無制限にしても保険料は年間わずか数十円しか変わらないのに、1億円超の賠償を自腹で払う羽目になった人が実在します。
対物賠償保険とは、運転中の事故で他人の財物(モノ)を壊してしまい、法律上の損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われる任意保険の補償です。自賠責保険(強制保険)には物損の補償がまったく含まれていないため、他人の車や建物を壊したときの費用はすべて任意保険でカバーする必要があります。
補償の対象は、相手の自動車の修理費だけにとどまりません。他人の家屋の壁やフェンス、電柱・ガードレール・信号機などの公共物の復旧費用、さらには事故で営業できなくなった店舗の休業損害(営業損失)や、電車を止めてしまった場合の運行不能損害まで幅広く対象となります。つまり「物の修理代だけ」ではないということですね。
保険金額(支払限度額)は保険会社によって設定できる幅が異なりますが、一般的には500万円・1,000万円・3,000万円・1億円・無制限などが選択肢として用意されています。損害保険料率算出機構の統計(2024年度)によると、自家用普通乗用車の98.9%が対物賠償保険を無制限で契約しており、もはや無制限が業界の標準設定といえる状況です。
ここで注意が必要です。「みんなが無制限にしているから、なんとなく自分もそうしている」という人は、なぜ無制限にすべきかという理由をきちんと理解できていないことが多く、いざ事故が起きたときに慌てるケースがあります。設定の背景にある理由を知っておくことが、車好きとして正しい備えにつながります。
| 保険金額 | 年間保険料の目安(SBI損保試算例) | リスクカバー |
|---|---|---|
| 1億円 | 22,960円 | 1億円超の賠償は自己負担 |
| 無制限 | 23,020円 | どんな高額賠償も保険でカバー |
※上記はSBI損保・特定条件下での試算値です。保険会社・条件によって保険料は異なります。
参考:対物賠償保険の保険金額と保険料の関係について詳しく解説されています。
「対人賠償保険」や「対物賠償保険」の保険金額は「無制限」にすべき?|SBI損保
知恵袋やネット上では「対物賠償保険は1,000万円もあれば十分ではないか」「高級車に乗っている人なんてそんなにいない」という意見が定期的に見られます。しかし実際の賠償事例を見ると、物損事故でもその認識が大きく崩れます。
物損事故の高額賠償判決例を見てみましょう。
首都高速のタンクローリー炎上事故は特に衝撃的な事例です。2008年8月、首都高速道路・熊野町ジャンクションでタンクローリーが速度超過で横転・炎上しました。積載していたガソリンと軽油が約5時間半にわたって燃え続け、橋梁は損傷し、路面は最大約70cm陥没しました。全面復旧まで2カ月半を要し、2016年7月に東京地裁が命じた賠償額は約32億8,900万円。この金額には高架架け替え工事費約17億円と、通行止め期間中の通行料金の逸失利益(間接損害)が含まれています。賠償額は桁違いですね。
この運送会社は結局賠償金を支払えず、破産手続きに至りました。加害者が破産すると被害者への十分な補償もできなくなるため、適切な保険金額での加入が社会的責任とも言えます。
知恵袋では「事故を起こしても高くても数百万円では?」という声もありますが、事故の相手方が商業用車両や営業中の店舗だった場合、修理費だけでなく「その間の営業損失」も丸ごと賠償対象になります。これが想像以上に金額を押し上げる原因です。
参考:物損事故の高額賠償実例と対物賠償保険の必要性について解説されています。
対物賠償保険の補償範囲と金額の目安|無制限でも補償されないケース(CFPアドバイザー監修)
「無制限に設定しているから安心」と思っている人は多いですが、実はこれが危険な思い込みです。無制限とは「保険会社が支払う金額に上限がない」という意味であって、「すべての損害を何でも補償する」という意味ではありません。
まず理解しておきたいのが、「時価額の壁」と呼ばれる問題です。対物賠償保険で相手の車への補償として支払われる金額は、法律上の損害賠償責任が生じる範囲、つまり「相手の車の事故時点での時価額まで」が上限になっています。修理費がその時価額を超えてしまった場合、超過分は保険金の支払い対象にならないのが原則です。
具体的に考えてみましょう。相手の車の時価額が30万円、修理費が60万円かかる事故で、自分の過失が100%だったとします。対物賠償保険が「無制限」でも、支払われるのは時価額の30万円まで。残り30万円は法律上の賠償責任が発生しないため、保険金は出ません。これは困りますね。
年式の古い車ほど時価額は低く、修理費との差が大きくなりがちです。「古い車だから大した損害にならないだろう」と思っていると、逆にこの差額問題でトラブルになりやすい点に注意が必要です。
