現代自動車は2001年に「ヒュンダイモータージャパン株式会社」を設立し、日本市場への本格的な参入を果たしました 。当時の戦略は、「ヒュンダイを知らないのは日本だけかもしれない」という挑戦的な宣伝文句を掲げ、世界198か国目の進出先として日本を位置付けていました 。
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初期投入車種は、コンパクトカーの「TB」、カローラクラスの「エラントラ」、カムリクラスの「ソナタ」、ミニバンの「トラジェ」、SUVの「サンタフェ」など、多岐にわたるラインナップで展開しました 。また、2002年の日韓ワールドカップや韓流ブームの影響もあって、当初は一定の注目を集めていました 。
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価格戦略としては、日本車より安価な設定を行い、値引きなしのワンプライス販売を採用していました 。しかし、この戦略が後に大きな問題となることになります。
ヒュンダイの日本撤退には複数の要因が複合的に作用していました。最も重要な要因として、日本市場での輸入車に対する期待との根本的なミスマッチがありました 。日本市場では輸入車はプレミアムカーとしての位置付けが強く、ブランド力、デザイン性、走行性能などが重視されていました。
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技術面・品質面での課題も深刻でした。当時のヒュンダイ車は「日本車に比べると内外装のセンスもメカも大味で、最低2~3割安くないと日本では売れない」という評価を受けており 、実際の価格設定が日本車とほとんど変わらないにも関わらず、品質面で劣っていたことが大きな問題となりました。
さらに、日本特有の市場環境への対応不足も致命的でした。日本は小型車中心の市場であるにも関わらず、ヒュンダイは中型車のソナタを主力に据えていました 。機械式駐車場が小型車サイズ向けに設計されている日本で、大型車の販売を先陣に置いたのは戦略的な誤りでした。
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ヒュンダイの日本での販売実績は惨憺たるものでした。2001年から2009年までの9年間で販売された総台数はわずか1万5095台で 、年平均約1600台という極めて低い水準でした。最も好調だった2004年でも年間2524台の登録に留まり 、その後は年々減少していきました。
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この販売不振の背景には、日本市場特有の構造的問題がありました。日本では軽自動車市場が大きな割合を占めており、外国企業が軽自動車規格に合わせて車を作ると採算が合わないため、軽自動車以外の市場を攻略する必要がありました 。しかし、その分野では既に確立された日本車ブランドとの競争が激しく、新参のヒュンダイが参入する余地は限られていました。
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消費者の反応も冷淡で、「韓国製品である」「価格競争力が弱い」「車のサイズが大きすぎる」という3つの主要な問題点が指摘されていました 。特に、同じ価格帯であれば日本車の方が優れているという認識が強く、消費者にとってヒュンダイ車を選ぶ明確な理由が見つからない状況でした。
ヒュンダイの撤退は、外国車メーカーにとって日本市場の困難さを改めて浮き彫りにしました。世界4位の自動車グループでありながら、日本市場だけは攻略できないという事実は、日本市場の特殊性と閉鎖性を象徴する出来事として業界に大きな印象を残しました 。
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この撤退は、他の韓国系自動車メーカーにも影響を与えました。起亜自動車も2013年に日本からの撤退を決定するなど 、韓国系ブランド全体の日本市場からの退潮を示す契機となりました。
一方で、ヒュンダイは撤退後も商用車分野では事業を継続していました。大型バス「ユニバース」は、コストパフォーマンスの高さから観光バス事業者の間で一定の評価を得ており、2016年にはインバウンド需要の増加を背景に年間163台を販売するなど、乗用車とは対照的な結果を示していました 。
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2022年2月、現代自動車は「ヒョンデ」として日本市場に再進出することを発表しました 。今回の戦略は前回とは大きく異なり、電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)に特化し、オンライン販売中心の展開を採用しています 。
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再進出の主力車種として、「IONIQ 5」「KONA」「INSTER」の3モデルを展開しており 、特にIONIQ 5は2022-23年日本カー・オブ・ザ・イヤーでアジアブランド初のインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、高い評価を得ています 。
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ヒョンデ・ジャパンは今後10年間で販売台数を10倍にするという目標を掲げており 、2022年の再参入以降、KONAとIONIQ 5を合わせて1500台を販売している状況です。この数字を10倍にすれば年間1万5000台となり、前回の9年間の総販売台数に匹敵する規模となります。
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しかし、課題も残されています。過去の撤退経験による信頼性への懸念、日本市場での認知度の低さ、充電インフラの整備状況など、EVという新たな分野であっても日本市場特有の困難は依然として存在しています 。
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