飲酒運転は道路交通法で2つに明確に分類されます。最も重要な違いは、酒気帯び運転には政令で定められた具体的な数値基準があり、酒酔い運転には数値基準がないという点です。
酒気帯び運転は、呼気1リットル中のアルコール濃度0.15mg以上、または血液1ml中に0.3mg以上という政令基準で判定されます。この数値は、純アルコール20gを摂取したときの血中濃度に相当します。一方、酒酔い運転はアルコール濃度の数値に関係なく、ふらつき、言葉の不明瞭さ、視覚機能の低下、異常な運転操作など、アルコールの影響で正常な運転が困難と認定された状態を指します。
重要なのは、アルコール濃度が0.15mg未満でも、酒に弱い人や特に酔った状態であると判断されれば、酒酔い運転で検挙される可能性があるという点です。運転能力の客観的な判定が酒酔い運転の基準となるため、個人差が大きく影響します。
酒気帯び運転に該当する基準値は、実際の飲酒量に換算するとどのくらいの量に相当するでしょうか。呼気1リットル中のアルコール濃度0.15mgという基準は、以下のようなお酒の量に対応します。
これらはあくまで平均的な成人の基準値に達する目安量です。体重や代謝速度、食事の有無によって個人差が生じるため、「このくらいなら大丈夫」という判断は極めて危険です。警察庁のデータでは、少量の飲酒でも判断力や反応速度が低下することが明かされています。アルコール濃度0.05%(血中)でも運転能力は明らかに低下し、0.1%を超えると顕著な運動能力の低下が生じます。
酒酔い運転は「何mg以上」という数値基準がないため、現場での判定は警察官による具体的な観察に基づきます。酒酔い運転と判定するための主な評価項目は、以下の通りです。
酒酔い運転での検挙では、これらの観察結果が重要な証拠となります。つまり、呼気検査で0.15mg未満でも、上記の項目で「正常な運転ができない」と判定されれば、酒酔い運転として罪に問われる可能性があります。警察の現場判断が重要になるため、本人が「大丈夫」と思っていても、客観的には運転能力が著しく低下していると認定される場合があります。
この2つの分類が存在する理由は、交通安全対策における段階的な規制の考え方に基づいています。酒気帯び運転の基準値0.15mgという数字は、科学的研究に基づいて、アルコールが運転に悪影響を与え始める濃度として国際的に設定されています。一方、酒酔い運転という分類により、少量でも運転能力が低下した人を逃さず規制するという意図があります。
両者の最大の違いは、酒気帯び運転は「客観的に測定可能な基準」で判定され、酒酔い運転は「運転能力の主観的判定」で決まるという点です。この違いが、罰則の重さにも影響しています。実務的には、少しでもアルコール検査で反応があれば酒気帯び運転、さらに運転能力の著しい低下が見られれば酒酔い運転という厳格な判定が行われます。
最近の注目すべき変化として、酒気帯び運転と酒酔い運転の判定精度が向上しています。従来は現場での簡易検査に頼ることが多かったのですが、現在の装置はより正確なアルコール濃度測定が可能です。加えて、缶ビールや缶チューハイなどのアルコール飲料に「純アルコール量」がグラム単位で表示されるようになり、ドライバーが自分の飲酒量をより正確に把握できるようになりました。
一般的に、純アルコール20gが「1単位」とされ、これが1日の適量とされています。ビール500mlは約20g、日本酒180mlで約22gに相当します。飲酒運転は防止できても、翌日の「二日酔い」状態での運転も実は危険です。研究では、アルコールが完全に抜けたはずでも、二日酔いの状態では反応速度が0.05%の飲酒時と同等に低下することが報告されています。
酒気帯び運転と酒酔い運転では、法律上の罰則に明確な差があります。まず刑事処分から説明します。
酒気帯び運転の刑事処分は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。一方、酒酔い運転はより重く「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます。罰金額で見ると、酒酔い運転は酒気帯び運転の2倍です。
行政処分(免許処分)については、酒気帯び運転はアルコール濃度によってさらに2段階に分かれます。呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上0.25mg未満の場合、違反点数は13点で免停90日です。一方、0.25mg以上の場合は違反点数25点で、免許は2年間の欠格期間を伴う取り消しとなります。
酒酔い運転は基準値に関わらず、違反点数35点で免許取り消し、欠格期間3年という最も重い処分が下されます。この点数は、道路交通法上で最も重大な違反(故意による人身事故など)に匹敵する重さです。
重要な点として、飲酒運転の罰則は運転者だけに適用されるわけではありません。酒気帯び運転であっても酒酔い運転であっても、関係者に処罰が及びます。
車を貸した人(飲酒することを知っていた場合)には、運転者よりやや軽い罰則が科されます。酒気帯び運転の場合、車両提供者は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。酒酔い運転の場合は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」となります。
さらに、酒類を提供した人や飲酒運転であることを知りながら同乗した人も処罰対象です。これらの人は運転者より軽い処分ですが、依然として刑事責任を問われます。平成21年の法改正以来、飲酒運転に対する社会的な罰則が強化されたのは、悲劇的な事故を減らすためです。
飲酒運転で事故を起こした場合、保険の適用が大きく制限されるという実務上の重大な問題があります。酒気帯び運転でも酒酔い運転でも、搭乗者傷害保険や人身傷害補償保険が支払われないことが多いです。
さらに問題なのは、飲酒運転による事故では、通常の保険金が大幅に削減されるか支払い対象外になるケースがあることです。対人賠償責任保険も酒酔い運転の場合は支払拒否となる可能性があります。つまり、被害者への賠償責任は運転者が全額負担する必要が生じます。これは数千万円を超える賠償請求につながることも珍しくありません。
免許取り消し後の再取得にも、酒気帯び運転と酒酡い運転では大きな差があります。酒気帯び運転(0.25mg以上)の場合、2年間の欠格期間を経て試験を受けることで免許を取得できます。一方、酒酡い運転の場合は3年間の欠格期間があり、さらに再取得試験の内容も異なります。
実際には、欠格期間中も定期的に道路交通法の違反者講習を受講する必要があります。この講習費用は自己負担で、酒酔い運転の場合は一般的により厳格な指導が行われます。欠格期間中に再び飲酒運転で検挙されると、さらに期間が延長される可能性もあります。つまり、酒気帯び運転と酒酡い運転の違いは、その後の人生に数年単位で影響を与えるのです。
参考:大阪府警察本部「酒気帯び運転と酒酔い運転の違い」
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/sodan/faq/kotsu/torishimari/3233.html
参考:警察庁交通局「飲酒運転の罰則と処罰」
https://www.npa.go.jp/
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