ジェット番手を間違えると、1回のツーリングで燃費が6km/Lにまで落ちて財布に直撃します。
ソレックスキャブレターは、フランスのSOLEX社が開発し、1960年ごろに三國工業(ミクニ)がライセンスを取得して国内生産を開始した、サイドドラフト式スポーツキャブレターです。正式名称は「ミクニソレックス40φPHH」などと表記され、「P」は加速ポンプ(Pump)、「H」はホリゾンタル(Horizontal=水平=サイドドラフト)の略を指しています。つまり型番だけで構造の特徴が読み取れる、合理的な命名方式です。
当時すでにイタリアのウェーバーキャブが国内に輸入されていましたが、国産のソレックスは価格面で大きく有利であり、かつ性能でも遜色なかったことから急速に普及しました。日産フェアレディや240Zシリーズ、トヨタTE27レビン・トレノ、スバルフロンテなど、幅広い車種に純正採用された実績があります。製作精度が向上するにつれ、2型・3型・4型・S型・5型と進化してきました。
ソレックスキャブのボディはアルミダイキャスト製で、ボディ内部に空気と燃料の通路が精密に加工されています。これが基本です。各穴の加工精度が性能を左右するため、ジェットブロックの取り付け部分は「一般非分解指定」とされており、分解してはいけない部位があることも覚えておいてください。
| モデル | 口径 | 主な搭載車 |
|---|---|---|
| ソレックス40φ | 40mm | サニー・スターレット・フロンテ系 |
| ソレックス44φ | 44mm | フェアレディZ L型・L28改など |
| ソレックス50φ | 50mm | チューニングエンジン・フルチューン仕様 |
口径が大きいほど大排気量・高出力エンジン向けです。サニーや初代スターレットなどの小排気量車には40φが多く使われ、L型エンジンには44φ・50φが組み合わされるケースが一般的です。
参考リンク(ソレックスの型番と各部品名の詳細解説)。
ソレックスキャブレターの燃料供給の起点となるのが、フロート室です。フューエルポンプから送られてきた燃料は、ニードルバルブを通ってフロート室へ流れ込みます。フロートは燃料に浮かぶ部品で、燃料が一定量溜まるとフロートが浮き上がり、ニードルバルブを押し閉じて燃料の流入を遮断します。これによって油面が一定に保たれる仕組みです。
フロートの重要性はここです。油面の設定値がズレると、コーナリングや加減速中にフロートが傾いて油面が変動し、混合気が濃くなったり薄くなったりと挙動が乱れます。ソレックスの油面適正値はメインジェット取り付け部のキャブ上面から21mm(ウェーバーは29mm)とされており、新たに中古キャブを入手した際は必ず確認が必要です。
また、フロートがキャブボディの壁面に接触・引っかかりを起こすと、オーバーフロー(ガソリンがキャブ入口から垂れてくる)が発生して非常に危険です。これは走行中に突然エンジンが不調になったり、最悪の場合引火リスクにつながったりします。中古で入手したキャブは、フロートのヒンジ変形がないかを必ずチェックしてください。
燃料供給系でもう一つ注意すべき点が、燃圧の管理です。機械式フューエルポンプの吐出圧力は0.4~0.5kgf/cm²のものが多く、ソレックスキャブに適した0.25~0.3kgf/cm²を超えています。高圧のまま使用するとオーバーフローを助長しやすくなります。燃圧レギュレーターで適正値に調整するのが原則です。
ソレックスキャブのセッティングで中心的な役割を担うのが複数のジェットです。それぞれが異なる回転域・スロットル開度に対応しており、一つを変えると他への影響も出るため、全体像を把握しておくことが不調解決の第一歩です。
まずメインジェットはジェットブロックの下側に取り付けられ、フロート室から吸い上げるガソリン量を計量します。中速から高速域(スロットル開度3/4以上)の燃料量を主に決める部品です。ジェット番号の数字は穴径を0.01mm単位で示しており、例えば「#160」なら直径1.60mmの穴であることを意味します。穴を大きくすれば燃料が濃くなりますが、同時にエアジェットも調整しないとエマルジョン(燃料と空気の混合)の質が落ちる点に注意が必要です。
次にエアジェットはジェットブロックの上側に装着され、ジェットブロック内に流れる空気量を計量します。つまり、メインジェット単体ではなく「メインジェット+エアジェット」の組み合わせで燃調の濃さが決まるということです。メインジェットだけを大きくしても期待通りに濃くならないケースがあるのはこのためです。
