トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)は、2012年4月に構想が発表された、トヨタの車づくりを根本から変革するシステムです。これはプラットフォーム(車台)だけを指すものではなく、企画・開発・調達・生産準備・生産というすべての工程を含めた、クルマ作りのシステム全体を意味します。TNGAの最大の特徴は、「走る、曲がる、止まる」というクルマの基本性能を飛躍的に向上させながら、同時に原価低減も実現するという、相反する目標を両立させた点にあります。
参考)トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー - Wikip…
TNGAが創設された背景には、トヨタの「現地現物主義」により膨大な数に膨れ上がったプラットフォームの存在がありました。エンジンだけでも10以上の基本形式があり、排気量や各国の規制対応により品番数は3桁に達し、開発費が膨大になっていたのです。そこでTNGAは、複数のプラットフォームに共通したモジュールを増やすことでコンポーネントを共有化し、開発効率を大幅に改善しました。
2015年12月発売の4代目プリウスから順次採用が開始され、2024年現在では海外モデルを含めると40車種以上にTNGAが採用されています。カローラ、カムリ、ヤリスなどのロングセラーモデルにも展開され、トヨタの主力車種のほとんどがTNGAプラットフォームを採用する状況となっています。
参考)https://global.toyota/jp/mobility/tnga/index.html
TNGAプラットフォームの最大の技術的特徴は、低重心設計と高剛性ボディの両立です。ドライビングポジションを低く設定し、エンジンの構成位置などの重量配分を最適化することで、重心高を大幅に下げることに成功しました。この低重心化により、横揺れの少ない乗り心地と安定した高速走行が実現され、スポーティな走りを予感させるワイド&ローのスタイリングも表現できるようになりました。
参考)https://toyota.jp/corollatouring/performance/index.html
ボディ剛性については、従来のプラットフォームと比較して30~65%もの向上を達成しています。この剛性向上は、ボディ開口部への環状骨格構造の採用、高張力鋼板(ホットスタンプ材)の使用拡大、トヨタ独自のレーザー・スクリュー溶接(LSW)技術の活用によって実現されました。特に4代目プリウスでは、剛性を65%も向上させることに成功しています。
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この高剛性化により、ボディのねじれ現象が抑制され、優れた操縦安定性が得られるとともに、衝突安全性能も大幅に向上しました。さらに、キャビン周りへの超高張力鋼板の採用やウインドシールドガラスへの高剛性ウレタン接着材の使用により、静粛性や安全性も向上し、クルマに求められるポテンシャルが総合的に優れたものとなっています。
TNGAでは、プラットフォームだけでなくパワートレーンも全面的に刷新されました。新世代のダイナミックフォースエンジンは、「排気」「冷却」「ポンピングロス」「フリクション」という4つの損失を徹底的に低減し、熱効率40%以上を達成しています。これは世界でもトップクラスの効率であり、2.5リットルエンジンを中心に開発された第1弾に続き、2.0リットルクラスの第2弾も市場投入されました。
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新型エンジンには、世界初となる「可変容量オイルポンプ」、量産化を実現した「レーザークラッドバルブシート」、6つの噴射孔を持つ「マルチホール直噴インジェクター」など、数多くの先進技術が採用されています。バルブ挟角の拡大、ボア×ストロークの最適化、ポート端部形状の変更などにより、空気の吸入量増加と強いタンブル流の発生を両立させ、高速燃焼を実現しました。
トランスミッションについても、世界初の「発進用ギア」機構を採用した新型CVTを開発し、変速比幅7.5という2.0リットルクラストップの性能を実現しました。発進用ギアの採用により入力負荷が軽減され、ベルトの狭角化とプーリーの小径化が可能となり、変速速度を20%向上させています。これらの革新により、TNGAパワートレーン搭載車は従来比で燃費を20%向上させながら、ガソリンエンジン車で12%、ハイブリッド車で10%も加速時間を短縮することに成功しました。
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TNGAには、車種のボディサイズやクラスごとに複数のプラットフォームが用意されています。現在、主要なプラットフォームは5種類存在し、それぞれ異なる特性を持っています。
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| プラットフォーム | 対象クラス | 主な採用車種 |
