界初のBEVでの全固体電池の実用化に挑戦することで、クルマの未来を変えるとともに、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する計画です。
参考)https://www.idemitsu.com/jp/content/100043690.pdf
トヨタが全固体電池の開発・実用化で先行することは、日本の自動車産業の競争力強化にもつながります。全固体電池により電気自動車の走行距離が50~100%伸びる可能性があり、2030年までにEVの15~20%に全固体電池が搭載される見込みです。ドライバーにとってガソリン車と変わらない利便性が実現すれば、電気自動車への乗り換えが一層進むことが予想されます。
参考リンク:トヨタ自動車の全固体電池に関する公式発表と技術詳細
住友金属鉱山とトヨタ、全固体電池用の正極材量産に向けて協業 | トヨタグローバルニュースルーム
参考リンク:全固体電池の基礎知識とメリット・デメリットの詳細解説
全固体電池をわかりやすく解説。従来の電池との違い - EV DAYS