シールドマシンの世界市場は、都市部の地下インフラ整備需要の高まりを背景に着実な成長を続けています。2023年における世界市場規模は約873.3百万米ドルと評価され、2024年から2030年の予測期間において年間平均成長率(CAGR)3.0%で成長し、2030年までに1070.9百万米ドルに達すると予測されています。トンネル掘削機全体では、2024年に約60億~67億米ドルの市場規模があり、2033年までに80億~150億米ドルへ拡大する見通しです。
参考)シールド掘進機の世界市場規模、シェア、動向分析調査レポート2…
地下鉄、道路トンネル、下水道などのインフラ整備において、シールド工法は開削工法と異なり地上を掘らずに施工できるため、都市部での需要が特に高まっています。軟弱地盤や深いトンネルでも開削できる技術的優位性から、最近の地下鉄工事では主流となっており、直径5~7mの単線用から直径8~10mの複線用まで多様な規模で活用されています。
参考)シールド工法
世界市場のシェア分析において、ドイツのHerrenknecht AG(ヘレンクネヒト)が圧倒的な存在感を示しています。Herrenknechtは欧州市場で特に強力な地位を確立しており、高度な技術力と製品の多様性を武器にグローバル市場での優位性を保持しています。同社は市場シェアの約30%を保有していると推定され、先進的な技術と豊富な国際プロジェクトでの実績が評価されています。
参考)シールドマシン市場分析レポート:競争戦略、収益、コスト、市場…
その他の主要欧米メーカーとしては、The Robbins Company(ロビンス社)が挙げられます。Robbinsはトンネル掘削機メーカーとして特化しており、高速交通網の拡充に寄与する技術開発を進めています。これらの欧米メーカーは、長年にわたる技術蓄積と品質管理の高さで、特に大型・高難度プロジェクトにおいて選ばれる傾向があります。
参考)https://ameblo.jp/prongspraidl/entry-12930998618.html
🔗 参考情報:QYResearchの市場調査レポートでは、主要メーカーの詳細な販売量、売上、市場シェアのランキングを提供しています
シールド掘進機の世界市場規模、シェア、動向分析調査レポート2024-2030
近年、中国メーカーの台頭が著しく、市場勢力図に大きな変化をもたらしています。CREC(中国中鉄)とCRCHI(中国鉄建重工)は中国市場でのリーダーシップを持ち、政府のインフラ予算増加を背景に急速に成長しています。CRCHIは市場の20%近くを占めており、特に中国の大規模なインフラ開発においてアジア太平洋地域に強い需要があります。
参考)https://ameblo.jp/minhferguson46/entry-12927262927.html
中国製シールドマシンは現在、世界で使用されるシールドマシンの10台のうち7台を占めるまでに成長しました。中国国内で使用されるシールドマシンの95%は国産製品であり、保有台数は約5000台に達しています。中国製シールドマシンは保有台数、年間出荷台数、施工総距離のいずれも世界をリードする状況となっており、欧米をはじめ多くの国に輸出され、好調な売れ行きを見せています。
参考)中国製シールドマシン、売れ行きが好調
中国メーカーの強みは、大規模な生産能力とコスト競争力にあります。国際トンネル協会の専門家によれば、中国のシールドマシン生産能力は非常に高く、国内トンネル工事での使用に加え、海外市場への積極的な展開が進められています。
日本国内の主要メーカーとしては、川崎重工業、日立造船、三菱重工業(JIMテクノロジー含む)などが知られています。川崎重工は1957年から、日立造船は1967年からシールドマシン事業を国内外で展開しており、長い歴史と実績を誇ります。
参考)シールドマシンメーカーシェア2025:トップ企業と選定ガイド
川崎重工は超大口径や高水圧、岩盤や長距離掘削に適した機種を国内外で1,400基以上納入し、日立造船は小口径から超大口径、異形、矩形などバリエーション豊富な機種を国内外で1,300基以上納入してきました。両社とも主に国内の鉄道、地下鉄、道路、下水道などのトンネル工事向けにシールドマシンを供給してきました。
参考)https://www.khi.co.jp/pressrelease/news_211001-3j.pdf
国内市場の縮小を背景に事業統合が進行しています。2021年10月、川崎重工業と日立造船がシールドマシン事業の営業とエンジニアリングを統合し、「地中空間開発株式会社」を折半出資で設立しました。この統合により、両社が保有する営業力や技術力、多種多様な製品ラインナップ、サプライチェーンなどの強みを活用・強化し、国内外での事業拡大を図っています。
参考)日立造船と川崎重工、シールド事業の営業・設計統合
この統合により、国内市場は実質的に2社体制に集約されました。もう一方の主要プレイヤーはJIMテクノロジー(JFEエンジニアリングなど3社が2016年に事業統合)で、売上高は国内首位の約200億円規模とされています。川崎重工と日立造船の新会社はJIMに次ぐ規模となり、直径10メートル以上の大型マシンを手掛ける能力を持ちます。