この問題への対策として用意されているのが、「対物超過修理費用特約」(保険会社によって名称が異なる)です。相手の車の修理費が時価額を超えた場合に、その差額を限度額50万円まで補償する特約で、月額数十円〜100円程度の上乗せで付帯できます。付帯しておくことで、示談交渉がスムーズになる効果もあります。特約は必須です。
また、対物賠償保険は原則として他人の財物への損害を補償するものです。自分や同居家族が所有する財物(例:自宅の壁に車をぶつけた、家族名義の車に接触した)は対象外となります。「家族の車にぶつけちゃったけど保険で直せる?」という知恵袋の質問が定期的に出るのはこのためです。補償されないケースを知っておくことが大切です。
「無制限にしたら保険料が跳ね上がるのでは?」という心配をする方は多くいます。これが車好きの間でよく見られる誤解のひとつです。実際の数字で確認しましょう。
SBI損保の試算例では、同条件で対物賠償保険を「1億円」に設定した場合の年間保険料は22,960円、「無制限」にすると23,020円です。その差はたった年間60円。月額換算で5円です。ソニー損保の試算例でも、「2,000万円」と「無制限」の差は年間わずか30円という結果が出ています。保険料差は想像以上に小さいですね。
もし1億円を超える物損事故を起こした場合、超過分は全額自己負担です。上記のタンクローリー事故のような32億円規模は例外としても、電車を脱線させたり、営業中の商業施設に突っ込んだりした場合は、1億円をあっさり超えることがあります。年間わずか数十円の差でその備えができると考えると、選ばない理由はありません。
さらに重要なのが、示談交渉サービスの利用制限という問題です。自動車保険には、事故が起きた際に保険会社が加害者の代わりに相手方と交渉を行う「示談交渉サービス」が付いています。しかしこのサービスには条件があり、損害賠償額が保険金額を明らかに超える場合は、保険会社が交渉できなくなります。
たとえば対物賠償の保険金額を500万円に設定していた場合、賠償額が1,000万円に達すると見込まれる段階で、保険会社は示談交渉サービスを提供できなくなります。自分で相手と直接交渉することになり、精神的・時間的な負担は計り知れません。示談交渉を保険会社に任せるためにも、無制限設定は合理的な選択です。
参考:対物賠償・対人賠償を無制限にすべき理由と保険料差について詳しく記載されています。
対人対物無制限とは?保険金額を無制限にする理由を解説|ソニー損保
対物賠償保険の設定を「無制限」にした上で、さらに手厚く備えるために知っておきたい特約や、車好き特有のリスクがあります。これは知恵袋にもほとんど出てこない、独自の視点です。
まず、公共物への損害がいくらになるかを知っておくことは重要です。ガードレールは1メートルあたり5,000円〜1万円程度が相場ですが、カーブが多い区間では連結で10メートル以上になることも珍しくなく、修理費が数十万円に達するケースがあります。カーブミラーは2〜4万円、信号機は種類によって異なりますが100万円〜400万円程度。電柱に至っては倒壊・停電・復旧工事などを合わせると数百万円規模になることもあります。
車好きは走り慣れた峠道や山道を走ることも多く、カーブ付近のガードレールや信号機との接触リスクが一般ドライバーより高い傾向があります。趣味として走り込む機会が多いほど、こうした対象物との接触確率も相対的に高まる点は頭に置いておきましょう。
次に確認したい特約が2つあります。ひとつは前の章でも触れた「対物超過修理費用特約」です。月額数十円の追加で、相手の車の修理費が時価額を超えた差額(最大50万円)をカバーできます。古い国産車や軽自動車に接触した場合に特に役立つ特約です。付帯をメモして次回の更新時に確認しましょう。
もうひとつが「弁護士費用等補償特約(弁護士費用特約)」です。対物賠償保険とは直接関係しませんが、事故の示談交渉が長引いたり、過失割合について争いが生じたりした場合に、弁護士費用(通常300万円まで)を保険でカバーできます。これも月額数百円で付帯できる保険会社が多く、活用できる場面は意外と多い特約です。これは使えそうです。
保険料全体を節約したいと感じている場合、削るべき優先順位があります。結論は「対物賠償・対人賠償の金額は最後まで削らない」が原則です。見直すなら車両保険の免責金額(自己負担額)を5万円→10万円に引き上げる、年間走行距離が少なければ走行距離区分の見直しをする、特約の中で使用頻度の低いものを外すといった順序が賢明です。
参考:電柱・ガードレール・信号機などの損害金額と対物賠償保険の関係について解説されています。
ガードレール・電柱の値段と事故の弁償修理代|チューリッヒ保険会社
参考:対物超過修理費用特約の補償内容と必要性について詳しく解説されています。
対物超過特約(対物超過修理費用特約)とは?付帯は必要?|チューリッヒ保険会社