警察統計によると、かつてのピーク時である1980年代には全国で4万人以上が確認されていた暴走族構成員ですが、取り締まり強化や少子化の影響により大幅に減少してきました。2020年には過去最少の5714人まで落ち込みましたが、2024年は5880人と微増に転じています。特に注目すべきは、女性構成員の急増です。従来は200人以下で推移していた女性参加者が、ここ数年で232人に達し、過去5年間で最高を記録。さらに10代の若年参加者も顕著に増加しており、参加のハードルが大幅に低下していることを示唆しています。
この傾向は地域によってさらに顕著です。神奈川県では過去5年間で構成員が約2倍に急増し、540人から1031人へと増加。横浜や川崎、相模原などの政令市を中心に約20グループの活動が把握されており、県警は「暴走族といえば神奈川というイメージを少年たちが共有している」と分析しています。横浜や湘南地域は不良少年文化の発信地として知られ、漫画やドラマの舞台になることで、新規参加者を引き寄せるブランド効果が生じている可能性も指摘されています。
参加者の多様化背景には、SNSの普及が大きな役割を果たしています。LINE、TikTok、Instagramなどのプラットフォームを通じた参加募集が増え、暴走族として認識せずに巻き込まれるケースが増加。特に若い世代は「仲間と集まって走る」という行為の楽しさに注目し、違法性や危険性を後付けで認識するというパターンが一般的になってきました。このような参加形態の変化は、従来型の組織の掟に厳しさを感じる若年層にとって、参加障壁を大幅に下げた要因となっています。
従来の暴走族は「共同危険型暴走族」と称され、50~100台規模の大所帯が組織的に行動し、掟やヒエラルキーが厳格に定められていました。しかし現代では、このような組織型のスタイルは「絶滅危惧種」と評されるほど減少。代わりに、気の合う仲間同士が集まる5~10人程度の小規模グループが主流となっています。警察白書によると、グループ数は平成29年から令和3年までの5年間で170から110に減少しましたが、参加台数は1865台から2600台に増加。集団規模は縮小しながらも、活動の頻度と参加者数は増えているという逆説的な傾向が見られます。
これらの小規模グループの活動形態を「ゲリラ型暴走」と呼ぶのが適切です。散発的かつ計画性のない暴走行為を展開し、警察の予測がつきにくいという特性があります。従来型とは異なり、明確な集団の掟や抗争といった組織的構造が希薄化。参加者は緩やかな結びつきで繋がっており、柔軟な組織体制が逆に取り締まりを困難にしています。警察でも従来の調査方法では実態把握が難しくなったため、1999年から暴走族の分類を変更。「共同危険型」と「違法競走型」に分けて統計管理するようになりました。
さらに懸念されるのは、この小規模化がより悪質な行為へのシフトを招いているという点です。従来の大規模グループでは、組織の掟が一定の枠を設けていたため、行動には一定の予測可能性がありました。しかし小規模グループでは、個人の欲求や飲酒などの影響を直接受けやすくなり、より危険で無秩序な走行形態が生まれやすくなっています。警視庁などの報告では、無免許運転やドラッグの使用といった深刻な違法行為が複合的に発生するケースが増加傾向にあります。
かつての暴走族は、改造バイクのエンジン音を誇示する「爆音文化」や、複数台による連携した走行が特徴でした。現代の暴走族は、より専門的で技術的な走行形態へと進化しています。特に「違法競走型暴走族」の台頭が著しく、1994年には従来型が大多数でしたが、現在は非従来型の割合が26.4%を超えるまでに増加しました。この非従来型の中心にあるのが、ドリフト族やローリング族、ゼロヨン族といった走行技術を競う集団です。
ドリフト走行は、高速でカーブに進入し、後輪をスライドさせながら走行する技術。公道での実施は極めて危険であり、周辺車両に対する脅威となります。最近の警視庁の報告では、「違法に改造した車両で集まり、道路を占拠してドリフト走行を行う集団が増えている」と指摘。これらの集団は、山岳道路や臨海部の工業地帯といった視認性の低い場所を活動拠点にしており、警察も対応に苦慮しているのが現状です。ローリング族とは、複数台の車両が並んで走行する形態を指し、一見するとツーリングと見分けがつきにくいという特性があります。
