油冷エンジンメリットデメリット|バイク冷却方式の特徴と選び方

油冷エンジンは水冷と空冷の中間的な冷却方式として、軽量コンパクトさと冷却性能を両立させた独自のシステムです。スズキが開発した油冷エンジンにはどのような長所と短所があるのでしょうか?

油冷エンジンメリットデメリット

この記事でわかること
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油冷エンジンの仕組み

エンジンオイルを冷却媒体として使用する独自の冷却システムと温度境界層の原理

メリット

水冷より軽量コンパクト、空冷より高い冷却効率を実現

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デメリット

水冷には及ばない冷却性能とオイル交換頻度の高さ

油冷エンジンの仕組みと冷却原理


最後の一点(生産終了) X-Head 3.0 シリンダーヘッドカバープロテクター R1200シリーズ(油冷SOHCエンジンモデルに適合)

 

油冷エンジンは、エンジンオイル自体を冷却媒体として使用する独自の冷却方式です。スズキが1985年にGSX-R750で初めて採用したこのシステムは、燃焼室のドーム外壁へ高圧でオイルを噴射することで冷却を行います。専用のオイルポンプから送られた大量のオイルが、最も熱を発生する燃焼室裏にジェット噴射され、温度境界層を吹き飛ばすことで熱を奪う仕組みです。
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この冷却原理は、寒いとき手に息をそうっと吹きかけると暖まるのに、同じ体温の息を強く吹きかけると冷える現象と同じ原理を応用しています。燃焼室外壁の高温層を高圧噴射で吹き飛ばすことで、効果的な冷却を実現しているのです。エンジン内部で発生した熱はオイルが吸収し、エンジン外部に設置されたオイルクーラーを通じて冷却されます。
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冷却システム自体は水冷に似ていますが、冷却液ではなく潤滑に使用するエンジンオイルをエンジン周囲に設けられた通路に流して冷却するという考え方です。初代GSX-R750では毎分20リットルものオイルをシリンダーヘッド部に吹き付けていました。
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油冷エンジンのメリット|軽量コンパクト設計

油冷エンジン最大のメリットは、水冷エンジンに比べてはるかにシンプルで軽量コンパクトなエンジンが作れることです。水冷エンジンには、クーラント液を冷やすラジエターや専用の圧送ポンプが必要になり、シリンダーヘッドの内部にクーラント液の通り道(ウォータージャケット)を作らなければなりません。このため水冷エンジンはパーツ点数が多くなり、シリンダーヘッドなどの構造も複雑化し、エンジンが大きく重くなります。
参考)バイクのソレなにがスゴイの!? Vol.54 『油冷エンジン…

油冷エンジンはウォータージャケットなどの部品点数が減り、大幅な軽量化に貢献しています。例えば、従来の空冷型GSX750Sの80kgに対し、油冷を採用したGSX-R750はわずか67.6kgに収まりました。さらにアルミフレームの採用で、デビュー時のGSX-R750は車両重量179kgと400ccクラス並みの圧倒的な軽さを実現しています。
参考)スズキの独自路線を象徴する油冷エンジンの真実【このバイクに注…

空冷エンジンよりも安定した冷却能力が得られる点も大きなメリットです。空冷方式では冷却が追い付かない高出力エンジンに対し、油冷は水冷方式のように重量が増えることなく、空冷よりも高い冷却効率を実現できました。開発テストでは、油温が全開で長時間の負荷でも上昇しないことが確認されています。
参考)https://digioka.libnet.pref.okayama.jp/detail-jp/id/ref/M2019101017080508080

油冷エンジンのデメリット|冷却性能とメンテナンス

油冷エンジンのデメリットとして最も大きいのは、水冷式ほど冷却効率が高くないという点です。水冷エンジンに比べて冷却性能では及ばないため、より大きなオイルクーラーが必要となり、空気抵抗が増加します。最高出力を求める現代の高性能バイクでは、水冷エンジンの方が有利なため、スズキのGSX-Rシリーズも後に水冷化されました。
参考)スズキ バンディットシリーズ -他と同じはイヤダ! 油冷エン…

オイル量が大量になるため、重量も増加します。エンジンオイル自体が冷却媒体となるため、通常のエンジンよりも多くのオイルを必要とし、これが車両重量の増加につながります。また、エンジンオイルの交換頻度が高くなることも注意点です。冷却水はせいぜい車検ごとの交換でよいのですが、エンジンオイルはもっと短いスパンで交換するため、ユーザーの継続的な負担が大きくなります。
参考)夏に強いエンジンはどれだ !? 今さら聞けない「水冷」「空冷…

油冷エンジンを搭載しているバイクは2,000kmごとなど早めのオイル交換がおすすめされています。使用するオイルの冷却性能がエンジン性能を大きく左右するため、オイル選びも慎重に行う必要があります。油冷エンジンには相性の良いオイルと悪いオイルがあるため、適切なオイルをセレクトすることが重要です。
参考)バイクのオイル交換の目安は?走行距離や頻度、オイルの色で判断…

