道路交通法第71条の3第1項により、自動車の運転者は座席ベルトを装着しないで自動車を運転してはならないと定められています。この規定は大型自動二輪車および普通自動二輪車を除くすべての自動車に適用され、運転者自身のシートベルト着用を義務付けています。警察庁の公式ページでは、シートベルトは交通事故に遭った場合の被害を大幅に軽減するとともに、正しい運転姿勢を保たせることにより疲労を軽減させる効果があると説明されています。
同法第71条の3第2項では、運転者は座席ベルトを着用しない者を運転者席以外の乗車装置に乗車させて自動車を運転してはならないと規定しています。つまり、運転者には同乗者全員にシートベルトを着用させる義務があるということです。この規定により、助手席はもちろん後部座席の乗員についても、運転者がシートベルト着用を徹底させる責任を負っています。
2008年6月の道路交通法改正により、後部座席を含む全座席でのシートベルト着用が義務化されました。それまで後部座席のシートベルト着用は努力義務でしたが、この改正によって法的な義務となり、高速道路における違反に対しては運転者に対して違反点数が付されることになりました。一般道路と高速道路を問わず、すべての道路で後部座席を含む全座席のシートベルト着用が義務付けられているのです。
運転席と助手席のシートベルト非装着については、一般道路・高速道路を問わず違反点数1点が付されます。反則金の規定はないため罰金は科されませんが、違反点数が加算されることでゴールド免許が取消になる可能性があるため注意が必要です。たとえ短距離の運転であっても、シートベルト非装着で検挙されれば違反点数が累積されていきます。
後部座席のシートベルト非装着については、道路の種類によって取り扱いが異なります。高速道路または自動車専用道路を走行中に後部座席の同乗者がシートベルトを着用していない場合、運転者に対して違反点数1点が付されます。一方、一般道路においては口頭注意にとどまり、違反点数は付されません。ただし、これは一般道路でシートベルトを着用しなくてよいということではなく、あくまで行政処分の対象にならないというだけです。
違反点数制度において、シートベルト装着義務違反は比較的軽微な違反として扱われていますが、累積すると免許停止処分につながる可能性があります。特にゴールド免許保持者は、わずか1点の違反でも次回更新時にゴールド免許が失効するため、経済的にも不利益を被ることになります。安全面だけでなく免許制度の観点からも、全座席でのシートベルト着用を徹底することが重要です。
道路交通法施行令第26条の3の2第1項では、運転者のシートベルト着用義務が免除される具体的な条件が列挙されています。負傷もしくは障害のため、または妊娠中であることにより、座席ベルトを装着することが療養上または健康保持上適当でない場合は着用義務が免除されます。妊娠中の女性の場合、腹部への圧迫が胎児に影響を与える可能性がある場合などが該当しますが、医師の判断を仰ぐことが推奨されます。
身体的特徴による免除規定も設けられており、著しく座高が高いまたは低いこと、著しく肥満していることなどの身体の状態により適切に座席ベルトを装着することができない場合も免除対象となります。また、自動車を後退させるときや、消防用車両・警衛車・警護車・選挙運動用自動車などを当該用務のため運転する場合も着用義務が免除されます。
郵便物の集配業務など、短区間で頻繁な乗降が必要とされる運転業務に従事している場合も、その業務区間においてはシートベルト着用義務が免除されます。ただし、これらの免除規定はあくまで「やむを得ない理由」がある場合に限定されており、安全のためには可能な限りシートベルトを着用することが推奨されています。宮崎県警察本部の解説では、これらの免除条件について詳細に説明されています。
警察庁の統計データによると、シートベルト非着用者の致死率は着用者の約14倍にも達しています。令和4年までの10年間のデータでは、着用者の致死率が0.16%であるのに対し、非着用者は2.30%となっており、シートベルトが命を守る重要な安全装置であることが数値で証明されています。特に後部座席における非着用時の致死率は、高速道路で着用時の約16.6倍、一般道路で着用時の約2.7倍という驚異的な数値を示しています。