違法改造も一層巧妙になっています。単なるマフラー改造から、エンジンチューニング、エアロパーツの装着、サスペンションの改造といった複合的な修正が施されるようになりました。これにより、通常車両よりも飛躍的に性能が向上。高速走行時の加速性能や操作性が大幅に改善され、より危険な走行が可能になっています。改造を行う工場や業者の一部も、「表向きは合法改造」という名目で作業を受け付けており、違法性の認識が曖昧化しているという側面もあります。
令和時代の暴走族文化を理解するには、SNSという新しいメディアの影響を無視することはできません。従来の暴走族が、社会への反抗や青年文化の一部として位置付けられていたのに対し、現代の参加者はより個人的で自己表現的な動機を持つようになっています。TikTokやInstagramでは、カスタムバイクの投稿、爆音動画の拡散、そして集団での走行動画がコンテンツ化。「映える」「バズる」という現代的な価値観が、従来の暴走族活動と結合しています。
このSNS文化の浸透により、暴走行為自体が「エンターテインメント化」しています。参加者たちは、自らの走行行為を動画化し、フォロワーからの「いいね」を獲得することを目的の一つとしています。これにより、物理的な危険性よりも、「どれだけ注目を集められるか」という視点が優先されやすくなりました。また、SNS上での「ハイプ」(話題性)を求めて、より過激で危険な行為へとエスカレートするという心理メカニズムも働いています。
同時に、SNSを通じた参加募集には、意図的に法的責任を回避する工夫が見られます。「原付きツーリング」という表現で参加を呼びかけたり、「ドライブクラブ」といった無害な名称を使用したりすることで、参加者が暴走族としての認識を持たないまま巻き込まれるケースが増加。毎日新聞の報道では、「暴走族と知らないまま事件に巻き込まれる例も目立つ」と指摘されており、社会的な認識と実態との乖離が深刻化しています。
現代の暴走族対策は、従来の方法では対応しきれないほど複雑化しています。法律的には、「共同危険行為罪」が規定されており、2人以上で一定区間の通過タイムを競うなどの行為は、懲役2年以下または50万円以下の罰金に処せられます。さらに違反点数25点が付与され、運転免許の取り消しとなり、その後数年間は免許の再取得が不可能になるという厳しい処分が待っています。しかし、小規模グループ化した現代の暴走行為では、この共同危険行為罪が適用されないケースも増加しており、法的な穴が生じているのが実情です。
警視庁では、この新しい脅威に対応するため、2025年7月に取り締まり体制の強化を発表しています。毎週土曜日に「暴走族対策本部」を設置し、交通機動隊と高速道路交通警察隊を集中的に運用。ドローンや防犯カメラ、そして110番通報アプリの活用により、監視体制の高度化が進んでいます。さらに、暴力団や特殊詐欺といった他の犯罪との関連性も調査対象に含まれており、暴走族活動を単なる交通違反ではなく、組織犯罪との関連性も視野に入れた対策が展開されています。
また、「旧車會」と呼ばれる元暴走族グループの台頭も新しい課題です。表向きは「改造旧車愛好家のクラブ」として活動していますが、警察が監視していない場所では暴走族と変わらない違法走行を敢行しているグループが存在します。これらは従来の暴走族分類には該当しないため、統計上は見えにくくなっており、実態把握が困難になっているという構造的問題があります。警視庁は、違法走行を行う旧車會員に対する厳密な取り締まりを強化する方針を示しており、新しい形態の違法行為に対応する法整備も進められています。
参考リンク:警視庁の暴走族対策について詳細な取り締まり情報と最新の活動実態
警視庁 - 暴走族及び違法行為を敢行する旧車會員等に対する取締りの実施
参考リンク:神奈川県内での暴走族の急増傾向と10代、女性参加者の増加に関する報道
毎日新聞 - 令和の暴走族の実態と神奈川県での構成員急増