令和4年4月1日の改正により、事務所衛生基準規則における温度基準が大きく見直されました。従来は17度以上28度以下が努力義務の範囲でしたが、現在は18度以上28度以下に統一されています。この1度の引き上げは、単なる数値の修正ではなく、労働環境における快適性と労働者の健康を重視する政策転換を意味しています。
厚生労働省が示す基準によれば、室温が15度以下になると冷えによる体調不良のリスクが急速に高まり、逆に30度を超えると熱中症の危険が生じます。18度以上28度以下という範囲は、これらのリスク要因を最小限に抑えながら、生産性を維持できる温度帯として設定されています。
事務所衛生基準規則第4条第1項では、「室の気温が10度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない」と明記されています。これは努力義務ではなく、事業者の絶対的な義務です。冬季に暖房設備の故障やメンテナンスで室温が低下した場合、この基準に抵触すれば罰則の対象となる可能性があります。
10度以下という閾値が設定された理由は、この温度帯では労働者の作業効率が大きく低下し、同時に寒冷障害のリスクが増加するためです。特に高齢労働者や基礎疾患を持つ労働者にとって、10度以下の環境は深刻な健康被害をもたらす可能性があります。事業者は定期的な暖房設備の点検と、冬季における室温の記録管理を徹底する必要があります。
事務所衛生基準規則第4条第2項では、「室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない」と規定されています。ただし、電子計算機等を設置する室においては、作業者に保温のための衣類等を着用させる場合に限り、例外が認められています。
この規定が設けられた背景には、急激な温度変化による健康被害の防止があります。屋外の気温が35度の日中に、冷房で室内を20度に設定すると、15度の温度差が生じます。この「外気温より著しく低くしてはいけない」という表現は、一般的には外気温との差が5度程度までが目安とされています。過度な冷房は、体の自律神経系に大きなストレスを与え、冷房病(クーラー病)の原因となるため、注意が必要です。
温度の測定方法は、事務所衛生基準規則で厳密に定められており、正確な管理を確保するための重要な要素です。測定は、室の通常の使用時間中に、当該室の中央部の床上75センチメートル以上120センチメートル以下の位置において実施しなければなりません。この高さの設定は、一般的なオフィスワーカーの呼吸域に相当する高さであり、労働者が実際に感じる温度に基づいています。
温度計の精度も重要で、事業者は0.5度目盛の温度計を用いることが定められています。デジタル温度計やアナログ温度計を使用する際は、定期的にキャリブレーション(校正)を行い、測定誤差を最小限に抑える必要があります。室内の複数箇所で測定を行い、平均値を記録する方法も、より正確な温度管理を実現するための実務的な工夫です。
事務所衛生基準規則第5条第3項では、温度基準の他に、相対湿度についても規定されています。空気調和設備を設けている場合、室の気温が18度以上28度以下であると同時に、相対湿度が40パーセント以上70パーセント以下になるよう努めなければなりません。温度と湿度は、労働者の快適性や健康に相互に影響を及ぼす要因です。
気温が同じ18度でも、相対湿度が30パーセントの場合と70パーセントの場合では、体感温度が大きく異なります。低湿度環境では、皮膚や呼吸器の乾燥が進行し、インフルエンザなどの感染症リスクが高まります。一方、高湿度環境ではカビやダニの繁殖が促進され、アレルギー症状を引き起こしやすくなります。事業者は温度計と湿度計を組み合わせて使用し、両者のバランスの取れた環境管理を実現する必要があります。
厚生労働省山梨労働局のページには、令和4年4月1日施行の温度基準改正に関する詳細な説明と、関連する施行通達やリーフレットが掲載されており、企業の実務担当者にとって参考になります。
環境省の「COOLBIZ」プロジェクトページには、事務所衛生基準規則に基づいた適切な室温管理についての実践的なガイダンスが掲載されており、省エネルギーとの両立を図るヒントが得られます。
空気調和設備を備えていない事務所においても、事務所衛生基準規則では一定の配慮が求められています。具体的には、「空気調和設備を設けている場合以外であっても、冷暖房器具を使用することなどにより事務所における室の気温は18度以上28度以下になるようにすることが望ましい」と規定されています。
これは努力義務にとどまりますが、実務的には重要な指針となります。スポットクーラーやファンヒーター、個別のエアコンユニットなど、小規模な冷暖房器具を活用することで、基準を満たす環境を整備することが可能です。さらに、自然通風の利用や建築物の断熱性能の向上なども、省エネルギーと両立させた温度管理の手段として検討すべき項目です。労働者の健康と生産性を考慮した、実行可能な対応策を各事業所の状況に応じて検討することが重要です。
職場における温度・湿度管理の実践的解説記事には、法令基準の具体的な活用方法や、測定から調節に至るまでのプロセスが分かりやすく整理されており、実務担当者の指針となります。
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