参考)川重と日立造船、トンネル「シールドマシン」事業を統合…国内勢…
🔗 リニア中央新幹線の大深度シールド工事では、JIMテクノロジー(三菱重工グループ)が製造したシールドマシンが使用されています
シールドマシンメーカーシェア2025:トップ企業と選定ガイド
シールドマシン本体や関連機材の輸送には、特殊な車両技術と物流システムが不可欠です。シールドマシンは超大型の重量物であり、一般公道での運搬には特殊車両通行許可が必要となります。株式会社浅井などの専門輸送業者は、ステアリング機構付超軽量エアサスセミトレーラなどの特殊車両を用いて、シールドマシンやセグメント(トンネル覆工材)の輸送を手掛けています。
参考)輸送事業 / Transportation Service …
トンネル坑内での資材運搬も重要な要素です。シールド工事では、セグメントや掘削土(ずり)の運搬に専用の台車システムが使用されます。従来はレール方式が主流でしたが、近年ではタイヤ式の無軌条走行方式も導入されており、柔軟な運搬ルート設定が可能になっています。
参考)トンネル工事の運搬機器(ずり鋼車・セグメント台車・平台車・人…
最新技術として、自動搬送システムの開発も進んでいます。前田建設工業が開発した「MAEDA LOGISTIC」は、GPSが届かないトンネル内でLiDARや3Dカメラ、各種センサー、RFIDタグを用いて車両の位置把握を行い、セグメントを自動で地上からトンネル先端まで搬送する技術を実現しています。このような自動化技術は、人手不足への対応と施工効率の向上に貢献しています。
参考)トンネル坑内自動搬送システム
ドライバーの視点では、シールド工事現場周辺では大型トラックやダンプ、特殊車両の通行が増加するため、安全運転への注意が必要です。工事関係車両は誘導員配置などの安全対策を実施していますが、一般ドライバーも工事現場付近では速度を落とし、周囲の状況に注意を払うことが重要です。
参考)https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/urban_shield-tunnel/description/_pdf/onoji-machida.pdf
地域別の市場動向を見ると、北米市場は予測期間中に約30~33%の圧倒的な市場シェアを保持すると予想されています。一方、アジア太平洋地域は今後最も高い成長率を示すと予測されており、特に中国、インド、東南アジア諸国でのインフラ投資拡大が成長を牽引します。
参考)シールドマシン 市場規模、シェア
ヨーロッパ市場は成熟市場として安定した需要を維持しており、環境規制への対応や老朽化したインフラの更新需要が見込まれています。ラテンアメリカと中東・アフリカ地域も、都市化の進展に伴い今後の成長が期待されています。
製品タイプ別では、Single Shield TBM(単一シールドTBM)、Double Shield TBM(二重シールドTBM)、Gripper TBM(グリッパーTBM)、Slurry TBM(泥水式TBM)などが市場をセグメント化しています。用途別では、Segmental Lining(セグメントライニング)とPipe Jacking(管推進)が主要な適用分野となっています。
市場成長を促進する要因として、以下が挙げられます。
参考)シールド工法|株式会社橋本店
シールドマシンの技術革新において注目すべきは、超大型化への挑戦です。日立造船が製造した直径17.45mのシールドマシン「Bertha(バーサ)」は、従来の約15mを大幅に上回る世界最大規模として知られています。このような超大型マシンは、複線道路トンネルや大規模な地下空間を一度に掘削できるため、施工効率と経済性の向上をもたらします。
超大型シールドマシンの開発には、カッターヘッドの設計、推進力の確保、セグメント組立の自動化など、多くの技術的課題があります。しかし、一度に大きな断面を掘削できることで、工期短縮とコスト削減が実現できるため、大都市圏の大規模プロジェクトでは今後も需要が見込まれます。
また、2008年に開通した地下鉄副都心線工事で使用された楕円形トンネルを掘削できる複合円形シールドマシンは、これまで2台のマシンが必要だった作業を1台で築造できるようになり、大きな技術革新となりました。このような技術開発により、様々な形状のトンネル需要に対応できる柔軟性が向上しています。
🔗 シールド工法の詳細な技術解説と施工手順については、大手建設会社の技術情報が参考になります
楽しくわかる!トンネルの世界「シールドトンネル編」
世界のシールドマシン市場は、欧州の技術力、中国の生産力、日本の品質とバリエーションという三極構造が形成されつつあります。今後は環境配慮型技術、自動化・IoT活用、超大型化など、新たな技術トレンドが市場の成長を牽引していくでしょう。車を運転するドライバーの視点では、都市部の大規模インフラ工事に伴う特殊車両の増加を認識し、安全運転を心がけることが重要です。