wltcモードとjc08モード違いとは｜カタログ燃費と測定方法の差を解説

wltcモードとjc08モードの違い

2018年10月以降、日本の自動車カタログに記載される燃費表示は、JC08モードからWLTCモード（Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle）へと移行しました。WLTCモードは世界統一試験サイクルとも呼ばれ、国際的に採用されている燃費測定方法です。一方、JC08モードは2011年から2018年まで使用されていた日本独自の測定基準でした。両者の最大の違いは、測定条件の厳格性と表示内容の詳細さにあります。WLTCモードでは総合燃費に加えて、市街地モード、郊外モード、高速道路モードという3つの走行環境別の燃費が表示されるため、ユーザーは自分の使用環境に合った燃費性能を把握しやすくなっています。

wltcモードの測定条件とカタログ燃費表示の特徴

WLTCモードでは、測定時間が約24分間に設定され、総走行距離は約14.9～15.0kmに及びます。測定時の平均速度は36.4～36.6km/h、最高速度は97.4km/hと、JC08モードよりも高速域での走行を含んだ測定が行われます。特筆すべき点として、WLTCモードでは必ずエンジンが冷えた状態（コールドスタート）から測定を開始することが義務づけられており、実際の使用状況により近い条件となっています。また、試験車両の重量設定も厳格で、車両重量に運転者（100kg）と積載物を加えた重量で測定されます。乗用車の場合、最大積載量の15%が積載率として考慮されるため、JC08モードよりも重い状態での測定となり、燃費が悪化しやすい条件が再現されています。

カタログ燃費の表示では、市街地モード（信号や渋滞の影響を受ける低速走行）、郊外モード（信号や渋滞の影響が少ない走行）、高速道路モード（高速道路等での走行）という3つの速度域別燃費と、これらを平均的な使用時間配分で構成したWLTC総合値が記載されます。例えば、国内WLTCでは低速（0～40km/h）が20～35%、中速（40～60km/h）が30±10%、高速（60km/h以上）が45±10%という走行距離の比率が定められています。この詳細な表示により、主に市街地で使用するユーザーは市街地モードの数値を、高速道路での走行が多いユーザーは高速道路モードの数値を参考にできるようになりました。

jc08モードの測定方法と燃費表示の仕組み

JC08モード（Japan Cycle '08）は、2011年4月から2018年秋まで日本国内で使用された燃費測定基準です。測定時間は約20分間で、総走行距離は8.172kmと、WLTCモードよりも短い測定となっていました。平均速度は24.4km/h、最高速度は81.6km/hと、WLTCモードと比較すると低速域での測定が中心でした。JC08モードの特徴として、エンジンが冷えた状態（コールドスタート）での測定が25%、エンジンが温まった状態（ホットスタート）での測定が75%という配分で実施されていました。この配分により、10・15モード（1991年～2011年）よりは実走行に近づきましたが、依然として実燃費との乖離が問題視されていました。

試験車両の重量設定は「車両重量＋運転者等（110kg）」とされており、WLTCモードと比較すると軽量な条件での測定でした。また、シャシダイナモメーター（ローラー上で車両を走行させる測定装置）の負荷設定もWLTCモードより軽く、実際の路面抵抗や空気抵抗を完全には再現できていませんでした。燃費表示は総合的な数値のみが「○○km/L」という形式でカタログに記載され、走行環境別の詳細な情報は提供されていませんでした。このため、ユーザーは自分の使用環境における実際の燃費性能を予測することが困難でした。

wltcモードとjc08モードの数値換算と実燃費の関係

同じ車種でもJC08モードとWLTCモードでは燃費の数値が大きく異なります。一般的な傾向として、WLTCモードの数値はJC08モードの約80～90%程度になります。具体的には、ハイブリッド車やアイドリングストップ搭載車では約80～85%、純ガソリン車では約85～90%程度とされています。例えば、スズキ「ハスラー」のマイルドハイブリッドモデルでは、JC08モードが30.4km/Lに対してWLTCモードが25.0km/L（約82.2%）、スズキ「ジムニー」の純ガソリンモデルでは、JC08モードが16.4km/Lに対してWLTCモードが14.3km/L（約87.2%）という実例があります。この差が生じる主な理由は、測定条件の厳格化によるものです。

