ホンダのe:HEVは、従来のハイブリッドシステムとは一線を画す独自の技術を採用しています。最大の特徴は、駆動用モーターと発電用モーターの2つを組み合わせた2モーターシステムにあります。
このシステムでは、発進から街中の走行において、バッテリーからの電気でモーターのみで走行する「EVモード」を基本としています。エンジンが稼働する際も、主に発電用モーターを回すために使用され、その電力で駆動用モーターを動かすという仕組みです。
e:HEVの革新的な点は、高速クルージング時にエンジンの動力を直接タイヤに伝える機能を持っていることです。約100km/h以上の高速域では、モーターの効率が低下するため、エンジンを直結させて効率的な走行を実現します。
この制御により、市街地ではEVのような静粛性と滑らかな加速を享受でき、高速道路では燃費効率を最大化できるという、両方の利点を兼ね備えています。
従来のハイブリッドシステムは、主に3つの方式に分類されます。
シリーズ方式
パラレル方式
シリーズ・パラレル方式
e:HEVは、これらの方式とは異なる独自のアプローチを採用しています。低・中速域ではシリーズ方式のようにモーター主体で走行し、高速域ではパラレル方式のようにエンジンを直結させる制御を行います。
この制御により、各方式の長所を活かしながら短所を補完する、まさに「いいとこ取り」のシステムを実現しています。
e:HEVの燃費性能の秘密は、3つの走行モードを状況に応じて自動切り替えすることにあります。
EVモード 🔋
ハイブリッドモード ⚡
エンジンモード 🚗
これらのモード切り替えは、ドライバーが意識することなく自動で行われ、常に最適な効率で走行できるよう制御されています。
特に注目すべきは、減速セレクター機能です。ハンドル左右のスイッチで減速の強さを4段階で調整でき、下り坂や高速道路での速度調整を手元で行えます。
e:HEVと他社のハイブリッドシステムを詳細に比較すると、それぞれの特徴が明確になります。
項目 | e:HEV | e-POWER | THS II |
---|---|---|---|
基本方式 | シリーズ+パラレル | シリーズ | シリーズ・パラレル |
高速域 | エンジン直結 | モーター駆動 | エンジン+モーター |
市街地 | モーター主体 | モーター主体 | 状況に応じて切替 |
特徴 | EVフィール重視 | 発電専用エンジン | バランス重視 |
e:HEVの優位性
他社システムとの違い
e:HEVは、日常使用の大部分を占める市街地走行でのEVフィールを重視しながら、高速域での効率も確保するという、実用性を重視した設計思想が特徴的です。
e:HEVの技術は、自動車業界の電動化トレンドにおいて重要な位置を占めています。特に注目すべきは、外部給電機能への対応可能性です。
現在、トヨタのハイブリッド車では1500Wの外部給電機能が標準化されつつあり、災害時の非常用電源として活用されています。e:HEVシステムも同様の機能拡張が期待されており、以下のような用途が想定されます。
災害時の活用 🏠
アウトドア活用 🏕️
e:HEVの2モーターシステムは、発電用モーターを活用した外部給電において、従来のハイブリッドシステムよりも効率的な電力供給が可能になる可能性があります。
また、カーボンニュートラル社会への貢献も重要な要素です。e:HEVは、純粋なEVへの移行期における現実的な選択肢として、以下の利点を提供します。
ホンダは2040年までに新車販売の100%を電動車にする目標を掲げており、e:HEVはその重要な橋渡し役を担っています。現在、フィット、ヴェゼル、シビック、ZR-Vなど、幅広い車種にe:HEVが搭載されており、今後さらなる展開が期待されています。
技術的な進歩により、e:HEVシステムの効率はさらに向上し、バッテリー容量の拡大やモーター出力の向上により、EVモードでの走行距離延長も実現されるでしょう。これにより、日常使用においてはほぼEVとして機能し、長距離移動時のみエンジンを使用するという、理想的なハイブリッドシステムへと発展していく可能性があります。