ヒールアンドトウを練習しているドライバーの約7割が、最初の1か月で足首を痛めて練習を中断しています。
ヒールアンドトウとは、MT(マニュアルトランスミッション)車においてコーナー手前の制動中に、ブレーキペダルを踏みながら同じ右足でアクセルペダルも同時にあおる操作技術のことです。この技術の目的は、シフトダウン時にエンジンの回転数を次のギアに合わせることで、クラッチをつないだときに発生するショックを防ぐことにあります。
「回転数を合わせる」とはどういうことでしょうか? 例えば4速で走行中にコーナー手前で3速へシフトダウンする場合、エンジン回転数が低いままクラッチをつなぐと、後輪に急激なエンジンブレーキがかかり、車体が不安定になります。ヒールアンドトウでアクセルをあおって回転数を3速相当まで上げておくと、クラッチをつないだ瞬間のショックがほぼゼロになります。これが基本です。
語源について補足すると、英語では「Heel-and-Toe」と表記し、もともとはかかと(Heel)でアクセルを踏み、つま先(Toe)でブレーキを踏む操作を指していました。しかし現代のスポーツカーやレーシングカーはペダル配置が最適化されており、実際には右足の外側やくるぶし付近でアクセルをあおるケースが大半です。名前と実際の動作がズレているのは意外ですね。
ヒールアンドトウはサーキット走行や峠道だけでなく、日常のMT車運転でもシフトダウン時の滑らかさを向上させるために使えます。つまりスポーツ走行専用の技術ではありません。
ヒールアンドトウの操作を分解すると、以下の5つのステップで構成されています。それぞれが連動しているため、1つでも抜けるとうまくいきません。
| ステップ | 操作内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ① | 右足つま先でブレーキを踏む | しっかり踏力をかける |
| ② | 左足でクラッチを踏む | 完全に切る |
| ③ | 右手でシフトレバーをダウン方向へ操作 | 素早く正確に |
| ④ | 右足外側〜かかとでアクセルをあおる | 0.2〜0.3秒の短い操作 |
| ⑤ | エンジン回転数が合ったタイミングでクラッチをつなぐ | ここでショックを消す |
ステップ④の「アクセルをあおる」操作は、時間にして0.2〜0.3秒程度と非常に短いものです。はがきの横幅(約10cm)ほどしか足を動かさないのに、回転数は1,000〜2,000rpmも変化させる必要があります。それだけ繊細な操作ということですね。
重要なのは、ブレーキの踏力を落とさないことです。アクセルをあおろうとして足首を動かす際に、ブレーキ側の踏力が抜けてしまう失敗が非常に多く見られます。練習初期は、ブレーキ踏力を8割キープしたまま足首だけをひねるイメージを持つと安定します。
ギアを入れるタイミングも重要です。シフトレバーをダウン方向へ操作してからアクセルをあおるのが正しい順序で、逆にしてしまうと回転数が合う前にクラッチをつなぐことになりショックが残ります。順序が条件です。
ヒールアンドトウの習得に最も効果的な練習場所は、サーキットの走行枠や広い駐車場(私有地)です。公道での練習は、急制動中に別の操作を加えることで危険が増すため推奨されません。まずは停車状態でペダル操作だけを繰り返す「ドライ練習」から始めるのが定石です。
停車中のドライ練習では、エンジンをかけた状態でブレーキを踏みながら足首をひねってアクセルをあおる動作を500回以上繰り返すことが推奨されています。500回というのはおよそ2〜3時間分の練習量で、一般的な習得期間の目安は「集中練習で1か月、週末だけなら3か月」とされています。
靴の選択も見逃せません。ヒールアンドトウに向いているのは、ソール(底面)が薄くて硬い靴です。底が厚いスニーカーやブーツは足首の感覚が鈍くなり、アクセルの踏み加減が分かりにくくなります。専用のドライビングシューズは底の厚さが約5mm前後のものが多く、通常のスニーカー(15〜30mm)と比較すると操作精度に大きな差が出ます。これは使えそうです。