実燃費との関係では、JC08モードの場合、実燃費はカタログ燃費より全車平均で2～3割低下すると言われています。特にハイブリッド車など燃費性能が高い車種ほど、カタログ燃費と実燃費の差が大きくなる傾向がありました。一方、WLTCモードでも実燃費は10～30%程度下がることが多いですが、JC08モードよりは実走行に近い数値となっています。ただし、実燃費は運転方法（急発進、急加速の有無）、気象条件（気温、風向き）、エアコンの使用状況、渋滞の程度など、様々な要因によって大きく変動します。そのため、カタログ燃費はあくまで車両性能を比較する際の目安として捉えることが重要です。

wltcモード導入による燃費測定の進化と意外な影響

WLTCモードの導入により、燃費測定はより実用的で信頼性の高いものへと進化しました。最も大きな進化は、測定車両の重量設定の変更です。WLTCモードでは、乗用車の場合に最大積載量の15%、小型貨物車の場合は28%の積載率が考慮されます。この変更により、実際に人や荷物を載せた状態に近い条件での測定が可能になりました。また、アイドリング時間の比率が減少したことも重要なポイントです。JC08モードでは停車時間が比較的長く設定されていましたが、WLTCモードでは走行中心の測定パターンとなり、アイドリングストップシステムを搭載していない車両でも、より実走行に近い数値が得られるようになりました。

意外な影響として、メーカーの車両開発戦略にも変化が現れています。WLTCモードでは高速・高加速度域での測定が増えたため、高速走行時の燃費性能向上が重視されるようになりました。これにより、エアロダイナミクスの改善やトランスミッションの制御最適化など、高速域での効率向上を目指した技術開発が加速しています。また、市街地モード、郊外モード、高速道路モードという3つの燃費が表示されることで、ユーザーは自分の使用環境に最適な車種を選びやすくなりました。例えば、主に市街地で使用するユーザーは市街地モードの数値が優れたハイブリッド車を、高速道路走行が多いユーザーは高速道路モードで効率の良いディーゼル車やクリーンディーゼル車を選ぶといった、より合理的な車選びが可能になっています。

wltcモード時代の賢い車選びと燃費性能の見極め方

WLTCモードの導入により、消費者はより詳細な燃費情報を得られるようになりましたが、それを活用した賢い車選びには知識が必要です。まず重要なのは、自分の主な使用環境を明確にすることです。通勤で渋滞の多い市街地を走ることが多いなら市街地モードの数値を、週末のドライブで郊外や高速道路を走ることが多いなら郊外モードや高速道路モードの数値を重視するべきです。例えば、トヨタ「プリウス」（50系）の2019年式では、JC08モード最高燃費が39.0km/L、WLTCモード最高燃費が32.1km/Lと記録されていますが、実際の使用環境によって達成できる燃費は大きく変わります。

また、車種ごとの燃費特性を理解することも重要です。ハイブリッド車は市街地モードでの燃費が優れている一方、高速道路モードではガソリン車との差が縮まる傾向があります。これは、ハイブリッド車が低速域での回生ブレーキや電気モーター走行によって効率を高めているためです。逆に、ディーゼル車やクリーンディーゼル車は高速道路モードでの燃費が優れる傾向があります。さらに、燃費性能だけでなく、車両価格、維持費、自分の走行距離などを総合的に考慮することが大切です。燃費が良くても車両価格が高ければ、元を取るまでに長い年数がかかります。年間走行距離が少ない場合は、燃費性能よりも初期費用や車両の使い勝手を重視した方が合理的な選択となることもあります。

国土交通省の燃費表示に関する公式資料では、WLTCモード導入の背景と測定方法の詳細が解説されています。
日本自動車工業会の測定モードに関するページでは、10・15モード、JC08モード、WLTCモードの変遷と測定パターンの図解が掲載されています。