パイロットジェット(スロージェット)はアイドリング領域から低速域(スロットル開度0~1/4付近)のガソリン量を計量する役割を持ちます。パイロットスクリューはこの回転域で吸い出される混合気量を微調整するネジです。パイロットスクリューの戻し量でアイドリングが安定しないときは、まずパイロットジェットの番手が合っているかを確認するのが基本です。
各ジェットの番手は必ず記録に残しておくことが条件です。作業中は頭で覚えていても後日わからなくなるケースが多く、特に複数回ジェットを交換したあとは元の番手への復元が困難になります。
参考リンク(ジェットの種類と役割の詳細)。
ソレックス・ウェーバー・OERキャブの調整(日産旧車達 ビンテージクラフト イーザ)
ソレックスとウェーバーはどちらもサイドドラフト式スポーツキャブですが、燃料の供給方式に本質的な構造差があります。意外ですね。
ソレックス固有の特徴として知られているのが、スロットルバルブ付近に設けられた複数のスローポートです。スロットルバルブよりも手前(エンジン側)にスローポートが1つ、そしてアクセルを踏み込むにつれてポートが1→2→4個と増えていきます。これにより、低速から中間速域にかけて燃料がスムーズに供給される設計になっています。街乗りでも扱いやすいとされる理由がここです。ウェーバーにはこのポート構造がなく、扱いがやや難しくなる面があります。
エマルジョン(燃料と空気を混ぜた霧状の混合物)の作り方にも違いがあります。ソレックスのモノジェットタイプはブリードパイプという筒状の部品がジェットブロック内にあり、まるでコップの中のストローのように空気を吹き込んでエマルジョンを強制的に生成します。この方式は構造が複雑な分、良質なエマルジョンを安定して作れるとされています。
一方、ウェーバーのビジェットタイプはメイン経路とアイドル経路が別々になっており(バイパス構造)、仕組みとしてはシンプルです。どちらの方式が優れているかは目的や使用環境によって異なりますが、低中速のフィーリングではソレックスに軍配が上がることが多く、高回転のパワー発揮を最優先するレース用途ではウェーバーが選ばれる傾向があります。
また、ジェットの着脱方法も異なります。ウェーバーのエアジェットやメインジェットは圧入式のため普通のマイナスドライバーでは外れず、特殊工具が必要です。ソレックスの場合は構造上それより着脱しやすい設計ですが、それでも溝幅の合わない工具で無理に回すとジェットの頭をなめてしまいます。専用ツールを使うのが原則です。
ソレックスキャブは旧車に多く使われている部品です。経年使用でパッキンやダイヤフラムが劣化すると、燃料漏れや混合気のズレが起きて正しいセッティングが出せなくなります。これが原因でいくらジェットを交換しても改善しないケースは少なくありません。
プロショップに依頼した場合のオーバーホール費用の相場は下記のとおりです。
| 作業内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 基本O/H(消耗品・ガスケット交換)1基あたり | 約25,000〜55,000円 |
| サンドブラスト仕上げ込みフルO/H 1基あたり | 約55,000円〜 |
| 3連キャブ(3基)の工賃のみ | 約40,000〜50,000円 |
| O/Hキット(カメアリ製 4型用) | 約4,230円〜 |
3連キャブ仕様の場合は3基分の工賃が発生するため、フルO/Hともなると総額15万円を超えることも珍しくありません。痛いですね。
DIYでO/Hをチャレンジする場合でも、まず点火系と燃料供給ラインのチェックを先に行うことを強くすすめます。実際、「キャブをいじり続けても改善しない」という相談の多くは、点火系(トランジスタイグナイターの劣化、点火ケーブルの老化など)や燃圧の問題が根本原因だったケースがあります。キャブ単体をいくら分解・清掃・ジェット交換しても治らない場合は、プラグ・イグニッションコイル・点火時期の順に確認するのが効率的な手順です。
O/Hキットや専用ジェットが必要な場合は、カメアリエンジンワークスやOER(オーイーアール)などのメーカーが現在も専用部品を製造・販売しています。ソレックス用の純正互換ジェットはOER製で取り扱われているケースが多いため、部品調達の際はこちらを確認するのが現実的です。
参考リンク(ソレックスO/H費用と専門店情報)。
SUキャブレター・ソレックス40φ〜50φのオーバーホール – ティーバレー(料金表あり)