デフロスターは道路運送車両の保安基準第45条第2項で定められた法定装置です。専ら乗用の用に供する普通自動車、小型自動車、軽自動車に装備が義務付けられており、フロントガラスの霜や氷を除去して前面視界を確保する重要な安全装置として位置づけられています。この装置が正常に機能しない場合、冬場に前方視界が妨げられて危険なため、車検の保安基準を満たさず車検不合格となります。
参考)https://www.mlit.go.jp/jidosha/kijyun/saimokubetten/saibet_086_00.pdf
国土交通省が定める別添86「デフロスタの技術基準」では、デフロスト性能とデミスト性能について具体的な数値基準が設けられています。デフロスト試験では氷点下8℃±2℃の環境下で、エンジン始動後20分でA領域の80%以上、40分後にB領域の95%以上を除去する性能が求められます。A領域とは運転者の直接視界に相当する前面ガラス外表面の領域で、B領域はより広範な前方視界を示す領域です。
参考)https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/B086.pdf
デミスト試験ではマイナス3℃±2℃の環境下で、エンジン始動後10分でA領域の90%以上、B領域の80%以上の曇りを除去する性能が必要です。これらの基準値は安全運転に必要な視界を科学的に設定したもので、国際基準とも整合性が取られています。試験では蒸気発生器を使用して実際の使用環境を再現し、デフロスターが規定時間内に十分な視界を確保できるかを厳密に検証します。
参考)安全運転の要!デフロスター徹底解説 - クルマの大辞典
デフロスターの保安基準は、乗車定員11人未満の乗用車を対象としています。具体的には専ら乗用の用に供する普通自動車、小型自動車、軽自動車が該当し、乗車定員11人以上の自動車、二輪自動車、側車付二輪自動車、カタピラ及びそりを有する軽自動車、最高速度20km/h未満の自動車、被牽引自動車は除外されています。
この適用範囲の設定には合理的な理由があります。乗用車は一般ドライバーが日常的に使用する車両であり、冬季の凍結や曇りによる視界不良が重大事故につながるリスクが高いためです。一方で大型バスや貨物車両は業務用途が中心で、プロドライバーによる運行管理が前提となるため、別の基準体系が適用されます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/453b932b0b96be92939ce19e7b5cee246da094ae
昭和50年3月31日以前に製造された車両については、デフロスターの装備が義務付けられていない場合があります。これは保安基準の適用が段階的に強化されてきた歴史的経緯によるもので、古い車両を所有している場合は製造年月日による適用除外の可否を確認する必要があります。
参考)http://www.sam.hi-ho.ne.jp/hiro-cba/hoan.htm
適用範囲外の車両であっても、フロントガラスの視界確保は安全運転の基本です。法的義務はなくとも、実用上はデフロスター機能を備えることが推奨されます。
参考)https://www.pro-service.jp/inspection.html
デフロスト性能試験は氷点下8℃±2℃に保持された低温試験室で実施されます。試験車両は発電システム停止状態で10時間以上放置され、冷却水と潤滑油の温度が完全に安定するまで低温環境に晒されます。この準備段階で車両全体が均一に冷却されることで、実際の厳寒地での使用状況を正確に再現できます。
フロントガラス外表面には作動圧350±20kPaのウォータースプレーガンを使用して、単位面積当たり44mg/cm²の均一な氷膜を形成します。この氷膜の厚さと均一性は試験結果の再現性を確保するために厳密に管理されており、スプレーノズルの直径や水の噴霧量、ガラス面からの距離まで細かく規定されています。
エンジン始動後の性能評価では、20分後、25分後、40分後の3つの時点でデフロストされた領域を測定します。20分後にA領域の80%以上、25分後にA領域を左右対称に置き換えた領域の80%以上、40分後にB領域の95%以上が除去されていることが合格基準です。これらの時間設定は、実用上ドライバーが出発前に待機できる時間や、緊急時に必要な最低限の視界確保時間を考慮して決められています。
試験中は原動機の回転数が最高出力時回転数の50%を超えないよう制限されます。これは実際の使用状況でアイドリング状態や低回転での使用が多いことを反映した条件設定です。
デフロスターが故障していると車検は確実に不合格になります。フロントガラスのデフロスターは保安基準第45条で規定された法定装置であり、冬場に前方視界が妨げられて危険なため、修理しないと車検証の交付を受けられません。車検時にはデフロスターが正常に機能しているか確認が必要で、熱風が適切に吹き出すかどうかが検査されます。
参考)【60秒解説】フロントガラスのデフロスターが故障すると車検に…
民間車検工場やディーラーでは、デフロスターの動作確認を目視や実際の作動テストで実施します。検査員は室内点検の際にエアコンパネルのデフロスタースイッチを操作し、フロントガラスに向けて温風が正常に吹き出すかを確認します。ワイパーやウォッシャー液と合わせて、視界確保装置として総合的にチェックされる項目です。
参考)車検ではデフロスターが機能するか必項みたいですが、民間車検工…
ユーザー車検の場合、検査員がデフロスターの機能を詳細に確認しているようには見えないケースもありますが、保安基準上は機能することが求められます。検査当日に故障が発覚した場合、その場で修理するか後日再検査を受ける必要があります。
参考)車検について詳しい方お願いします。 - エアコンの有無につい…
