日本のCHAdeMO充電器は約1万2000口あるのに、新車で使えなくなる日が来るかもしれません。
NACS(North American Charging Standard、北米充電標準規格)とは、テスラが自社のEV向けに開発し、2022年に仕様を一般公開した急速充電規格です。日本語では「ナックス」と読まれることも多く、テスラのスーパーチャージャーネットワークで使用されてきた充電コネクター方式がそのままオープン規格として発表されたものです。
もともとテスラは北米や日本において独自規格(旧称:TPC規格)を採用していましたが、2022年にこれを「NACS」として世界に公開しました。その後、北米ではGM・フォード・トヨタ・ホンダ・日産など主要な自動車メーカーが相次いでNACS採用を発表。現在ではアメリカの事実上の標準規格として定着しています。
NACSの最大の特徴は、急速充電と普通充電を1つのポートでまかなえる点にあります。他の規格では急速充電用と普通充電用のポートが別々になることが多いのに対し、NACSはコンパクトな1口で完結します。これは車体設計の自由度を高める上でも重要なポイントです。
充電性能にも優位性があります。現在日本で主流のV3スーパーチャージャーは最大出力250kWで、従来のCHAdeMO充電器(多くが50kW前後)と比べると約5倍の出力差があります。つまりNACS対応のスーパーチャージャーを使えば、CHAdeMOの5分の1程度の時間で同じ電力を充電できる計算になります。感覚的にいえば、CHAdeMOで40分かかる充電がNACで8分程度に短縮されるイメージです。
また、テスラのスーパーチャージャーではプラグを差し込むだけで認証と課金が自動的に完了する「プラグアンドチャージ(PnC)」が実現されています。CHAdeMOの充電器では専用ICカードや事前登録が必要なケースも多いため、使い勝手の面でも差が出ます。これは使えそうです。
| 項目 | NACS(スーパーチャージャーV3) | CHAdeMO(主流) |
|---|---|---|
| 最大出力 | 250kW(V3)/ 350kW(V4・欧州) | 50〜150kW |
| コネクター数 | 急速・普通充電共通の1口 | 急速・普通充電で別々 |
| 認証方法 | プラグ接続のみ(PnC) | ICカード・アプリ必要 |
| 日本国内設置数 | 約700口(2025年末時点) | 約1万2000口 |
NACSの仕様が公開されたことで、テスラ以外のメーカーも自由にコネクターを製造・採用できるようになりました。これが日本を含む世界各国での採用拡大につながっています。つまり、NACSはもはや「テスラ専用」ではありません。
参考:テスラ・スーパーチャージャーの技術概要と国内展開情報
Tesla Japan 公式 - 公共の充電設備について
日本国内でNACS採用を発表した自動車メーカー・ブランドは、2026年3月時点で急増しています。動きの早さは想定外です。
最初に日本向けでNACS採用を明らかにしたのは、ソニー・ホンダモビリティの電気自動車「アフィーラ(AFEELA)」です。2026年後半に日本での販売を予定しており、テスラ以外の車種が国内でスーパーチャージャーに対応する初のケースとなります。V3・V4スーパーチャージャーへの対応が確認されています。
次いでマツダが2025年5月9日にNACS採用を発表しました。2027年以降に日本国内で販売するBEVの急速充電ポートにNACSを採用することをテスラと合意。国内メーカーが日本向けEVでNACSを採用するのは初めてです。マツダのプレスリリースには「充電時のお客さまの選択肢を増やし、利便性を高めることを目的」と明記されており、アダプターによってCHAdeMO充電器も引き続き利用できる「見通し」が示されています。
さらに2025年11月にはステランティス(アバルト・アルファロメオ・シトロエン・フィアット・ジープ・マセラティ・プジョーなど14ブランドを傘下に持つ巨大メーカー)が「北米・日本・韓国のBEVにNACSを採用する」と発表しました。日本では2027年以降の導入となります。将来的には5カ国で合計28,000基以上のスーパーチャージャーへのアクセスが可能になるとしています。
