2002年に登場した初代プロボックスには、1.4L直噴ディーゼルターボエンジン(1ND-TV型)が搭載されたディーゼルモデルが存在していました。このエンジンは欧州のヤリスやヤリスヴァーソ(ファンカーゴ)に搭載されていたものを、日本の厳しい排ガス基準に適合させたものでした。
当時のディーゼルモデルの主要スペックは以下の通りです。
このディーゼルエンジンは、コモンレール式燃料噴射システムを採用しており、高圧直噴と精密な制御によって理想的な燃焼を実現していました。特に注目すべきは、ヨーロッパの基準(EURO-3)をクリアしていたエンジンを改良することで、日本の平成14年排ガス規制を達成していた点です。
商用車ユーザーにとって最大の魅力は、軽油の燃料コストの安さと低速域での力強いトルク性能でした。荷物を積んだ状態や坂道でもスムーズに運転でき、営業車や長距離走行が多いユーザーから高い評価を得ていました。
2007年9月、プロボックスのディーゼルモデルは登場から5年で廃止されました。廃止の背景には、当時の日本国内でのディーゼル車に対する厳しい社会情勢がありました。
2000年代前半の日本では、ディーゼル車は「環境に悪い」というイメージが先行し、特に都市部では規制が強化されていました。東京都をはじめとする自治体が実施したディーゼル車規制により、古いディーゼル車の走行が制限され、ディーゼル車全体への風当たりが強い時代でした。
しかし、欧州では当時からディーゼル技術に関して先進的な地域であり、市場の3割をディーゼル車が占めていました。その欧州で鍛えられたディーゼルエンジンが国内導入された価値は非常に高く、プロボックスのディーゼルモデルに対する根強いファンは現在でも多く存在しています。
廃止後も、商用車市場では燃料コストの削減と長距離走行での優位性を求める声が絶えず、ディーゼルモデルの復活を望む声が継続的に上がっています。
現在のプロボックス(2025年モデル)は、ガソリンエンジンとハイブリッドシステムの2つのパワートレインで構成されています。2024年4月の一部改良では、デジタルルームミラーなどの先進安全技術が追加され、商用車としての使い勝手が大幅に向上しました。
車両価格は以下の通りです。
現在のハイブリッドシステムは、燃費性能と環境性能を両立させており、カーボンニュートラル時代に対応した仕様となっています。しかし、商用車ユーザーからは依然として「燃料コストの安さ」と「長距離走行での経済性」を求める声が強く、ディーゼルモデルへの期待は根強く残っています。
トヨタの技術開発力は飛躍的に向上しており、現在では初代プロボックス時代とは比較にならないほど高度な排ガス浄化技術を保有しています。これにより、現代の厳しい環境基準をクリアするディーゼルエンジンの開発は技術的に十分可能な状況です。
プロボックスのディーゼルモデル復活について、技術的な観点から検証すると、実現可能性は決して低くありません。特に注目すべきは、マツダとの技術連携の可能性です。
マツダは現在、SKYACTIV-Dと呼ばれるクリーンディーゼル技術を確立しており、CX-5やCX-8などの乗用車に搭載して高い評価を得ています。このマツダのディーゼル技術をトヨタが供給を受ける形で、プロボックスに搭載される可能性が指摘されています。
現代のクリーンディーゼル技術の特徴。
これらの技術により、現在のディーゼルエンジンは初代プロボックス時代とは比較にならないほど環境性能が向上しています。燃費性能も大幅に改善され、CO2排出量の削減にも大きく貢献しています。
ただし、マツダから技術供給を受けても、コンパクトカー向けの小排気量ディーゼルエンジンが優先され、商用車であるプロボックスへの搭載は後回しになる可能性も指摘されています。
商用車市場におけるディーゼルエンジンへのニーズは、近年再び高まりを見せています。特に以下の要因が復活への追い風となっています。
燃料コストの優位性 🚛
軽油価格はガソリンと比較して約20円/L安く、年間走行距離が多い商用車ユーザーにとって大きなメリットとなります。年間3万km走行する場合、燃料費だけで年間10万円以上の差が生まれる計算です。
トルク特性の優位性 ⚡
ディーゼルエンジンは低回転域から最大トルクを発生するため、荷物を積載した状態での発進や坂道走行において、ガソリンエンジンよりも有利です。これは配送業務や営業車として使用される商用車にとって重要な性能です。
長距離走行での経済性 📊
高速道路での長距離走行において、ディーゼルエンジンは燃費性能でガソリンエンジンを上回ります。特に定速走行が多い用途では、その差は顕著に現れます。
トヨタは2025年7月にプロボックス誕生20周年を迎えることから、記念すべきタイミングでディーゼルモデルの復活を発表する可能性も考えられます。また、カーボンニュートラル達成に向けて、バイオディーゼル燃料との組み合わせによる環境対応も期待されています。
現在のプロボックスは「商用バンの皇帝」として高い評価を受けており、ディーゼルモデルの復活により、その地位をさらに強固なものにできる可能性があります。ユーザーからの根強い要望と技術的な実現可能性を考慮すると、プロボックスディーゼルの復活は決して夢物語ではないといえるでしょう。