2023年10月30日、日産の中東法人がサニー2024年モデルを発表し、現地での販売を開始しました。この新型サニーは、日本市場では販売終了となって久しいものの、海外では依然として重要なモデルとして位置づけられています。
中東仕様のサニーは、全長4.5m級のコンパクトセダンとして設計されており、日本で販売されているトヨタ「カローラセダン」に近いサイズ感を持ちます。しかし、そのプロポーションは堂々としており、コンパクトながらも存在感のあるデザインが特徴的です。
パワートレインには1.6リッター直列4気筒エンジンが搭載されており、最高出力118PS、最大トルク149N・mを発揮します。トランスミッションはCVTのみの設定となっており、現時点ではハイブリッドの「e-POWER」は設定されていません。
エクステリアデザインには、日産の最新デザインアイデンティティである「デジタルVモーショングリル」が採用されており、シャープかつ精悍な印象を与えています。このデザイン要素は、日産の他の新型車にも共通して採用されているもので、ブランドアイデンティティの統一を図っています。
北米市場では、サニーの血を引く「セントラ」として展開されており、2025年後半には次世代モデルの発表が予定されています。セントラという車名は、1981年に日本で登場した5代目サニーの輸出仕様に与えられたもので、長い歴史を持つネーミングです。
2025年3月26日に発表された日産とインフィニティの新商品投入計画によると、米国・カナダ地域には次世代EVおよびハイブリッド技術を搭載した10車種以上の新型車およびマイナーチェンジ車が投入される予定です。その中でセントラは、現地でのベストセラーモデルとして重要な位置を占めています。
新型セントラには「フの字型ヘッドライト」と呼ばれる斬新なデザインが採用される予定で、流麗なボディラインと相まって、従来のサニー系モデルとは一線を画すスタイリングが期待されています。このデザインアプローチは、日産の新しいデザイン言語を体現するものとして注目されています。
北米市場でのセントラは、コンパクトセダン市場において重要な役割を果たしており、特に燃費性能と実用性のバランスが評価されています。次世代モデルでは、これらの特長をさらに進化させつつ、電動化技術の導入も検討されているとみられます。
新型サニーの最も注目すべき技術革新の一つが、「ゼログラビティ(無重力)シート」の採用です。このシートは、セグメントとして初めて採用されたもので、長時間運転時の体圧を分散させ、快適性を大幅に向上させる設計となっています。
ゼログラビティシートの開発には、NASAの無重力状態における人体姿勢の研究データが活用されており、人間が最もリラックスできる姿勢を再現することを目指しています。具体的には、腰部と膝部の角度を最適化し、血流を改善することで疲労軽減を図っています。
このシート技術は、もともと日産の上級車種に搭載されていたものですが、サニークラスのコンパクトセダンに採用されることで、より多くのユーザーがその恩恵を受けられるようになりました。特に、長距離ドライブが多い中東地域のユーザーにとって、この技術は大きなメリットとなっています。
シートの素材にも工夫が凝らされており、通気性に優れた素材を使用することで、暑い気候での快適性も確保されています。また、シートの形状は人間工学に基づいて設計されており、様々な体型のドライバーに対応できるよう配慮されています。
サニーのデザイン進化を振り返ると、1998年の9代目フルモデルチェンジが大きな転換点となりました。この時期に「新世代プラットフォーム」が導入され、日産の車種開発合理化計画の第一弾として位置づけられました。
9代目サニーは「サニーらしいトラディショナルなスタイリングを継承」というコンセプトのもと、オーソドクスな4ドアボディを採用しました。全長4345mm×全幅1695mm×全高1415mm、ホイールベース2535mmという500ナンバー枠ぎりぎりのサイズ設定は、日本の道路事情を考慮したものでした。
興味深いのは、サニーには派生モデルとして「ローレルスピリット」という高級仕様が存在していたことです。1982年1月に投入されたこのモデルは、B11型サニーをベースとしながらも、ローレルの名前を冠するにふさわしい高級感を演出していました。格子型グリルや異形ヘッドライト、ボンネットマスコットなど、要所要所にクロームをあしらった仕様は、エントリーモデルでありながら上級車の雰囲気を醸し出していました。
現在の海外仕様サニーに採用されているデジタルVモーショングリルは、このような歴史的な高級化の流れを汲むものとも解釈できます。コンパクトセダンでありながら、プレミアム感を演出するデザイン要素の採用は、サニーの伝統的なアプローチの現代版と言えるでしょう。
日産のサニー新型における市場戦略は、地域特性を重視したグローバル展開が特徴的です。仕向け国・地域によって「アルメーラ」「ヴァーサ」などの異なる名称で販売されており、各市場のニーズに合わせたローカライゼーションが図られています。
中東市場では、過酷な気候条件と長距離移動の多い使用環境を考慮し、耐久性と快適性に重点を置いた仕様となっています。特に、ゼログラビティシートの採用は、この地域特有のニーズに応えるものです。また、砂塵対策や高温対応など、エンジンや空調システムにも地域特化の改良が施されています。
北米市場のセントラでは、燃費規制への対応と安全性能の向上が重要な要素となっています。次世代モデルでは、電動化技術の導入により、CAFE(企業平均燃費)規制への対応を図ると同時に、IIHS(米国道路安全保険協会)やNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の安全基準をクリアする設計が求められています。
興味深いのは、これらの海外専用モデルの技術やデザインが、将来的に日本市場への逆輸入という形で還元される可能性があることです。特に、電動化技術やデジタル技術の進歩により、グローバルモデルとしてのサニーが再び日本市場に登場する日が来るかもしれません。
日産の電動化戦略「Nissan NEXT」では、2030年までに主要市場で販売する新型車をすべて電動車にするという目標を掲げており、サニーもこの戦略の一環として位置づけられています。海外での実績を積み重ねることで、将来的な日本復活への布石を打っているとも考えられます。
商用車版のサニートラックも含めて考えると、サニーブランドの持つ実用性と信頼性は、現在でも多くの市場で評価されています。1971年のフルモデルチェンジ以降、サニートラックは商用車として長年愛用され続けており、その堅牢性と経済性は現在の新型サニーにも受け継がれています。
このように、日産サニー新型は単なる海外専用モデルではなく、日産のグローバル戦略における重要な実験場としての役割も担っているのです。各地域での成功事例を蓄積することで、将来的なより大きな展開への準備を進めているとみることができるでしょう。