イネオス グレナディアーズとピナレロの提携は、チーム黎明期から続く長い関係です。かつてはスカイ・プロサイクリングの時代から、ピナレロのドグマシリーズを使用し続け、世界中のグランツール（ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ヴォルタ・ア・エスパーニャ）で数々の勝利を掴んできました。特にゲラント・トーマスやトーマス・ピドコック、アダム・イェーツといった錚々たるライダーが同じロードバイクで世界の舞台で戦っています。
チームカラーであるネイビーとゴールドのモデルは、市販版としても販売されており、プロレースを追求するアマチュアライダーに強く支持されています。ピナレロが誇るデザイン哲学により、ジオメトリーや空力特性はプロ選手と同じものが提供されるため、同じ環境で走りを追求できるという点が大きな魅力となっています。
ワールドチームバイク図鑑 - サイクルスポーツ
プロレース専用機材の詳細スペックと進化の過程が網羅されています。
2024年に投入された新型ドグマの最大の特徴は、UCIの規格緩和に対応した革新的なフレーム設計にあります。従来のモデルでは、ヘッドチューブがえぐれた形状を採用していましたが、新型ではヘッドチューブが深くなり、より直線的で空力効率に優れた設計へと進化しました。これにより、風の抵抗を最小化しつつ、フレーム全体の剛性を維持することができました。
ダウンチューブも従来のボトルケージに合わせた窪み形状から、ストレート設計へと変更されました。この変更は単なるデザインの簡素化ではなく、軽量化を強く意識した設計転換です。わずか数グラムの軽量化も、登坂やスプリントといったレースの局面で明確な優位性を生み出します。シートステイも細くなり、全体的に「軽さ」と「強さ」のバランスを極限まで追求した形態となっています。
新型ピナレロ ドグマの詳細解析 - Bike News
新型フレーム設計の詳細な変更点と、その性能への影響が詳しく説明されています。
2022年のツール・ド・フランスは、イネオス グレナディアーズにとって機材面での大きな転換点となった大会でした。それまで頑なにリムブレーキのドグマを使い続けてきたチームが、ついにディスクブレーキ化を達成したのです。この決断の背景には、タイヤ交換時のタイムロスを徹底的に排除する戦略がありました。ディスクブレーキ化により、ホイール交換がより迅速になり、レース中のメカニカルトラブルへの対応が柔軟になったのです。
同時にタイヤもチューブラーからチューブレスへの完全移行を実現しました。コンチネンタルの「GRANDPRIX 5000S TR」を採用し、石畳ステージでは茶色サイドのタイヤを投入するなど、路面条件に応じた細かな調整も行われました。この年のツールでゲラント・トーマスが総合3位に入賞し、チーム総合優勝を達成したのは、こうした機材面での革新があってこそです。
ツール2022のイネオス グレナディアーズ機材完全解析 - サイクロワイアード
2022年ツール・ド・フランスにおけるイネオス グレナディアーズの機材選択と技術的背景が詳しく記載されています。
イネオス グレナディアーズはシマノのグローバルサポートチームであり、コンポーネント一式をシマノの最上位グレード「デュラエース」で統一しています。特に2022年ツール以降はR9200シリーズの最新型を採用し、Di2電動変速システムにより、雨天や悪路での確実な変速性能を確保しています。パワーメーター付きクランク（FC-R9200-P）は供給に限りがあるため、トーマスなど限られたエースライダーのみに供給される非常に希少なパーツとなっています。
それ以外の選手はFC-R9100-P型を使用していますが、この選別すら世界最高峰のレース環境での厳密さを物語っています。ホイールについては、デュラエース純正ホイールの軽量化により採用率が大幅に回復した一方で、タイムトライアル用にはプリンストン・カーボンワークス製の「experimental prototype（実験的プロトタイプ）」と銘打たれた超ディープリムホイールやバトンホイールが前輪に、ディスクホイールが後輪に使い分けられています。
最も興味深いのは、プロトタイプ段階のホイールが選手間で共有されることです。これはピナレロとシマノが常に最新の技術をテストし、それを即座にレースで実装する文化があることを示しています。さらにTT用のカスタムハンドルは、先端部分が3Dチタンプリント製の金属パーツで構成され、カスタムメイドのDi2変速スイッチまで取り付けられるという、真の意味での「オーダーメイド」が実現されています。
ピナレロが「ドグマ」と名付けた理由は、その設計哲学にあります。ドグマのジオメトリーは、単なるレースバイクではなく、「オールラウンダー」としての完成度を極めています。従来のロードバイク設計では、軽量性とエアロダイナミクスのいずれかを優先させるケースが多かったのですが、ドグマはこの二律背反に向き合い、両立させることに成功しました。
剛性、軽量性、空力性能、快適性のすべてが高次元で融合した設計となっており、ツール・ド・フランスの平坦路での高速走行、アルプス山脈での登坂、そして石畳ステージであるパヴェまで、同じフレームで戦い抜くことが可能です。これは単なるスペック上の数値では表現できない、ピナレロ創業以来の設計哲学が反映されたものなのです。
特にONDAフォークと呼ばれるフォーク設計は、ペダリング時の力の左右不均衡を考慮し、左右非対称の剛性配置を実現しています。人間の脚は必ずしも左右対称ではなく、パワー伝達も非対称であるという事実に着目したこの設計は、パワーロスを抑えながら安定した加速を実現します。
PINARELLO DOGMA F12 チームカラーモデル - Y's Road
市販版のチームカラーモデルの詳細スペックと、プロ仕様との違いが記載されています。
2025年シーズンを前に、イネオス グレナディアーズは新しい選手を獲得し、ロースターを刷新しました。元オセアニア王者のハミルトンなど、若い才能の台頭により、チーム構成が大きく変わろうとしています。このような世代交代の中でも、ピナレロ ドグマという「最強のロードバイク」は、新旧ライダーの走りを支える不変の武器となるでしょう。
今後、ツール・ド・フランス2025、ジロ・デ・イタリア、ヴォルタ・ア・エスパーニャといった主要レースで、このドグマがどのような進化を遂げるのか、そして新しい世代のライダーたちがこの機材で何を成し遂げるのかが注視される点です。ピナレロとシマノのエンジニアリング、そしてイネオス グレナディアーズの現場でのフィードバックが融合したとき、ロードバイク技術の次のフロンティアが開拓されるのです。
プロレース界の頂点で使用される機材の進化は、やがてアマチュアライダーのために市販化される道を辿ります。現在のドグマ市販モデルを手にしたライダーは、プロ選手と同じ設計思想、同じジオメトリーで世界の道を走ることができるという特別な体験を得られるのです。
イネオス グレナディアーズ 2025年ロースター - J SPORTS
2025年シーズンのチーム構成と選手情報が最新情報として記載されています。
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