コリジョンコース現象は、見通しの良い田園地帯の交差点で発生するため「ありえない」と感じる方が多い現象です。視界が開けた場所であれば、接近する車両を簡単に発見できると思われがちですが、実際には人間の視覚特性により相手車両が止まっているように錯覚してしまいます。
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この現象は、同じ速度で直角に交わる交差点に向かって走行する車両同士が、常に斜め約45度の角度で視界に入り続けることで発生します。人間の目は動いている物体よりも静止している物体の認識が苦手であり、角度が変わらない物体を動いていないと判断してしまうのです。
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さらに、運転席から見て斜め約45度の位置はフロントピラー(Aピラー)の死角と重なりやすく、相手車両がピラーの陰に隠れ続けることで視認がさらに困難になります。見通しが良いからこそ油断が生まれ、重大事故につながる危険性が高まるのです。
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人間の視野には「中心視野」と「周辺視野」という2つの異なる特性があります。中心視野は物体の色や形を正確に認識できる範囲で、周辺視野は動きを捉えられるものの詳細がぼやけて見える範囲です。
コリジョンコース現象では、交差点で斜め45度の位置から接近する車両が周辺視野で捉えられるため、動いていないように錯覚してしまいます。周辺視野は動きの検知には敏感ですが、角度が変わらない物体の動きは認識しづらいという弱点があるのです。
人間の視野は約180度ありますが、遠くの物体から届く光は弱く散乱しやすいため、距離のある車両の認識も困難になります。また、動いている物体を追跡する目の筋肉の動きが追いつかず、高速で移動する車両がぼやけて見えることも事故の一因となっています。
コリジョンコース現象によって発生する事故は「田園型事故」「十勝型事故」とも呼ばれ、北海道の十勝地方など広大な平野部で多発しています。見通しの良い交差点であるにもかかわらず、双方の車両が減速せずに進入し、出会い頭に衝突する重大事故が後を絶ちません。
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2015年6月に岐阜県養老町で発生した事故では、田んぼの中にある見通しの良い交差点で、軽ワゴン車と軽トラックが減速しないまま衝突し、1名が死亡しました。現場には信号機や標識がなく、双方のドライバーがお互いの存在に気づかなかったことが原因とされています。
この種の事故は交通量の少ない場所で発生するため、ドライバーの注意意識が希薄になりやすく、衝突寸前まで減速しないことから衝突速度が高くなり、死亡事故や重傷事故につながりやすい特徴があります。福島県でも同様のコリジョンコース現象による4人死亡事故が報告されており、全国的な課題となっています。
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コリジョンコース現象による事故を防ぐには、交差点進入時に首を動かして積極的に左右の安全確認を行うことが最も重要です。視線を意識的に変えることで、周辺視野にある車両を中心視野で捉えることができ、相手車両の動きを正確に認識できるようになります。
交差点手前では必ず減速し、道路標識をよく確認することも効果的な対策です。見通しの良い交差点では「安全」という思い込みが生まれやすいため、一時停止標識がない場所でも速度を落として細心の注意を払う必要があります。
自治体による対策として、栃木県では2018年から下野市内の交差点に「視野対策ポール」を設置しています。交通量の多い道路の両側に高さ2.6メートルの白いポールを8メートル間隔で20本設置することで、ドライバーの周辺視野を刺激し、交差する道路からの車両の動きを認識しやすくする工夫が施されています。
参考)https://www.tfm.co.jp/koutsu/index.php?catid=2493amp;itemid=148481
車間距離を十分に保つことも重要で、前車との距離を約2台分確保し、交差点では さらに距離を広げることで急ブレーキ時の追突リスクを軽減できます。
ドライブレコーダーは、コリジョンコース現象による事故の検証や予防に重要な役割を果たしています。物流業者やタクシー事業者を中心に導入が進んでおり、衝突やニアミス時の映像記録が事故原因の分析に活用されています。
参考)https://www.mlit.go.jp/chosahokoku/h23giken/program/kadai/pdf/innovation/inno2-06.pdf
ドライブレコーダーのデータからは、急ブレーキなどの危険事象を抽出することができ、危険が集中している交差点や地点を特定して要対策箇所の候補とすることが可能です。記録された映像を分析することで、ドライバーの視線の動きや注意の向け方を検証し、効果的な安全教育に役立てられています。youtube
東京農工大学の研究では、ドライブレコーダーから取得した映像データを分析し、交通事故の防止に活用する取り組みが行われています。特に右折時の視線の動きや、交差点での見落とし事故の発生メカニズムを検証することで、予防安全技術の開発につながっています。
参考)「右折時どこを見ていますか?」ドライブレコーダーの事故防止へ…
ドライブレコーダーの映像を使った錯覚クイズや教育教材も開発されており、初任運転者教育においてコリジョンコース現象や溶け込み現象などの危険な錯覚について学ぶ機会が増えています。youtube+1
国土技術政策総合研究所によるドライブレコーダデータを活用した生活道路の交通安全対策研究
このリンクでは、ドライブレコーダーのデータから危険事象を抽出し、効率的に要対策箇所を特定する手法について詳しく解説されています。コリジョンコース現象の対策立案にも役立つ科学的分析手法が紹介されています。
コリジョンコース現象を予防するには、ドライバー自身が現象の存在とメカニズムを正しく理解することが不可欠です。見通しの良い交差点こそ危険であるという認識を持ち、「車が止まって見える」という錯覚が起こりうることを常に意識して運転する必要があります。
警察や自治体では交通安全講習において、コリジョンコース現象について積極的に啓発活動を行っています。埼玉県警察や福島県警察では、田園型事故の原因となるコリジョンコース現象を知ってもらうための資料を配布し、首を振ってよく見える部分を確保する方法を指導しています。
参考)https://www.police.pref.saitama.lg.jp/documents/19763/koureidoraiba0706.pdf
交差点では車両のサイズや形状にも注意が必要です。大型トラックやバスなどの車体が大きい車両の後ろでは視界が遮られやすく、スポーツカーやクーペなど車高の低い車両では交差点を横断する車両や歩行者に気づきにくくなります。
夜間や雨天時には視界がさらに悪化するため、より一層の注意が求められます。路面が滑りやすい状況ではスピードを控え、子供や高齢者が歩いている可能性も考慮した安全運転を心がけることが、コリジョンコース現象による事故を防ぐ鍵となります。
まとめとして、コリジョンコース現象は「ありえない」と思われがちですが、人間の視覚特性により実際に起こりうる危険な現象です。交差点では必ず減速し、首を動かして積極的に安全確認を行い、周囲の状況を正確に把握することで、重大事故を未然に防ぐことができます。
JAFによるコリジョンコース現象の詳しい解説
こちらのJAF公式サイトでは、コリジョンコース現象の特徴や発生メカニズムについて、図解入りでわかりやすく説明されています。安全運転のための具体的なアドバイスも掲載されています。