誘導加熱は、電気伝導体である金属を加熱の対象とした非接触加熱方式です。コイルに交流電流を流すことで時間的に変化する交番磁界を発生させ、その磁界を導電性の被加熱物に印加します。この磁界により、被加熱物の内部で電磁誘導作用が生じ、ファラデーの法則に従った起電力が誘導されます。
被加熱物内部で誘導された起電力によって電流が流れます。この電流は渦電流(うず電流)と呼ばれ、被加熱物自体の内部抵抗によってI²R損(ジュール損)が発生します。このジュール熱が発生することが誘導加熱の本質的なメカニズムです。コイルが発生する磁束を打ち消す方向に渦電流が流れるため、導体の内部ほど磁束密度が減少し、渦電流密度も減少する現象を「表皮効果」と呼びます。
誘導加熱の等価回路は変圧器と同じです。一次側のコイルで磁場を起こし、その磁場が二次側(被加熱物)に電流を誘起する構造になっています。通常の変圧器の鉄心が赤熱しないのは、0.2~0.3mm程度の非常に薄い鋼板を絶縁物を介して積層させているため、渦電流が大きくなるのを防いでいるからです。一方、誘導加熱装置ではこの渦電流による発熱を目的としているため、被加熱物に十分な渦電流が流れるように設計されています。
誘電加熱は、誘導加熱とは異なり、電気伝導体ではなく絶縁体(誘電体)を加熱の対象とします。2枚の平行電極間に被加熱物(誘電体)を置いて、電極間に高周波電圧を加えると、被加熱物内部には分子の双極子が形成されます。この双極子は交番電界中で電界方向に激しく方向を変え、分子同士が摩擦しあい、その摩擦熱により加熱されるのです。
誘電加熱における等価回路は、抵抗とコンデンサの並列接続として表現されます。理想的な誘電体であれば無効電流のみが流れますが、実際の誘電体では分極のたびに格子振動のエネルギーへの変換が生じ、有効電流が発生します。この有効電流による電力消費が誘電加熱での発熱源となります。
誘電加熱の発熱メカニズムは誘電損失に基づいています。電界がかかるたびに原子の配置が変位し、その変位の過程で格子構造の振動に起因する損失が発生します。この損失が熱として放出されるのです。発熱量は誘電損失係数εsとtanδ(タンデルタ)に比例し、タンデルタが大きいほど、また周波数が高いほど発熱量が増加します。
誘導加熱において、周波数は表皮効果の深さを直接左右する重要なパラメータです。表皮効果とは、交流電流が導体の表面付近に集中して流れる現象で、中心部への浸透が減少する効果です。浸透の深さは電源の周波数、導体の透磁率、導体の導電率の積に比例して顕著になります。
具体的には、周波数が高くなるほど表皮深さは浅くなり、表面付近のみが加熱される結果となります。可変周波数電源を用いれば、浸透の深さを自由に変えることができるため、被加熱物の表面だけを選択的に加熱することなどが可能になります。これは金属の表面焼き入れや局部加熱が容易になることを意味し、工業応用において大きなメリットとなるのです。
低周波誘導炉(50Hz、60Hz)では電流が被加熱物内部にまで深く浸透し、浴液の自動かくはん作用が強くなります。一方、高周波誘導炉(20~500kHz)では局部加熱が容易で、一次コイルにも表皮効果が生じて発熱するため、中空の導体を使用して内部に通水し冷却する必要があります。
誘電加熱では周波数が高くなるほど誘電損失が大きくなり、発熱効率が向上します。タンデルタ(tan δ)という指標が誘電加熱の発熱特性を決定する重要な要素です。タンデルタは誘電損失角を示し、この値が大きいほど有効電流が増加して発熱量が増加します。
誘電加熱に用いられるISM周波数(Industrial Scientific Medical周波数)には915MHzや2,450MHzなどが割り当てられています。工業用途では915MHz、電子レンジには2,450MHzが標準として使用されています。電子レンジの例では、2.45GHzのマイクロ波で食材に含まれる水分子を振動させることにより、分子同士の摩擦熱で加熱します。水分子は電気双極子であり、高周波の電界がかかると電界の反転に応じて回転・振動し、その過程で熱を発生させるのです。
加熱対象の材質特性により、誘導加熱と誘電加熱の適用が分かれます。鉄・非鉄金属などの電気的導体は誘導加熱の対象となり、ろう付けや焼入れ、金属溶解などに用いられています。一方、水分を含む有機・無機物や双極性を有するプラスチックは誘電加熱の対象です。
誘導加熱の利点は、被加熱物内部からの発熱のため高効率で迅速な加熱が可能であり、表面におけるスケールの発生を抑えることができる点です。加熱電力が少なくて済むほか、短時間で加熱を完了させることが可能です。また、工業的に安定した加熱方式であり、均一な加熱処理を大量に行うことができます。
誘電加熱の利点は、一様な内部加熱ができることと、必要に応じて与える電界の場所を選ぶことで選択加熱が可能な点です。しかし、加熱中に被加熱物の誘電率が大きく変わることがあるため、電界の強さと電源周波数を加熱に適するよう整合させなければなりません。また、誘電加熱は誘導加熱と比較して高い周波数の電源が必要なため、インバータなどの電力変換装置が必要となり、設備費用が高くなる傾向があります。
加熱中に被加熱物の誘電率が変わると、発熱効率が大きく変化するため、自動制御システムが必要になることもあります。このように選択基準は単に加熱対象の材質だけでなく、経済性や運用の容易さも考慮する必要があるのです。
参考リンク1:より詳細な誘導加熱の原理と応用について、磁場、渦電流、ジュール熱の関係性が図解で示されています。
https://www.fujidempa.co.jp/technology/
参考リンク2:食品加熱技術との関連で、電子レンジと誘導加熱調理器の動作原理の違いを詳しく解説しています。
https://www.tdk.com/ja/tech-mag/hatena/032
十分な情報が集まりました。記事を作成します。

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