家庭用エアコンと異なり、車のエアコンシステムは冷房と暖房で全く異なる仕組みを採用しています。多くのドライバーが誤解しているのが、A/Cボタンが暖房も制御していると思うこと。実際には、A/Cボタンは「エアコンディショニング」の略称で、冷房と除湿機能だけを制御しています。
暖房機能はエンジンの排熱を利用したヒーターコアで実現され、A/Cボタンと完全に独立しているのです。つまり、冬場に暖房だけを使う場合、A/CボタンはOFFのままでも温風が出てきます。ガソリン車の場合、エンジンが常に高熱を発生させているため、その熱をラジエーター液に吸収させて冷却しています。その温まった冷却液(100℃近い液温)をヒーターコアに循環させることで、自動的に温風が発生する仕組みです。
最新の車にはオートエアコン機能が付いていることが多く、AUTO ボタンを押すと自動的にA/Cが入ることもあります。燃費を気にするドライバーは、AUTO ボタン使用後にA/Cボタンを手動で切ることで、暖房のみの使用を実現できます。
冷房とA/Cボタンは密接な関係にあります。A/Cをオンにするとコンプレッサーが稼働し始め、冷媒と呼ばれるエアコンガスを高圧で圧縮します。このコンプレッサーはエンジンによって駆動されるため、エンジンに直接的な負荷がかかります。その結果、燃料消費量が増加するのです。
実際の燃費悪化の程度は季節や走行条件によって異なります。夏場の炎天下で50℃以上になった車内を冷やす場合、燃費は10~20%程度悪化することが多いです。特に真夏の駐車直後は車内温度が60℃を超えることもあり、その時点でエアコンを全力運転させるとエンジンに極めて大きな負荷がかかります。
一方、冬場でもA/CをONにすれば燃費は低下します。ただし、ガラスの曇り取り以外の目的で冬場に冷房を使用することは稀です。ハイブリッド車やEV車でも電力を消費してコンプレッサーやヒーターを駆動させるため、燃費(電費)の悪化は避けられません。
冬場の運転で最も困る問題が、フロントガラスやリアガラスの曇りです。これは単なる不快感ではなく、視界の確保に関わる安全問題でもあります。窓ガラスが曇る原因は、車内と車外の温度差に起因する結露現象。暖かい車内と寒い外気の温度差が大きいほど、ガラス表面に水滴が付きやすくなるのです。
除湿機能はA/CボタンをONにすることで稼働します。コンプレッサーが作動して車内の湿度を下げることで、ガラス表面の結露が蒸発しやすくなります。ただし、除湿効果が出るには時間がかかることが多いため、急ぐ場合はデフロスター機能(フロントガラスに直接温風を送る機能)と併用するのが効果的です。
除湿には二つのアプローチがあります。ひとつは外気導入で、開いた窓から外の乾燥した空気を取り込む方法です。冬場の空気は湿度が低いため、外気導入するだけでもガラス曇りが改善することがあります。もう一つがA/Cを使った内気循環での除湿です。梅雨や雨の日は外気の湿度が高いため、内気循環でA/Cをオンにして強制的に除湿するのが最善の対策です。
参考:窓ガラスの曇り取りに関する詳細は以下をご覧ください
車のフロントガラスが曇ると危険!原因と内側・外側の曇り取りの方法
多くのドライバーが無意識のうちに、暖房が必要な場面でもA/Cボタンをオンのままにしています。これは大きな燃費損失につながっています。基本的なルールは単純です:暖房だけが必要な場面では、A/CボタンはOFFにする。冬場に車内を温めるだけであれば、A/Cボタンなしでもエンジン熱で十分な温風が供給されるのです。
燃費改善の実践的な方法として、以下のアプローチが有効です。まず、車に乗車する時点でオートエアコンの AUTO ボタンが既に押されている場合、その直後にA/Cボタンを手動で切るだけでコンプレッサーの不要な稼働を防止できます。一度この習慣がついてしまえば、月間で数パーセントの燃費改善が期待できます。
夏場の冷房使用時には別のテクニックがあります。駐車直後の超高温状態で急激に冷房を全開にするのではなく、まずは窓を全開にして熱気を放出させてから、徐々に冷房を使用する方法です。このステップを踏むことで、コンプレッサーの初期負荷が大幅に軽減され、全体的な燃費が改善されます。
参考:エアコン使用時の燃費に関する詳細情報
エアコンで車の燃費は悪化する?燃費に良いエアコンの使い方
A/Cシステムには一般的な冷房・除湿以外にも、実は多くのドライバーが知らない活用法があります。その最たる例が、エンジンブレーキ時の省燃費テクニックです。通常、エンジンブレーキで走行している際、コンプレッサーは設定温度に応じてオンオフを繰り返しています。しかし、この局面であえて冷房を強制的に稼働させることで、下り坂での燃料消費をより最適化できる可能性があります。
季節別の最適な使用方法もあります。春と秋は車内温度が安定しやすく、温度調整が少なくて済みます。この季節は暖房・冷房の切り替えを最小限にすることで、自動的に燃費が改善されます。一方、梅雨時期は室内の湿度が急上昇するため、A/Cの除湿機能の出番です。
興味深いことに、最近の研究ではスマートなエアコン制御システムがコンプレッサーの稼働時間を16~23回/時間に制限することで、21~28%の燃費削減が実現できることが報告されています。これは従来のオンオフ制御よりも遙かに効率的であり、近い将来の新車にはこうした賢いシステムが標準装備される可能性が高いです。
参考:カーエアコンの先進制御技術に関する情報
車のACボタン、ACの意味。車エアコンの暖房は?|チューリッヒ
これで十分な情報が得られました。記事を作成いたします。