ガソリン補助金の廃止を決定した最大の要因は、政府の財政負担が限界に達したことです。2022年1月の導入から3年近く続いた補助金制度には、すでに5兆円近い税金が投入されており、最終的には6兆円を超える規模に達しました。この額は一般家庭の教育費や医療費、地域インフラの整備など、他の重要な政策に充てることができる莫大な予算です。
年間で数千億円規模の継続的な支出は、高齢化による社会保障費の増加や、近年の防衛費拡大といった新たな財政需要と競合することになりました。政府の予算編成において、限られた財源をどこに配分するかという選択と集中の問題が深刻化する中で、補助金に依存し続けることは政策的に持続不可能と判断されたのです。特に物価高騰が一時的な現象ではなく、長期化する兆候を見せ始めたことで、「いつまで補助を続けるのか」という議論が避けられなくなりました。
世界的なエネルギー政策の転換も、日本の補助金廃止を加速させた重要な背景です。フランス、米国、英国、ドイツ、イタリア、カナダといった主要先進国のほぼすべてが、すでに化石燃料補助金の縮小または完全廃止に踏み切っていました。2030年のカーボンニュートラル、2050年の脱炭素社会という国際的な約束を果たすために、各国は補助金が持つ逆機能に気づき始めたのです。
ガソリン補助金は、使用者の負担を軽くすることで、相対的にガソリン車の利用を促進してしまうという矛盾を含んでいます。このため、電気自動車(EV)への転換や再生可能エネルギーへのシフトという政策目標と真正面から対立することになります。国連環境計画やIMF(国際通貨基金)も、化石燃料補助金の廃止が気候変動対策に不可欠であると指摘しており、日本が国際的な約束を守るには補助金の終了が必然的な判断だったのです。
2024年後半から、ガソリン補助金の継続理由だった外部要因に変化が生じました。ウクライナ情勢やロシアの供給制限に伴う原油価格の高騰が一進一退を繰り返す中で、市場は徐々に安定化への道を歩み始めたのです。同時に、日本銀行の金利引き上げと米国の金利政策の動向により、為替が円高方向に傾くようになりました。
円高は、海外で採掘された原油を日本が輸入する際の購入額を自動的に引き下げるため、ガソリン小売価格の下降圧力となります。補助金の導入時点では1リットルあたり200円を超える価格帯が常態化していましたが、2024年の後半には170円台から180円台での推移が多くなり、補助金がなくても家庭や企業が対応可能な水準に戻りつつありました。この「補助金がなくても何とかなる」という状況判断が、廃止決定の後押しとなったのです。
日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)を達成することを掲げており、この目標を実現するには、ガソリン車から電気自動車やハイブリッド車への急速な転換が不可欠です。しかし、ガソリン補助金の存在は、この政策目標と直接的に矛盾する施策でした。補助金によってガソリンの実質負担が軽くなれば、消費者はガソリン車を選び続けるインセンティブを持つからです。
経済学的に見ると、政府が示す補助金は「その商品(この場合ガソリン)を使い続けてほしい」というシグナルを社会に送ることになります。同時に政府が「電気自動車を選んでほしい」というメッセージを発しても、その本心が疑われ、政策としての一貫性を失ってしまうのです。グローバルな観点から見ても、環境関連の国際会議で日本が「脱炭素を推進している」と主張しながら、一方でガソリン補助金を延長し続けることは、国際的な信頼性を損なうものでもあります。
補助金の廃止は一夜にして実行されたのではなく、段階的に進められました。2024年12月19日には、補助金の算定方法が変更され、補助率が60%から30%に引き下げられました。この時点で、レギュラーガソリンの全国平均価格は1リットルあたり5円の値上げ圧力を受けることになりました。その後、2025年1月16日には残りの30%の補助金が完全廃止され、さらに5円の値上げが実現したため、合計で約10円の上昇を見ることになりました。
補助金廃止に伴う価格上昇は、全国的にレギュラーガソリン1リットル185円という水準をもたらしました。この額は、補助金が存在していた時代の170円台から180円初盤という相場に比べると、家計に直接的な影響を与える変化です。特に、農業従事者や物流業など、ガソリンを大量に消費する産業にとっては、年間の燃料費が数百万円単位で増加することになり、経営への重大な圧力となります。一般的な家庭でも、月々の給油額が数千円単位で増えるため、長期的には相当な家計負担の増加を意味するのです。
参考リンク:ガソリン価格の最新動向と補助金政策に関する公式情報
資源エネルギー庁「ガソリン価格の引き下げはいつから?今後どうなる?よく寄せられるご質問」
参考リンク:補助金廃止理由と経済的影響についての詳細解説
「ガソリン補助金が廃止されるのはなぜ?生活への影響と今後の対策を解説」