日産が発表した新型マーチ(欧州名マイクラ)は、ユーザーのニーズに応じた2つのバッテリーオプションをラインナップしています。都市部での日常使用を想定した40kWh仕様は、最大出力90kW、最大トルク225Nmの性能で308kmの航続距離を実現。一方、52kWh仕様は最大出力110kW、最大トルク245Nmで408kmの航続距離を確保し、郊外へのドライブも不安なく対応できる設計となっています。
新型マーチの電池パック総重量は40kWh仕様で約1400kg、52kWh仕様で約1524kgと、競合他社のコンパクトEVと比較しても軽量に抑えられています。この軽さがハンドリング性能と燃費効率の向上に大きく貢献しており、同セグメント内でも最高レベルのエネルギー効率を実現しています。バッテリーはAmpRと共用するプラットフォーム(CMF-BEV)の極力低い位置に配置され、重心が低いため走行安定性も優れています。
バッテリーの加熱・冷却機能を備えたヒートポンプが標準装備されており、低温環境下での充電効率低下を最小化します。またV2L(Vehicle-to-Load)技術により、バッテリーの電力を外部デバイスに供給することも可能で、キャンプやアウトドアシーンでも活躍するマルチな汎用性を備えています。
新型マーチが備える最大の特徴の一つが、同セグメント内で最速の急速充電性能です。100kW出力の急速充電器を使用した場合、15%から80%への充電がわずか30分で完了します。これは従来のコンパクトカーの常識を大きく上回る水準であり、長距離ドライブ時のストレス軽減につながります。40kWh仕様では最大80kW相当の充電に対応し、実用面での利便性が高く設計されています。
興味深い点として、新型マーチの充電システムは温度管理による効率最適化を実現しており、季節や気候条件の影響を最小化する仕組みが組み込まれています。標準装備のヒートポンプにより、真冬の低温環境でも充電効率が低下しにくいため、北欧などの寒冷地での使用を想定した堅牢な設計となっています。
さらに、欧州市場ではCHAdeMO規格だけでなく、CCS(Combined Charging System)対応充電器への接続も想定されており、急速充電インフラの拡充に対応した将来性の高い設計です。
ロンドンの日産デザインヨーロッパで設計された新型マーチは、単なるEVではなく、40年以上の歴史を持つマーチのDNAを色濃く反映した表現が施されています。特筆すべきは、ドアのロック・アンロック時に左右に脈動する「ウェルカムウィンク」と「フェアウェル」というヘッドライト演出機能で、これはデジタル世代のユーザーに向けた感情的なつながりを狙った独創的な設計です。
インテリアでは、前席の収納スペースに富士山のモチーフを採用するなど、日本の美学を静かに表現しています。10.1インチのデジタルメーターと同サイズのセンターディスプレイを備え、Googleサービスを統合したNissanConnectにより、スマートフォンとの完全な連携が実現されます。
外装色は14種類の組み合わせが用意され、ツートンカラーではルーフがブラックまたはグレーとなる自由度の高い選択肢が提供されます。18インチホイールは全グレード標準装備で、「アクティブ」「アイコニック」「スポーツ」の3種類から選択可能なデザインを用意。SUVのようなダークなホイールトリムとの組み合わせにより、力強くソリッドなスタンスが強調されています。
新型マーチのシャシー設計では、AmpRプラットフォームの底部にバッテリーを極力低く配置することで、理想的な重心バランスが実現されています。フロントはストラット式、リアはマルチリンク式のサスペンションを採用し、パッシブダンパーにより乗り心地とハンドリングの両立を図っています。
全長4メートル未満、幅1.8メートル未満というコンパクトなボディサイズながら、ホイールベースは2.54メートルと十分に確保されており、室内空間とダイナミックなスタンスのバランスが取れています。電動車ならではのスムーズなドライビングフィールを実現するため、開発段階で綿密なチューニングが施されており、クラス最高の乗り心地を提供することが目標とされています。
326リットル(VDA規格)の荷室容量は、コンパクトカークラスでは他車を上回る広さが確保されており、日常の買い物から週末のレジャーまで幅広いシーンでの活用が可能です。
現在のところ、日産からの正式な発表では、新型マーチの日本市場投入時期は「未定」とされています。2022年8月で現行型の生産が終了してから3年が経過し、日本のコンパクトカー市場では大きな空白が生まれています。しかし、SNSや自動車愛好家のコミュニティでは「マーチの復活を心待ちにしている」という声が相次ぎ、国内導入への期待は高い状況です。
複数の自動車専門メディアは、欧州での販売開始から数ヶ月から1年程度遅れて、日本市場にも導入される可能性が高いと予想しています。日産は「The Arc」という経営計画の中で今後3年間に30車種以上の新型車を市場投入する方針を示ており、その中にコンパクトEVの位置付けがあると推察されます。
2025年10月には東京のジャパンモビリティショーで新型マイクラが日本初公開されており、往年のマーチファンからは懐かしい丸目テイストのヘッドライトが好評を博しています。日本導入が実現すれば、ヤリスやフィットといった現在の主力コンパクトカーの市場構図に大きな影響を与える可能性があります。
参考資料
新型マイクラの公式情報について、日産自動車の公式ニュースルームでは詳細なスペックとデザイン哲学が説明されています。
日産自動車ニュースルーム|欧州で新型「マイクラ」を発表
新型マイクラの走行性能と充電機能の詳細情報については、automotive media LEVOLANTでも包括的に解説されています。
LEVOLANT|日産の新型「マイクラ」は完全EV!優れた充電性能など