風籟 マツダ Nagareデザイン ロータリーエンジン

2008年デトロイトモーターショーで発表されたマツダの幻のコンセプトカー「風籟」。その革新的なNagareデザイン哲学、3ローターロータリーエンジン、数値流体力学を駆使した空力性能、そしてル・マン参戦シャシーの採用。マツダのスポーツカースピリットを全身で表現した究極のデザインスタディとは何か?

風籟 マツダのNagareデザイン体現

風籟 マツダの特徴
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Nagareデザイン哲学の集大成

風籟はマツダの「Nagareシリーズ」第5弾コンセプトカー。流動的な曲面を使った革新的デザイン哲学を具現化

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3ローターロータリーエンジン搭載

R20B型で456馬力を発揮。軽量コンパクト設計で高いパワーウェイトレシオを実現

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実走行可能なコンセプトカー

デザインスタディに留まらず、実際にサーキット走行が可能な仕様として設計

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CFDを活用した空力設計

数値流体力学により最大限の空力性能を引き出す流線型ボディ

風籟 Nagareデザイン哲学の具現化

 

マツダが2006年から展開した「Nagareシリーズ」は、流動的なデザインコンセプトを自動車の造形に初めて本格的に導入した革新的なプロジェクトです。「Nagare(流れ)」とは、「動き、エネルギー、軽やかさといった要素を、流れとして造形やラインで表現するデザイン哲学」を意味します。風籟はこのシリーズの最終章となる第5弾であり、コンセプトカー「流(ながれ)」に始まり、「琉雅(りゅうが)」「葉風(はかぜ)」「大気(たいき)」を経て完成した集大成です。

 

「風籟」という車名には「風の音」という意味があり、風を切りながら疾風のように突き進むレーシングカーをイメージして付けられました。外観は流動的な曲面で統一され、フロントからリアへと続くラインは滑らかで、ボディサイドには流体の流れを思わせるスリッドが配置されています。リアに備わる大型ウイングはボディの流線形と完全に一体化され、レーシングカー同然の迫力を感じさせます。

 

風籟のロータリーエンジン R20Bの性能

風籟の心臓となるのは、マツダが誇る3ローターロータリーエンジン「R20B」です。総排気量1962ccのこのエンジンは、最高出力456馬力、最大トルク414Nmを発揮します。環境への配慮から、燃料にはエタノール(E100)を採用し、従来のガソリンに代わる環境配慮型の燃料を用いた初の高性能コンセプトカーとなりました。

 

ロータリーエンジンの特性として、同程度の出力を持つレシプロエンジンと比較すると、冷却装備を含めても軽量でコンパクトという大きな利点があります。風籟の車両総重量はわずか675kg。パワーウェイトレシオは1.2kg/cvという驚異的な数値を記録しており、これはスーパースポーツカー並みの加速性能を実現しています。レブリミットは10000rpmまで対応し、最高速度は357km/hに達する設計仕様です。

 

ロータリーエンジンの回転軸1回転あたりの燃焼回数が2倍となるため、同じ総排気量でも高い出力を得ることが可能です。さらに低振動・低騒音という特性により、3ローター構成では8~12気筒エンジン並みの滑らかな回転を実現しており、ドライバーが体感するエンジンフィールは格別です。

 

風籟のCFD空力設計と流線型ボディ

風籟のボディ設計には、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)が用いられました。液体や気体の流れを予測するコンピューターシミュレーション技術により、最大限の空力性能を引き出すことが可能になったのです。ボディ全体の曲面処理は、この最先端の技術に基づいて最適化されています。

 

ボディサイズは全長4563mm、全幅1956mm、全高977mmという低く幅広い設定です。フロント全体に伸びるブルーのライトが幻想的な雰囲気を醸し出し、マフラーはロータリーエンジンを象徴する角形でデザインされています。ドアは跳ね上げ式を採用し、スーパーカーとしての風格を完璧に具現化しています。

 

風籟のシャシー ル・マン参戦マシンの遺産

風籟のベースシャシーは、アメリカン・ル・マン・シリーズに2005年~2006年にかけて参戦していた「クラージュ C65 LMP2」からの採用です。ル・マン24時間レースという世界最高峰のモータースポーツで培われた技術と信頼性を備えたシャシーであり、単なるデザインスタディに留まらず、実際にサーキット走行が可能な性能を備えていることを示しています。

 

ボディには「55」のナンバーが刻まれており、これは1991年のル・マン24時間レースで日本初の総合優勝を果たした伝説のレーシングカー「787B」へのオマージュです。前作の「大気(たいき)」で見られた特徴的な独立したリアタイヤも踏襲されていますが、実走性能の向上から、より一般的で機能的な形状に改められています。

 

インテリアはミニマムなレーシングカー仕様の2シーター設定で、バケットシートにはイタリアの高性能シートメーカー「SPARCO(スパルコ)」製の4点式シートベルトを採用。ステアリングホイールも同社製で、走行性能への徹底的なこだわりが見て取れます。ブラックボディを引き立たせる室内も黒を基調に、赤のカーボンでアクセントを入れるなど、高級スポーツカーの美学が貫かれています。

 

風籟が象徴するマツダのスポーツカースピリット

風籟はマツダが提唱する「Zoom-Zoom」の具現化として設計されました。サーキットと一般道の間にある超えられない境界線を越えたいというマツダのエンジニアリング哲学を、このたった一台の車両に詰め込んだのです。コンセプトカーであるにもかかわらず、実走行が可能であるという事実そのものが、マツダのスポーツカー開発における矜持と自信の表れといえます。

 

燃料のエタノール採用も、21世紀初頭における環境問題への先制的な対応を示しており、高性能と環境配慮を両立させる新しい方向性を提示していました。ロータリーエンジンの回転フィールを最大限にドライバーが体感できるミニマル設計の車体も、「機械とドライバーの直感的なコミュニケーション」という、マツダが目指すスポーツカーの理想形を象徴しています。

 

マツダのデザインチームが示した「Nagareシリーズ」全体の完成形として、風籟は同社の創造性とエンジニアリング力の頂点を表現した作品といえるでしょう。

 

参考資料:マツダ公式プレスリリース「2008年北米国際自動車ショーにコンセプトカー『マツダ風籟』を初公開」にて、風籟の設計思想、技術仕様、デザイン哲学についての詳細情報を確認できます。

 

https://newsroom.mazda.com/ja/publicity/release/2007/200712/071212.html
Wikipedia「マツダ・風籟」のページにて、風籟の技術仕様、開発背景、シリーズの位置付けについて確認できます。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%BB%E9%A2%A8%E7%B1%9F
ロータリーエンジンの技術特性について、Wikipedia「ロータリーエンジン」のページにて、複数ローター構成時の低振動特性、スムーズな回転特性についての技術情報が確認できます。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3

 

 


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