宇部興産が山口県で運営する産業観光ツアーは、「第1章 渡邊祐策とセメントの道」というコースが特に人気です。このツアーでは、セメント製造の全工程を実地で学ぶことができます。朝8時10分にJR宇部新川駅を出発し、秋吉台カルストロード経由で秋芳洞を観光した後、いよいよセメント製造の中心地へ向かいます。ここで見学者を最も魅了するのが、日本最長31.94キロメートルの私道である宇部伊佐専用道路(かつての宇部興産専用道路)の走行体験です。
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このツアーの費用と実施形態については、公式サイトで年間を通じて異なるコースが用意されており、募集開始日時は公開されています。見学希望者は事前予約が必須であり、4月1日にリニューアルオープンした新ショールーム「U-Square」での最新技術展示と組み合わせて楽しむことができます。
ダブルストレーラーは1台のトラクターが2台のトレーラーを連結する3両編成で、全長約34メートル、全高約3.6メートルの巨大車両です。最大積載量は88トンに達し、1日に10往復して石灰石やクリンカー(セメント半製品)を輸送しています。公道走行が許可されていないこの巨大トラクターには、複数の種類があります。最大級はケンワース社製のT609型・T610型で、600馬力のエンジン、排気量15リットル、18速マニュアルトランスミッションを搭載しています。
参考)https://www.ube.com/ube/news/2020/post-50.html
もう一つの主流はいすゞ社製のGIGA EXZ52CK-XRR-M改で、520馬力、排気量15.7リットル、16段マニュアルトランスミッションを装備しており、これらはスウェーデンの高級トラックメーカー・スカニア製も含まれます。特に興味深いのは、スカニア製のものはホイールベースを3,300ミリまで延長した宇部興産向け専用仕様となっている点です。ダブルストレーラーは公道を走行する通常のセミトレーラーの長さの2倍近く、積載量は80~88トンを誇り、これにより1台の大型ダンプカーでは10往復必要な輸送を、わずか1往復で実現できるため、環境負荷を大幅に低減しています。
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伊佐鉱山での見学では、石灰石採掘の全工程を観察できます。最初のステップは穿孔機を使用した穿孔で、1段の高さが5~15メートルの採掘現場に合わせて、直径6~13センチの穴を1つの発破箇所で10~20本開けます。次に爆薬を詰めた穴に対して発破を実施しますが、宇部興産では近隣住宅への配慮から、発破時間を正午に限定し、騒音や振動の測定を事前実施して安全性を確保しています。発破で砕かれた石灰石は、ホイールローダーで80~100トン積みの大型ダンプに積み込まれ、立坑に投入されて地下の破砕機に送られます。
参考)宇部興産専用道路を見学しました - 宇部興産専用道路
採掘現場からの砕石は、直径約2.7メートル、重量1.4トンもある特大タイヤを装備したダンプトラックで搬出されます。展望台では、このような規格外の重機部品を近くで観察でき、1本100万円の価格設定に驚く見学者も多いようです。見学終了後にバスを工場外に出す際には、石灰の付着を防ぐため、車体とタイヤ周辺を念入りに洗車します。これは工場外の道路を汚さないための厳密な環境配慮です。
宇部興産トレーラーの整備場は、ダブルストレーラーの維持管理の中核です。ここでは全長30メートル近い巨大車両の定期整備が行われており、見学者はこれらの整備作業の様子を間近で観察できます。整備場から見学ツアーは、宇部伊佐専用道路の象徴的存在である興産大橋へと進みます。全長1,020メートルの鋼トラス橋である興産大橋は、昭和57年(1982年)に竣工し、宇部工業発展の象徴として多くの産業観光客に親しまれています。
参考)宇部興産専用道路 - 次世代に残す宇部の記憶 - 宇部市制施…
興産大橋は宇部鉄工所(現在の宇部興産機械株式会社)で制作された堂々たる構造物で、その設計には高度な構造技術が投入されています。この橋を渡ることで、見学者は日本の高度成長期に築かれたインフラの壮大さを体感することができます。宇部伊佐専用道路全体は、昭和43年(1968年)から全線開通まで14年の歳月をかけて建設され、総工費は200億円に達しました。
参考)宇部伊佐専用道路 - Wikipedia
セメント製造は古くからの産業ですが、現代の大規模化と効率化は驚くべきものです。石灰石をロータリーキルンで焼成してクリンカー(セメント半製品)を製造する過程では、1,200度以上の高温環境が形成されます。クリンカーは宇部市の工場に運ばれ、そこで石膏と混ぜ合わせて粉砕され、粉状の最終製品となります。ダブルストレーラーはこのクリンカーと石灰石を効率よく輸送する手段として不可欠な存在です。
参考)産業観光ツアー「セメントの道」は日本の産業発展の道!宇部興産…
見学ツアーではビデオ放映や社員による説明により、セメントが建設用インフラからデジタル家電、自動車部品、医薬品まで幅広い産業の基盤材料であることが理解できます。実際、宇部興産グループは1897年の創業以来100年以上にわたり、「共存同栄」を経営理念として、関係するすべての方々との持続可能な関係を構築してきました。トミカのロングタイプにダブルストレーラーが採用されたことも、この産業の社会的認知度を高めるきっかけとなっています。
参考)電気学会産業応用部門大会
参考:宇部・美祢・山陽小野田産業観光バスツアー公式サイト
https://www.csr-tourism.jp
参考:ダブルストレーラーの仕様や走行実績の詳細情報
https://www.ube.com
参考:宇部伊佐専用道路の技術的構成要素や歴史背景
宇部伊佐専用道路 - Wikipedia