油冷エンジン搭載バイク|スズキの名車たち

油冷エンジンは1985年にデビューした初代GSX-R750に初めて搭載され、2008年に生産終了したGSX1400に至る20年余りにわたって採用され続けました。GSX-R750は179kgという軽量ボディと1,430mmのコンパクトなホイールベースで、ビッグバイク初のレーサーレプリカとして誕生しました。デュアルヘッドライトにフルカウル、前傾したライディングポジションは当時のスポーツバイクファンを魅了しました。
参考)唯一無二の存在意義 スズキ油冷バイク特集 - Webikeプ…

1986年には1100ccまで排気量を拡張したGSX-R1100が登場しました。1052cc油冷エンジンは最高出力130PSを発揮しつつ従来の空冷型に対し22%の軽量化に成功し、車両重量も197kgと200kgを切るなど、パワーウェイトレシオは1.51に達しました。GSX-Rシリーズと同じコンセプトの油冷エンジンがネイキッドモデルにも採用され、1995年にはGSF1200(バンディット1200)が登場しました。​
油冷エンジンは燃焼室をエンジン内部で強制冷却するため、他の空冷のように深く長い冷却フィンを持たず、全体に短いフィンを短いピッチとする美しい外観が特徴でした。GSX-Rはフルカウルでエンジンが見えませんでしたが、後から登場したバンディットなどのネイキッドモデルで、この美しいルックスがひと際目立ち、新たなファンを獲得していきました。​
スズキの公式ウェブサイトでは、油冷エンジンの技術詳細や搭載モデルの歴史を確認できます。

 

https://www1.suzuki.co.jp/motor/

油冷エンジンと車の関係性|四輪での採用例

四輪車のエンジン冷却方式としては油冷は馴染みがありませんが、実は採用例が存在します。バイクで有名な油冷エンジンですが、自動車においても特定のモデルで採用されてきた歴史があります。ポルシェ911は現行の996/997で水冷になりましたが、それ以前は油冷でした。このように、高性能車において軽量化とコンパクト設計を追求する際に油冷方式が選択されることがありました。
参考)油冷式って聞き馴染みないけどどんな仕組み? エンジンの冷却方…

車の世界では、エンジンオイルをしっかりと冷やすために大きなオイルクーラーを備えることが油冷エンジンの特徴とされています。バイクと同様、油冷方式は水冷に比べてシステムが簡単で軽量コンパクトであり、空冷エンジンよりも安定した冷却能力が得られる点がメリットです。しかし、車においても冷却性能では水冷エンジンに及ばないため、最終的には多くのモデルが水冷化されていきました。
参考)油冷エンジンとは?エンジンオイルが潤滑と冷却を兼ねるエンジン…

現代の四輪車では環境規制の厳格化や高出力化の要求により、ほとんどのモデルが水冷エンジンを採用しています。油冷エンジンは軽量でコンパクトという利点がありましたが、最高出力を求める現代の高性能車には水冷エンジンの方が適しているため、四輪での採用は限定的となっています。それでも、油冷エンジンは自動車の冷却技術の歴史において独自の位置を占める存在といえるでしょう。

 

バイクと自動車の技術比較については、一般社団法人日本自動車工業会のウェブサイトが参考になります。

 

https://www.jama.or.jp/

油冷エンジンの現代における復活

2008年にGSX1400の生産終了により一度は姿を消した油冷エンジンですが、2020年にスズキのジクサー250で復活しました。ただし、この新しい油冷エンジンは初期のGSX-Rシリーズとは冷却方法がまったく異なります。冷却システム自体は水冷に似ていますが、冷却液でなく潤滑に使用するエンジンオイルをエンジン周囲に設けられた通路に流して冷却するという考え方です。
参考)[画像 No.2/12] 【Q&A】エンジンは、本当に「性能…

ジクサーSF250は250cc単気筒の油冷エンジンを搭載し、熱の溜まりやすい燃焼室を、潤滑とは独立したらせん状のオイル経路で取り囲んでいます。水冷ほどの冷却効率はありませんが、ジクサーの場合は最高出力を求めているわけではないので、この方式でも十分対応できます。空冷よりも安定して冷却することができ、車体も軽く仕上げることができました。​
新旧2つの油冷は方式こそ異なるものの、オイルを利用するという点と空冷よりも冷却効率を上げ、軽く仕上げるという考え方に関しては共通しています。令和の時代に復活した油冷エンジンは、スズキの独自路線を象徴する技術として新たな価値を提供しています。単気筒エンジンとは思えないほどの大きなオイルクーラーも備えているのが、現代の油冷エンジンの特徴です。​
最新のバイク技術については、月刊オートバイやライダースクラブなどの専門誌が詳しく解説しています。

 

https://www.autoby.jp/

 

 


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