逆走防止スパイクは、英語圏で「トラフィック・スパイク」と呼ばれる路上埋め込み型の装置です。この装置の最大の特徴は、車両の進行方向によって異なる動作をする点にあります。
正しい方向から車両が通過する際は、スパイクが地面に沈み込み、車両が通過後に自動的に元の位置に戻ります。一方、逆走車両が通過しようとすると、スパイクが車両のタイヤに刺さり、パンクを引き起こして強制的に停止させる仕組みになっています。
装置の構造は比較的シンプルで、バネ機構を利用したスパイクが道路幅いっぱいに設置されています。このスパイクは一方向にのみ倒れるように設計されており、逆方向からの圧力に対しては強固に立ち上がったままの状態を保持します。
アメリカやオーストラリアでは、駐車場や一方通行の出口などで実際にトラフィック・スパイクが使用されています。特にアメリカでは、ショッピングモールや空港の駐車場で広く採用されており、不正な車両の侵入を効果的に防いでいます。
トルコのイスタンブールでは、一方通行対策として18本のトゲトゲを設置した事例があります。この装置は、正しい方向から来た車両はトゲトゲを踏んで地中に押し込みますが、逆走した車両はトゲトゲが回転せずにタイヤに刺さる仕組みになっています。
海外での運用実績を見ると、装置そのものの信頼性や耐久性は高く、メンテナンス頻度も少ないとされています。技術的には、日本の高速道路にも適用可能とされており、工学的な障壁は決して高くありません。
現在検討されている逆走防止スパイクには、主に2つのタイプがあります。
大型タイプ「TK-AUTO」
小型タイプ「TK-MAN」
両タイプとも、正しい方向からの通行時はスパイクが下がってパンクすることなく通行可能で、通行後は自動でスパイクが戻る仕組みになっています。
日本で逆走防止スパイクの導入が進まない最大の理由は、「事故発生後における責任の所在」の問題です。トゲ装置でタイヤがパンクし、それが原因でスピン・転倒・人身事故に至った場合、道路管理者が法的責任を問われる可能性があります。
国土交通省が2015年12月に発足させた「高速道路での逆走対策に関する有識者委員会」では、第1回目の議論でトゲトゲ装置が登場しましたが、最終的な試験内容には含まれませんでした。代わりに採用されたのは「路面埋込型ブレード」で、これは車両に衝撃を与えて注意喚起するだけで、逆走を物理的に阻止する機能はありません。
さらに、導入に際しては以下のような課題があります。
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏は、「スパイクなんとか、日本でもなぜ導入しないのか、高速の出入り口の所に」と発言し、「パンクさせたことで責任を問われるということを避けているのかなあ。あれくらい僕はやるべきだと思う」と自身の考えを述べています。
現在の日本の交通行政は「ドライバーが自主的に判断する余地を残す」という思想を重視しており、物理的な制止手段の導入には消極的です。しかし、相次ぐ逆走事故を受けて、ネット上では「国の怠慢」「弱腰では被害は減らない」といった批判の声が高まっています。
自動車業界への影響として、逆走防止スパイクの導入が進めば、以下のような変化が予想されます。
技術的な観点から見ると、逆走防止スパイクは既存の道路インフラとの親和性が高く、比較的容易に導入できる可能性があります。今後、法的な整備が進めば、日本でも本格的な導入が検討される可能性が高いでしょう。