ドライビングシューズを購入するほどではないという場合は、ソールが薄めの革靴やスリッポンタイプの靴でも代用可能です。まずは手持ちの靴で試してみて、感覚のつかみやすさを確認するのが現実的な進め方です。
また、ペダルの位置関係も確認しておくことが大切です。ブレーキペダルとアクセルペダルの高さが近いほど足首の動きが少なくて済み、習得が早くなります。車によってはペダルスペーサーやアジャスタブルペダルキットで高さを揃える改造が可能で、価格は5,000〜20,000円程度で入手できます。
ヒールアンドトウが特に有効な場面は、コーナー進入前のシフトダウン時です。具体的には峠道のヘアピンカーブ手前、サーキットのブレーキングゾーン、高速道路のランプウェイ(出口の曲線区間)などが代表的です。
サーキット走行では、ヒールアンドトウができるドライバーとできないドライバーの間でラップタイムに1〜2秒の差が出るとされています。1周3分のコースを10周走るだけで10〜20秒の差になります。単純な速さだけでなく、シフトダウン時のリアの安定性が向上するため、コーナー立ち上がりのトラクションにも好影響を与えます。結論は安全性と速さの両方に貢献する技術です。
日常のMT車運転での活用場面も見逃せません。市街地でも坂道を下りながら停車する際や、交差点手前で減速しながらシフトダウンするシーンで活用できます。完全なヒールアンドトウができなくても、「ブリッピング(シフトダウン前にアクセルを一瞬あおる操作)」だけでも効果があり、こちらはより習得が容易です。
一方でAT車やCVT車にはヒールアンドトウは不要です。クラッチ操作がないため、そもそもシフトダウン時のショックの仕組みが異なります。近年普及しているスポーツモードつきのAT車ではパドルシフトでシフトダウンができますが、その際のショック制御はECU(エンジンコントロールユニット)が自動で行います。MT車だけは例外です。
多くのドライバーが見落としているのが、「国産MT車のペダル配置はヒールアンドトウを想定していないものが多い」という事実です。国産スポーツカーであっても、市販状態ではブレーキペダルがアクセルペダルより5〜15mm程度高く設定されているケースが珍しくありません。この高低差があると足首の角度が不自然になり、ブレーキ踏力が抜けやすくなります。厳しいところですね。
対策としては、前述のペダルスペーサーによるアクセルペダルのかさ上げが有効です。ただしペダルの改造は車検や保安基準への影響を事前に確認する必要があります。一般的にはアクセルペダルを5〜10mmかさ上げするだけで操作感が大幅に改善されます。
さらに意外な落とし穴として、シートポジションの問題があります。シートを後ろに下げすぎると足全体がペダルに対して斜めになり、かかとがブレーキとアクセルの中間に自然に落ちなくなります。ヒールアンドトウに適したシートポジションは「膝がやや曲がった状態でブレーキが完全に踏める位置」が原則で、多くの場合は普段より2〜3cm前に出した位置が最適です。
ドライビングポジションを確認する簡単な方法として、ブレーキを床まで踏み込んだ状態で膝の曲がり角が120°前後になっているかをチェックする方法があります。これより膝が伸びていればシートを前に出すことを検討してください。シートポジションだけで習得速度が変わることも珍しくありません。
最終的にヒールアンドトウはMT車の運転技術の中でも習得難易度が高い部類に入りますが、ペダル配置・シートポジション・靴の3つを整えるだけで習得時間を大幅に短縮できます。まず環境を整えることが先決です。環境が条件です。
参考:日本自動車連盟(JAF)によるマニュアル車の運転操作に関する解説ページです。ヒールアンドトウを含むMT車の操作技術についての基礎情報として参照できます。
参考:サーキット走行や運転技術向上を目的としたドライビングスクールの情報源として、富士スピードウェイの公式サイトです。ヒールアンドトウを実践練習できる走行イベントの情報が掲載されています。

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