日本国内において最大の注目点は、トヨタが日本向けEVでもNACSを採用するかどうかです。日本EVクラブや業界各所でも「トヨタの動きが日本のNACS普及のカギを握る」と指摘されています。トヨタが国内でNACSを採用すれば、インフラ整備も含めて日本全体の規格転換が一気に加速する可能性があります。
参考:マツダの公式NACS採用プレスリリース
マツダ公式ニュースルーム - 国内向けBEVに北米充電規格(NACS)を採用
EV長距離ドライブにとって最も重要な充電拠点は高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SAPA)です。ところが、テスラのスーパーチャージャーは現在も高速道路のSAPA内には設置されていません。意外ですね。
その理由は「公共性」にあります。高速道路のSAPAは公共インフラとして位置づけられており、特定の1社だけのための専用施設を設けることが認められてこなかったのです。テスラ車専用のスーパーチャージャーを設置すれば、他社のEVユーザーが利用できない施設を公共スペースに置くことになる。これが設置を阻んできた根本的な理由です。
一部の場所(新東名・遠州森町PAや浜松SAの近隣など)にはスーパーチャージャーが設けられていますが、これらは高速道路を一度降りなければアクセスできない場所にあります。高速走行中のEVオーナーにとっては、わざわざ出口を降りて充電し、また入り直す必要が生じるため、利便性は大きく損なわれています。
しかし、この状況は2027年以降に劇的に変わる可能性があります。マツダ・ステランティス・ソニーホンダと複数のメーカーがNACS採用を表明したことで、スーパーチャージャーはもはや「テスラ車専用施設」ではなくなるからです。多数のメーカーのEVが利用できる充電設備となれば、「特定メーカー専用」という理由での設置拒否は成立しなくなります。
この変化を見越して、すでに動き出している充電インフラ事業者もいます。テンフィールズファクトリーが展開する「FLASH」という急速充電器は、CHAdeMOとNACSの両規格ケーブルを備えており、2025年8月時点で日本国内100カ所以上に設置されています。また、スイスの重電大手ABBも2025年8月にCHAdeMOとNACSの両方に対応した急速充電器「Terra 184 JN」(最大出力140kW)の日本発売を発表しており、既存CHAdeMO充電器へのNACSケーブル併設という形での整備拡大が見込まれています。
経産省が2023年に策定した「充電インフラ整備促進に向けた指針」では、2030年までに急速充電器3万口の整備が目標とされています。2025年3月末時点の急速充電器数は約1万2000口。このペースではNACSが本格普及する2027年前後に、整備拠点の拡大と規格移行が重なるという構図です。高速SAPAへのNACS充電器設置の大義名分が揃ったことで、今後は急速整備が進むものと期待されています。
参考:充電インフラ整備の最新動向と高速道路SAPA対応状況
EVsmartブログ - ステランティスが日本でもNACS規格採用、高速SAPAへの設置の可能性を解説
「NACSが普及したら、今持っているCHAdeMO対応のEVはどうなるの?」と心配になる方は多いと思います。この疑問に正面から答えておきます。
結論からいえば、既存のCHAdeMO対応EVがすぐに使えなくなるわけではありません。日本国内には現在約1万2000口のCHAdeMO急速充電器が稼働しており、2025年3月末時点でも前年比700口増と着実に増加しています。経産省の整備目標(2030年まで3万口)はCHAdeMO規格を前提に進められており、短期的にCHAdeMOインフラが消えることはありません。CHAdeMOが原則です。
一方で、NACSへの移行を表明したマツダなどのメーカーは「アダプターを提供する見通し」を示しています。このアダプターを使えば、NACSポート搭載の新型EVでも既存のCHAdeMO充電器が利用できる予定です。ただし、アダプター経由のCHAdeMO充電には最大125A=50kWという出力制限が存在しており、NACSの持つ高出力充電の恩恵は得られません。アダプターは「非常用の互換手段」と考えておく方が現実的です。
