ガソリン価格の値上げを理解するには、まず根本的な要因を知る必要があります。日本はガソリンの原料となる原油をほぼ全量輸入に頼っており、ガソリン価格は国際的な原油価格と為替相場の両方の影響を大きく受けます。
原油価格が上昇する要因は複数あります。ロシアのウクライナ情勢、OPEC加盟国の生産調整、世界経済の需要変動などが挙げられます。特に地政学的リスクが高まると、市場での買い急ぎが発生し、原油価格は予想以上に急上昇することがあります。また、為替相場が円安に振れると、ドル建ての原油価格がそのまま日本円に換算されるため、日本の消費者が受ける負担は一層増加します。
わかりやすく説明すると、1バレルの原油価格が1ドル上昇した場合、為替レートが1ドル=120円なら、ガソリン価格はおよそ0.75円上昇する計算になります。これは1バレル=159リットルという国際標準に基づいた単純計算です。つまり、原油価格と為替レートの両方が同時に悪化すれば、ガソリン価格への影響は倍増するということになるのです。
現在のガソリン価格高止まりの背景には、補助金政策の変化があります。政府が実施してきたガソリン補助金は、石油元売り会社に直接支払われ、卸売価格を引き下げることで、結果的にガソリンスタンド店頭の価格を抑える仕組みになっています。この補助金が縮小されると、ガソリンスタンドが仕入れる卸売価格が上昇し、消費者が支払う価格も値上げされるという連鎖が発生します。
補助金制度は2022年1月から導入されました。当初は1リットルあたり5円の固定的な補助でしたが、原油価格の変動に応じて段階的に調整されています。最近では、ガソリン価格が168円~185円の場合は越えた分の30~60%を補助、185円以上の場合は全額補助という複雑な仕組みに進化しました。
ただし、2024年12月19日に補助金制度が大幅に縮小され、その前日には各地のガソリンスタンドで駆け込み給油が相次ぎました。この時点での値上げは5円程度でしたが、補助金が完全に廃止されるまでのプロセスが長期化することが明らかになり、段階的な値下げという新たなアプローチが採用されることになったのです。
ガソリン価格に隠れた大きな存在が「暫定税率」です。この税率は1974年に導入された、ガソリン税に上乗せされる特別な税金で、驚くべきことに半世紀以上続いています。暫定という名前から想像される「一時的な税」ではなく、事実上の恒久的な税制度と化しているのです。
暫定税率の額は1リットルあたり25.1円に設定されています。一方、ガソリン税の本則税率は28.7円なので、合計すると1リットルのガソリンには53.8円もの税金が含まれているということになります。つまり、現在のガソリン価格に占める税金の割合は決して小さくないのです。
この暫定税率の廃止が決定されたのは、2024年12月のことです。自民党・日本維新の会・公明党の三党が合意し、段階的な補助金増額を経て、最終的には税率を廃止する方針が固まりました。税率廃止の実現には至るまでに4週間程度のバッファが必要とされています。その理由は、すでに暫定税率が含まれた価格で仕入れたガソリンがガソリンスタンドの在庫として残っており、この在庫が売り切れるまでの期間が必要だからです。
歴史的には2008年に「ガソリン国会」と呼ばれる激しい与野党対立が起きました。この時、暫定税率は1ヶ月間だけ失効し、ガソリン価格が大幅に下がりました。しかし直後に復活してしまい、今回のような段階的で確実な廃止方式を検討することになったのです。
11月13日から始まる段階的な値下げには、具体的なスケジュールが設定されています。最初の値下げで5円、次の値下げでさらに5円、そして最後の値下げで再び5円という3段階の構成です。
11月13日時点では、現在の補助金10円と新たに追加される5円が合わせて15円分安くなります。11月27日には、さらに5円追加されて、合計20円分の値下げになります。そして12月11日には、最終的に25円分安くなる最大値下げに到達します。このように2週間ごとの段階的な値下げを採用した理由は、急激な価格変動がガソリンスタンドの現場に混乱をもたらすからです。
政府は10月24日にガソリンスタンド業界団体から意見聴取を行い、「このスケジュールなら現場の混乱を抑えながら可能な限り早く価格を下げられる」という確認を得ています。つまり、業界の実務的な事情を考慮した、現実的で実行可能なスケジュールとなっているのです。
ガソリンスタンドによって値下げのタイミングが異なることにも注意が必要です。大手石油元売りの公式発表日と実際の店頭価格への反映には、数日から1週間程度のズレが生じることがあります。同じ運営会社傘下でも地域や店舗によって実装日が異なるケースもあり、最新の価格情報は各店舗の公式LINEやウェブサイトで確認することが重要です。
ガソリン価格の値上げは、単に車を使う個人の家計に限った問題ではありません。ガソリン価格は日本経済全体の物価に大きな影響を与える要因です。特に食品や日用品をトラックで運ぶ物流業界への影響は甚大で、運送コストの増加は最終的に商品の価格上昇として消費者に転嫁されます。
日本の物流の約9割はトラック輸送に依存しており、ガソリン価格の変動は直接的に運送業の経営を左右します。軽油価格も同様に11月13日から値下げが開始され、11月27日には約17円分安くなることが予定されています。ただし軽油引取税は地方税であるため、ガソリン税よりも廃止までのプロセスが複雑で、実際の暫定税率廃止は2026年4月を見込んでいます。
わかりやすく説明すると、ガソリンが25円安くなることで、満タンあたり1,000円前後の節約が実現すれば、月単位では数千円、年間では数万円の節約につながります。これは個人の貯蓄増加だけでなく、その貯蓄や節約資金が他の消費活動に向かうことで、日本経済全体への波及効果も期待できるのです。同時に、物流コストの削減は商品価格の抑制につながり、インフレーション対策としても機能する側面があります。
国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、世界的な脱炭素社会への転換が進む中で、2030年を目処に石油やガソリンといった化石燃料から電気・水素などのクリーンエネルギーへのシフトが行われると考えられています。これに伴い、長期的には原油需要が減少していくと予想され、2050年にかけて原油価格は下落する可能性も指摘されています。つまり、今後のガソリン価格は、短期的には補助金と暫定税率廃止の影響を受けますが、中長期的には世界的なエネルギー需給バランスの変化によって決まっていくということになります。
参考:11月13日からのガソリン値下げスケジュールと補助金制度の詳細
https://aisyousetu.com/entry/gasoline-price-down-november-2025
参考:ガソリン補助金制度の仕組みと今後の見通し
https://xn--torr8x29fql6b.jp/magazine/3003/