ガソリンには食品のような明確な消費期限表示がありません。しかし、石油業界の一般的な指標では、気温変化が少ない冷暗所での保管を条件として、半年程度が品質を保つ期間とされています。屋外などの常時空気にさらされている環境では、わずか3ヶ月で劣化が顕著になります。燃料タンク内のガソリンは密閉された状態で保管されるため、最初の給油から半年程度が劣化の分岐点となります。ただし、これは目安であり、気温や湿度、タンクの状態によって大きく前後することに注意が必要です。
石油連盟では灯油や軽油については6ヶ月を推奨期間としていますが、ガソリンについては個人保管の危険性から明確な期限を設けていません。つまり、「早めの使用(入れ替え)を推奨する」というのが業界の基本姿勢です。この曖昧さこそが、ガソリンが「生もの」であることを物語っています。
ガソリンの劣化は「酸化」という化学反応が主因です。ガソリンに含まれるアルケンが空気中の酸素と接触することで、有機過酸化物が生成されます。この化学反応が進むと、アルデヒド、ケトン、有機酸などの物質へと次々と変化していきます。最終的には「ガム質」と呼ばれる粘性物質が形成され、これがタンク内に蓄積されていきます。
アルケンの酸化によって生じるギ酸や酢酸は、塁臭い刺激臭を放ちます。この悪臭はガソリンの劣化を視覚的に判断する重要な指標となります。同時に、揮発性の高い軽い成分が消失する一方で、粘度の高い重い成分が残存するため、時間とともにドロドロの状態へ変化していくのです。この過程は逆戻りできない変化であり、一度劣化したガソリンを復活させることは不可能です。
ガソリンの劣化速度を遅延させるには、保管環境の管理が極めて重要です。直射日光を避け、涼しく風通しの良い冷暗所に車を駐車することが基本です。高温多湿環境はガソリンの酸化を加速させるため、特に夏場の屋外駐車は避けるべき状況です。給油キャップがしっかり閉まっているか定期的に確認し、「カチッ」と音がするまで確実に閉じることで、タンク内への空気の侵入を防ぎます。
給油タイミングの工夫も効果的です。こまめに給油し、常に新しいガソリンをタンク内に補充する戦略により、劣化したガソリンの割合を最小限に保てます。理想的には1~2週間に一度、20~30分程度の走行を心がけることで、燃料系統内の水分を蒸発させるという付加効果も期待できます。カーショップなどで販売されているガソリン劣化防止剤を使用すれば、最長2年程度の品質保持が可能な商品も存在します。
劣化したガソリンから生じるギ酸や酢酸は、燃料タンク、配管、インジェクターなどの金属部品を腐食させます。この腐食は見えない内部で徐々に進行し、最終的には燃料漏れや部品の早期破損につながります。同時に、ドロドロ状態のガソリンは燃料配管通路や燃料フィルター、噴射弁を目詰まりさせ、エンジンの始動不良や出力低下を引き起こします。
半年以上車を放置した場合、エンジンがかかりづらくなるという現象が頻繁に報告されています。運良くエンジンが始動しても、詰まった燃料系統による不具合は時間とともに悪化していきます。高速道路走行中にエンジンが突然失火し、クルマが止まるといった重大事故につながる危険性すら孕んでいるのです。修理費用も高額になりやすく、早期対策が経済的損失の軽減につながります。
すでに劣化したガソリンを使用し続けることは危険です。最も確実な対処法は、劣化したガソリンを新しいガソリンに入れ替えることですが、ガソリンの処分には法的な注意が必要です。ガソリンは消防法により「第4類危険物 引火性液体 第一石油類」に指定されており、家庭ごみとしては処分できません。カーディーラーや整備工場などの専門家に依頼するか、ガソリンスタンドや産業廃棄物処理業者に持ち込むべきです。
自分でガソリンを抜き取る場合は、運搬に消防法適合容器を使用し、最大容積22リットルまでという制限を守る必要があります。決して下水に流したり、不適切に処分したりしてはいけません。定期的に車を使用し、こまめに給油するという習慣が、こうした手間を未然に防ぐ最善策なのです。愛車を長く大切に使い続けるためには、ガソリン劣化 期間への理解と予防対策が不可欠です。