さらに注意すべき点として、CHAdeMO協議会は本来アダプターの使用を「原則禁止」としています。テスラのCHAdeMOアダプターは特例として認められていますが、CHAdeMO協議会として互換性・安全性を保証するものではありません。マツダが提供予定のアダプターがどのような扱いになるかは、今後の交渉・動向次第です。
現在すでにCHAdeMO対応のEVを所有しているオーナーにとっては、2027年以降に充電拠点の選択肢が変わることを知っておくべきでしょう。特に高速道路経由の長距離ドライブを計画する場合、今後のSAPA充電拠点の規格動向をこまめに確認しておくことが重要です。GoGoEVやEVsmartのような充電拠点検索アプリ・サービスを活用すれば、現在地周辺の対応規格をリアルタイムで確認できます。これは使えそうです。
また、日本でのCHAdeMO廃止や終息が具体的な日程として設定されているわけではありません。ただし、海外市場では米国・欧州を中心にCHAdeMO対応設備を順次撤廃・縮小する動きが進んでいる事実もあります。日本国内においても、2027年以降に新車の多くがNACSを採用し始めると、CHAdeMOの相対的な存在感は徐々に薄れていく可能性があります。
参考:CHAdeMOとアダプターの公式見解
CHAdeMO協議会 公式FAQ - アダプターの取り扱いについて
ここからは、検索上位の記事にはあまり出てこない視点で考えてみます。それは「NACSと CHAdeMOの共存」という現実的なシナリオです。
日本のEV充電インフラはこれまで、国産規格CHAdeMOを軸に10年以上かけて構築されてきた社会資産です。補助金投入で整備されたこの約1万2000口を一気に廃棄したり、NACSへ切り替えたりすることは、コスト面でも行政判断の面でも容易ではありません。つまり、当面の日本は「CHAdeMOとNACSが並存する時代」を歩むことになります。
この過渡期において最も現実的なのが、既設のCHAdeMO充電器にNACSケーブルを追加設置するという「デュアルコネクター方式」です。実際、DMM EV CHARGEは日本初のNACS・CHAdeMO両対応ダブルコネクタ急速充電器を展開しており、ABBの「Terra 184 JN」もこの方式を採用しています。今後の充電インフラ整備はこの方向が主流になっていくと見られます。
ただし、充電インフラ整備を急ぐには自動車メーカー・充電サービス事業者・充電器メーカー・行政が足並みを揃えるコンセンサスが不可欠です。2025年3月には米国通商代表部(USTR)が日本政府の補助金がCHAdeMO規格に適合した充電器だけを対象としているとして、外国メーカーの参入を阻害していると名指しで批判しました。これは国際的な通商問題にまで発展しうる話で、日本の充電規格をめぐる選択は外圧による後押しを受ける可能性も否定できません。
一方で、CHAdeMO規格には他にない重要な特長があります。それはV2H(Vehicle to Home)、つまり車から家へ電力を戻す「V2H機能」への対応です。日本では自然災害時の非常用電源として車のバッテリーを活用する需要が高く、CHAdeMOはこの分野で先行しています。NACSはACポートからのV2X(Vehicle to Everything)対応の標準化について現在も仕様が固まっていない部分があり、この観点ではCHAdeMOにアドバンテージがあります。
厳しいところですね。日本独自の事情(V2H需要・既設インフラの維持)と、グローバルスタンダードへの対応(NACS普及)をどう両立するか。これが今後の日本のEV政策において最も難しい選択になるでしょう。EV購入を検討しているなら、自分のライフスタイルに合わせて「自宅充電環境の整備ができるか」「主にどの経路・距離を走行するか」を基準に規格の向き不向きを判断することが、中期的には最も賢明です。
2027年がひとつのターニングポイントです。その時点での各メーカーの動向・トヨタの国内向けEVにおける判断・政府の充電インフラ補助金の規格要件の変更有無を注視することが、今後のEV選びにおける重要な判断材料となります。
参考:日本のEV充電インフラ整備状況の詳細レポート
参考:NACSと日本のEV充電規格の今後を詳しく分析した記事
EVsmartブログ - マツダが日本国内向けEVにNACS採用を発表(2027年以降)

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