TMAR(TRAIL MOTOR APEX RACING)は、2022年1月にスタートしたドリフトチームとして、モータースポーツ界に大きな話題を提供していました。このチームは単なるレース活動にとどまらず、車両製作やチューニング、車両の管理、サーキットまでの車両回送など、モータースポーツを総合的に盛り上げる多角的な事業を展開していました。
2022年1月の東京オートサロンでは、ホール5の一角に大きなブースを構え、センチュリー(UWG60)、スカイラインジャパン(KGC10改)、ソアラ(GZ10)、ハコスカ(GC10)などの名車を展示し、来場者の注目を集めていました。これらの車両は単なる展示品ではなく、実際にドリフト競技で使用される本格的なマシンでした。
TMARの公式サイトでは、所属するレーサーの戦績やイベント情報が詳細に紹介されており、ドリフト愛好家にとって重要な情報源となっていました。しかし、2022年9月上旬を最後に、このサイトは「工事中」となり、現在は通常の方法では見ることができない状態となっています。
TMARを運営していた株式会社TRAILは、2023年1月13日に突然事業を停止し、自己破産手続きを申し立てました。この突然の事業停止は、ドリフト業界に大きな衝撃を与えました。
TRAILの倉庫には、150台超の激レア旧車やスーパーカーなど多数の高級車両が保管されていたことが明らかになりました。これらの車両群は「横領倉庫」と呼ばれ、その総額は数億円に上ると推定されています。
事業停止の背景には、楽天モバイルの下請け業務に関連した問題があったとされています。TRAILは楽天モバイルの下請け会社として事業を行っていましたが、その過程で何らかの問題が発生し、最終的に破産に至ったと考えられています。
この事態により、TMARの活動は完全に停止し、所属していたドリフトレーサーたちも新たな活動の場を求めることになりました。また、保管されていた車両群の処分についても、法的な手続きが必要となり、複雑な状況が続いています。
TMARが保有していた150台超の車両群は、単なる中古車の集まりではなく、自動車愛好家にとって垂涎の的となる希少車両が多数含まれていました。
旧車カテゴリー
スーパーカーカテゴリー
ドリフト専用マシン
これらの車両の多くは、ドリフト競技用に大幅な改造が施されており、エンジンスワップやサスペンション交換、ロールケージ装着などの本格的なチューニングが行われていました。特に注目すべきは、レース用途だけでなく、コレクション価値の高い車両も多数含まれていたことです。
車両の保管状態については、専用の倉庫施設で適切に管理されていたとされていますが、事業停止後の管理状況については不明な点が多く、車両の状態に関する懸念も指摘されています。
TMARの突然の活動停止は、日本のドリフト業界に多方面にわたって大きな影響を与えました。
レーサーへの影響
TMARに所属していたトップレーサーたちは、新たなスポンサーやチームを探す必要に迫られました。特に、専属契約を結んでいたレーサーにとっては、収入源の確保が急務となりました。一部のレーサーは他のチームに移籍しましたが、中には活動を一時休止せざるを得ない選手も現れました。
イベント業界への波及
TMARは多くのドリフトイベントに参加し、会場を盛り上げる重要な役割を果たしていました。同チームの不参加により、イベントの集客力や話題性に影響が出たケースも報告されています。
車両市場への影響
TMARが保有していた大量の車両群の処分方法について、中古車市場では様々な憶測が飛び交いました。これらの車両が一斉に市場に放出された場合、特定車種の相場に影響を与える可能性があると指摘されています。
技術継承の問題
TMARは車両製作やチューニング技術において高い水準を誇っていました。同チームの活動停止により、これらの技術やノウハウの継承が困難になったことは、業界全体にとって大きな損失となりました。
TMAR事件は、モータースポーツ業界が抱える構造的な問題を浮き彫りにしました。この事件から学ぶべき教訓と、今後の業界発展に向けた課題を整理してみましょう。
資金調達の多様化の必要性
TMARのケースでは、楽天モバイルの下請け業務という単一の収入源に依存していたことが、事業停止の一因となった可能性があります。モータースポーツチームは、スポンサー収入、イベント収入、車両販売収入など、複数の収入源を確保することが重要です。
透明性の確保
事業の透明性を高め、ファンやスポンサーに対して定期的な活動報告を行うことで、信頼関係を構築することが必要です。TMARの場合、事業停止まで外部からは経営状況が見えにくい状況でした。
車両管理システムの改善
大量の車両を保有する場合、適切な管理システムの構築が不可欠です。車両の所有権、保険、メンテナンス記録などを明確に管理し、万が一の事態に備えることが重要です。
業界全体のサポート体制
個々のチームが困難に直面した際に、業界全体でサポートする仕組みの構築が求められます。技術者の再就職支援や、車両の適切な処分方法の確立などが必要です。
現在、日本のモータースポーツ業界では、TMAR事件を教訓として、より持続可能な事業モデルの構築に向けた取り組みが進められています。新しいチームの設立においても、財務の透明性や事業の継続性を重視する傾向が強まっており、業界全体の健全化が図られています。
この事件は確かに業界にとって大きな打撃でしたが、同時に業界の体質改善と発展に向けた重要な転機となったと言えるでしょう。今後のモータースポーツ業界の発展において、TMAR事件の教訓が活かされることが期待されています。