令和6年のシートベルト着用状況調査では、運転席96%超、助手席96%超と高い着用率を示している一方で、後部座席同乗者の着用率は一般道路で45.5%、高速道路等で79.7%にとどまっています。後部座席の着用率が著しく低い背景には、「後部座席は安全」という過去の安全神話が根強く残っていることや、一般道路での違反点数がないことが影響していると考えられます。
2016年の交通事故データでは、座席別の死亡者数を見ると後部座席のシートベルト非着用死者の構成率が56.6%と、運転席の40.7%や助手席の13.8%と比較して突出して高くなっています。これは後部座席でシートベルトを着用していない乗員が、衝突時に車外に放り出されたり、車内で全身を強打したり、前席の乗員に衝突して双方が重傷を負うケースが多いためです。後部座席であっても必ずシートベルトを着用することが、自分自身だけでなく他の乗員の命を守ることにつながります。
道路交通法第71条の3第3項により、自動車の運転者は幼児用補助装置を使用しない幼児を乗車させて自動車を運転してはならないと定められています。幼児用補助装置、いわゆるチャイルドシートの着用義務期間は6歳未満となっており、5歳までは必ずチャイルドシートを使用しなければなりません。チャイルドシートを使用しないで6歳未満の子供を乗せて運転した場合、運転者に違反点数1点が付されます。
チャイルドシートが必要な理由は、赤ちゃんや子供が小さいうちは大人用のシートベルトの安全性能が十分に発揮できないためです。大人用シートベルトは身長約150cm以上の体型に合うように設計されており、小柄な子供が使用すると事故の衝撃で身体が放り出されてしまったり、ベルトが首にかかってかえって危険な状態になる可能性があります。そのため、法律では6歳未満が着用義務となっていますが、身長150cm未満の子供については6歳以上であってもジュニアシートの使用が推奨されています。
チャイルドシートの着用義務にも免除規定があり、疾病のためチャイルドシートを使用させることが療養上適当でない幼児を乗車させる場合や、座席数を超える人数が乗車する場合(定員内であれば)などは免除対象となります。ただし、これらはあくまで例外的な措置であり、子供の安全を最優先に考えるならば、可能な限りチャイルドシートを正しく使用することが重要です。警察庁では、チャイルドシートの正しい取り付け方法や選び方についても情報提供を行っています。
シートベルト非着用は、交通事故における損害賠償の場面でも重大な影響を及ぼします。民法第722条第2項では、被害者に過失がある場合は過失相殺により賠償額が減額されると規定されており、シートベルト非着用もこの過失に含まれると判断されるケースが増えています。横浜地裁平成29年5月18日判決では、高速道路上で追突事故に遭い後部座席の同乗者が車外に投げ出されて頭部外傷を負った事案において、シートベルト不着用が損害の拡大に寄与したとして10%の過失相殺が認められました。
大阪地裁平成22年11月1日判決でも、加害車両が縁石に衝突して転覆し同乗者が傷害を負った事故について、シートベルト不着用が損害発生または拡大に寄与していたとして10%の過失相殺が認められています。この判決では、運転者の指示によりシートベルトを外していた場合でも、シートベルトの着用は同乗者が自らの判断で行うべきものとして、同乗者側の過失が認定されました。つまり、運転者に言われてシートベルトを外したとしても、事故時の損害については自己責任が問われるということです。
こうした判例が示すように、シートベルト非着用は自分自身の安全を脅かすだけでなく、事故後の損害賠償においても不利な立場に立たされる可能性があります。たとえ被害者であっても、シートベルト非着用により被害が拡大したと判断されれば、受け取れる賠償額が減額される可能性があるのです。法律上の義務としてだけでなく、経済的な観点からもシートベルトの着用は極めて重要です。警察庁の事例紹介では、実際の裁判例を詳しく解説しています。