|---|---|---|
| GA-B | Bセグメント小型車 | ヤリス、ヤリスクロス、アクア、シエンタ、レクサスLBX |
| GA-C | コンパクトカー | プリウス、カローラ系、C-HR、ノア、ヴォクシー、レクサスUX |
| GA-K | ミドルクラス | カムリ、RAV4、ハリアー、クラウンクロスオーバー、アルファード、ヴェルファイア、レクサスES・NX・RX |
| GA-L | 高級車(FR) | クラウンセダン、MIRAI、レクサスLC・LS |
| GA-F | フルサイズSUV | ランドクルーザー300・250、タンドラ、レクサスLX |
エンジン横置き系はK→C→Bの順でサイズが小さくなる設計となっており、それぞれのクラスに最適化された性能を持っています。GA-Bは2019年9月に公式発表され、ヤリスで初採用された最小のプラットフォームです。GA-Cはプリウスで初採用され、日本の5ナンバー枠に対応したナロー版も用意されています。GA-Kは横置きエンジン用では最も大きなプラットフォームで、RAV4からアルファードまで幅広い車種に採用されています。
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電気自動車専用のe-TNGAプラットフォームも開発されており、bZ4X、スバル・ソルテラ、レクサスRZに採用されています。ただし、2022年10月にはコスト競争の観点から採用の見直しが検討され、2026年から次世代EVプラットフォームを採用することが発表されました。
TNGAプラットフォームは、優れた走行性能とデザインの自由度を高い次元で両立させています。低重心設計により、コーナリング時の横揺れが大幅に減少し、ドライバーの意のままの走りが実現されました。重量バランスと車両安定性が最適化されたことで、スポーティな走りと快適な乗り心地を同時に享受できるようになっています。
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高剛性ボディは操舵に対する正確な反応を生み出し、路面からの振動も大幅に低減されました。環状骨格構造の採用によりボディのねじれ現象が抑制され、高速道路での直進安定性も向上しています。実際にTNGAプラットフォーム採用前後のモデルを比較すると、運転のしやすさやカーブでのブレが全く異なるという評価が多く聞かれます。
デザイン面では、低重心化と低フード化により、エモーショナルなデザインと優れたハンドリングの両立が可能になりました。設計とデザインが協力してクルマの骨格改革に取り組むことで、踏ん張り感あるスタイリングなど、これまでにないデザイン表現が実現されています。TNGAでは人間工学やデザインの自由度を追求した新たなプラットフォームを確立し、複数の車種で異なる外観デザインを実現しながらも、同じプラットフォームを採用することができるようになりました。
参考)トヨタ、「もっといいクルマづくり」に向けての「TNGA」取り…
トヨタ自動車グローバルサイト - TNGAによるもっといいクルマづくり
https://global.toyota/jp/mobility/tnga/index.html
TNGAの基本コンセプトと採用車種の最新情報が掲載されている公式ページです。
TNGAの重要な目的の一つは、商品力向上と原価低減の両立です。複数車種の同時企画・開発を行う「グルーピング開発」により、車種間のコンポーネントの共用化率を高め、効率的な原価低減を実現しています。部品・ユニットの賢い共用化により、開発リソースを削減し、その原資をさらなる品質・商品力向上に再投資する好循環を生み出しています。
仕入先・調達・生産技術・技術の各部門が四位一体で活動し、生産・組み立て・製造工程の効率化により、部品やクルマ本体の高い品質を確保しています。部品開発においても、トヨタ専用規格に準じた部品開発を改め、「トヨタが定める品質を満たせば、他の自動車メーカーがグローバルに採用している標準部品でも納入可能」としました。これにより、トヨタグループのスケールメリットを活かし、「開発費削減」「部品点数削減」「製造コスト削減」「工期短縮」を効率よく行うことが可能となりました。
「TNGA部品」は車両原価の6~7割を占める機能部品を指し、これらの部品で全体最適を進め、共用化を図ることで大幅な原価低減を実現しています。生産面では、加工・組み付けなどの基準を統一し、異なる機種をフレキシブルに高速で生産できる生産ラインを開発しました。これにより、需要変動へのよりフレキシブルな対応が可能となり、ユーザーにこれまでよりも早く商品を提供できるようになっています。
参考)トヨタ
トヨタは2023年までにTNGAパワートレーン搭載車を販売台数の約80%に拡大し(日本、米国、欧州、中国が対象)、CO2排出量を約18%削減することを目標に掲げています。
参考)トヨタのTNGAコンセプトによる新型パワートレーン - 自動…