MujiCar1000は2001年5月11日に発売された、良品計画(無印良品)と日産自動車のコラボレーションによる特別仕様車でした。ベース車両は日産の2代目マーチ(K11型)で、1000台限定での販売が予定されていました。
価格は93万円に設定され、同時期のマーチ コレット-f(95.5万円)よりも2.5万円安く設定されていました。しかし、既にモデルチェンジ直前だったK11マーチは日産ディーラーでの値引きが旺盛で、値引きなしのワンプライスを掲げていたMujiCarとの価格差が逆転してしまうことも珍しくありませんでした。
車両の基本スペックは以下の通りです。
MujiCar1000の最大の特徴は、無印良品らしいシンプルさを追求したデザインでした。バンパーやドアミラーは無塗装の樹脂部品を使用し、13インチのスチールホイールに155/70R13と軽自動車並みに小さいタイヤを装着していました。
内装面では、後部座席とラゲッジルームはビニール張りとなっており、内装パネルも最低限の装備に留められていました。この極端なシンプル化により、「新車なのに中古車みたいだ」と揶揄されることもありました。
しかし、実用性を重視した工夫も随所に見られました。
さらに、予約特典として3万円相当の無印良品オリジナル折りたたみ自転車がプレゼントされました。
MujiCar1000の販売方法は当時としては革新的でした。無印良品のオンラインショップ「muji.net」で予約・販売を行い、実際の納車や整備、アフターサービスは日産ディーラーが担当するという異業種合同プロジェクトでした。
しかし、この販売形態には問題がありました。ネット限定販売と謳いながらも、muji.net上で手に入るのは予約番号のみで、実際の注文、納車、アフターサービスは日産販売店に丸投げ状態でした。つまり、ネットで手に入るのはMujiCarを買う権利だけだったのです。
結果として、1000台限定で販売を開始したものの、実際に売れたのはわずか170台に過ぎませんでした。この数字は、限定車としては決して成功とは言えない結果でした。
比較として、同時期の他の限定車の販売実績を見ると。
これらと比較すると、MujiCar1000の170台という数字は、自動車とは全く無縁な無印良品の通販サイトで販売されたことを考慮すれば、むしろ健闘したとも言えるでしょう。
MujiCar1000が期待された販売台数に達しなかった理由は複数あります。
装備の貧弱さ
最大の問題は、シンプルさを追求しすぎた結果、消費者には「いささかシンプル過ぎる」と受け取られたことでした。無塗装の樹脂部品、軽自動車並みの小さいタイヤ、ビニール張りの後部座席など、当時の消費者の期待に応えられませんでした。
ブランディングの矛盾
無印良品は「ノーブランド」を謳いながら、ハンドルには日産のロゴが残っていました。これは無印ファンには減点要素となりました。
価格競争力の欠如
値引きなしのワンプライス戦略は、値引きが当たり前だった当時の自動車業界では不利でした。
デザインの地味さ
遠目にはベースとなったマーチとの差異があまり感じられず、限定車としてのプレミアム感が薄かったのです。
販売チャネルの問題
オンライン販売と謳いながら、実際は日産ディーラーでの対応が必要という中途半端な販売方法も混乱を招きました。
現在、MujiCar1000は希少車として一定の価値を持っています。わずか170台しか生産されなかったため、現存する車両は非常に少なく、自動車コレクターの間では注目される存在となっています。
興味深いことに、2024年には中国でホンダと無印良品のコラボレーションによる新たな特別仕様車が発表されました。ベース車はクロスオーバーEV「e:NP2」と「e:NS2」で、「旅」をコンセプトにしたアウトドア向けの仕様となっています。
このように、MujiCar1000の失敗にも関わらず、無印良品と自動車メーカーのコラボレーションは完全に終わったわけではありません。むしろ、当時の経験を活かしたより実用的なアプローチが取られています。
また、光岡自動車との幻のプロジェクト「CITY BUGGY 2003」も存在しました。このプロジェクトでは100台の発注が予定されていましたが、製品の実車試作が完成に近づいた段階で、無印良品が突然商品化を中止し、10台しか発注できないと言い出したため、プロジェクトは中止となりました。
MujiCar1000の経験は、異業種コラボレーションの難しさと、ブランドイメージと実用性のバランスの重要性を示す貴重な事例として、現在でも自動車業界で語り継がれています。限定車の企画においても、単なる話題性だけでなく、消費者の実際のニーズを満たすことの重要性を教えてくれる教訓となっています。