デフロスター不良は単なる快適装備の故障ではなく、安全運転に直結する重大な不具合です。特に寒冷地では視界不良による事故リスクが高まるため、車検前に必ず動作確認を行いましょう。
参考)車の霜対策とは?霜が降りる原因などについても解説|ガラス系コ…
デフロスターの修理費用は故障箇所によって大きく異なります。最も安価なケースは単なるフューズ切れで、数千円程度で修理可能です。ファンモーター(ブロアモーター)の故障では2万~5万円程度の費用がかかり、作業に3日から1週間ほど要します。ファンモーターに異常がある場合、エアコンをつけているときに「カラカラ」と乾いた音がするほか、ラジオにノイズが入る症状が現れます。
エアコンの吹き出し口切り替えを制御するモードコントロールモーターの故障では、部品代で1万~2万円程度かかります。デフロスターモードに切り替えができない場合、このモーターやダンパーの不具合が考えられ、グローブボックスを外して切り替え部品の作動状況を確認する必要があります。
参考)車のエアコンの修理の費用についての質問ですエアコンは冷房、暖…
最も高額になるのがヒーターコアの故障で、修理費用は4万5千円~15万円に達します。ヒーターコアはエンジンの冷却水を利用して温風を作る熱交換器で、これが故障すると車内の温度が外気と変わらなくなり、デフロスター機能も完全に失われます。ダッシュボード下にクーラント漏れの兆候が見られる場合や、デフロスター稼働中にフロントガラスが曇る場合は、ヒーターコアの交換が必要なサインです。
参考)ヒーターコア交換 - 創業100年 アクトジャパン
修理費用には車種や規格による変動があり、整備工場によって作業料や工賃も異なるため、5万円前後を中心に上下することがあります。古い車ではコンプレッサーを含むエアコンシステム全体の故障も珍しくなく、その場合はさらに高額な修理費用が発生する可能性があります。
参考)カーエアコンが故障!修理費用はどのくらい?どこに頼めばいい?…
デフロスターとデフォッガーは両者とも車のガラスの曇りを取る機能ですが、対象部位と仕組みに明確な違いがあります。デフロスター(defroster)は「霜を除去するもの」という意味で、フロントガラスに熱風を吹き付けて曇りや霜を取る装置です。一方デフォッガー(defogger)は「霧を除去するもの」の意味で、リアガラスに熱線を組み込んで電流を流すことで曇りを取る装置を指します。
スイッチマークの見分け方として、扇型の枠に温泉マークのような上向き矢印が3本描かれているのがデフロスタースイッチで、長方形の枠に同じような矢印が入っているのがデフォッガースイッチです。車種によってはデフロスタースイッチに「FRONT」、デフォッガースイッチに「REAR」と表記されている場合もあります。
通常フロントガラスにデフォッガー(熱線)をつけることはできません。これは前方の視界を妨げるために保安基準で禁止されているためです。しかし例外として、一部ホンダ車には格納されたワイパーが凍結で動かなくなることを防ぐため、部分的にデフォッガーがついている車種があります。
デフロスターは寒冷地などでガラスが凍結したり雪が積もったりした際に、より高い温度でガラスの曇りを取る機能を持ちます。霧のような小粒の水滴を取るのに対し、デフロスターは厚い氷や霜を溶かす能力が求められるため、温風による加熱方式が採用されています。
一般的な会話では両者を区別せず「デフ」と略して呼ぶことも多く、実用上は曇り取り機能として同じ意味で使われることもあります。ただし保安基準や車検では明確に区別されており、フロントガラスのデフロスター性能が法的に義務付けられています。
デフロスター故障を予防するには定期的な日常点検が重要です。エアコンパネルのデフロスタースイッチを操作し、フロントガラスに向けて温風が正常に吹き出すか定期的に確認しましょう。夏場でもデフロスター機能は使用できるため、シーズンオフでも月に一度は動作確認することで、冬の凍結シーズン前に故障を発見できます。
参考)車検の点検項目とは?点検内容を項目ごとに詳しく解説!
エアコンフィルターの汚れもデフロスター性能低下の原因になります。フィルターが目詰まりすると風量が減少し、曇り取り能力が大幅に低下します。一般的にエアコンフィルターは1年または走行距離1万kmごとの交換が推奨されており、特に花粉や黄砂の多い地域では交換頻度を増やすことが望ましいです。
参考)カーエアコン修理費用の相場!故障内容ごとにかかる費用を詳しく…
ブロアモーターから異音がする場合は早めの点検が必要です。「カラカラ」という乾いた音やラジオへのノイズ混入は、ブロアモーター故障の初期症状です。この段階で修理すれば比較的安価に済みますが、放置すると完全に風が出なくなり、視界不良による事故リスクが高まります。
ヒーターコアの不具合は早期発見が困難ですが、車内の温度が外気温とほとんど変わらない、ダッシュボード下が湿っている、デフロスター稼働中にフロントガラスが曇るといった症状が現れたら、すぐに整備工場で診断を受けましょう。ヒーターコア故障は冷却水漏れを伴うことが多く、エンジンの冷却系統にも悪影響を及ぼします。
寒冷地では凍結防止のため、駐車時にワイパーを立てておくことも有効です。ワイパーが凍結して動かなくなると、デフロスターで霜を溶かしても水滴を拭き取れず、視界確保が困難になります。
車検前には必ずデフロスターの動作確認を行い、不具合があれば事前に修理することで、車検当日の不合格を回避できます。保安基準を満たす適切な整備は、ドライバー自身と周囲の安全を守る基本です。
国土交通省によるデフロスタの技術基準の詳細(PDF)- 保安基準第45条に基づく具体的な試験方法と判定基準が記載されています
デフロスター故障時の車検への影響と修理費用の解説 - 故障原因別の対処法と費用相場について詳しく説明されています