全国各地で鉄道の延伸計画が具体化しており、2030年代は鉄道新線開業の「黄金時代」を迎えます。東京都内では東京メトロ有楽町線の豊洲~住吉間(5.2km)と南北線の白金高輪~品川間(2.5km)が2024年11月に着工され、2030年代半ばの開業を目指しています。多摩都市モノレールは上北台駅からJR箱根ケ崎駅方面へ約7kmの延伸が計画されており、2030年代半ばの開業を目標としています。この延伸により、沿線だけでなく多摩地域全体の活力や魅力の向上が期待されています。
参考)モノレールの整備
大阪圏では、大阪モノレールが門真市駅から東大阪市中心部まで約8.9km延伸し、2033年の開業を目途に事業が進められています。この延伸により、大阪モノレールは大阪都心部から放射状に形成された鉄道と環状方向に新たに4路線と結節し、現在営業区間と合わせて10路線と接続します。都営大江戸線は練馬区の大泉学園町方面への延伸が計画されており、鉄道空白地域の解消と1日あたり6万人の利用者増加を見込んでいます。
参考)2033年開業予定!大阪モノレールの延伸計画と新駅周辺整備事…
北陸新幹線やリニア中央新幹線といった大型路線も開業時期を迎える予定です。沖縄では沖縄縦貫鉄道の計画が進められており、糸満市から名護市まで約80kmを結び、那覇市と名護市を約60分で結ぶことを目標としています。
参考)2040年代までに開業する鉄道新線全計画【2】黄金時代がやっ…
鉄道計画データベース - 全国の新線、新駅、再構築情報を集約
高速道路の延伸計画も全国で進行中です。新東名高速道路は約90%が開通し、残す未開通区間は新秦野IC~新御殿場IC間の延長25kmとなっており、全線開通は2027年度に予定されています。この区間は難工事のため工事の安全性確保から予定が延期されましたが、開通により東名高速道路と交通が分散され、渋滞発生回数の減少や渋滞緩和が期待されます。
参考)https://www.zurich.co.jp/carlife/cc-shintomei-schedule-open/
首都圏では、核都市広域幹線道路(埼玉新都心線~東北道付近)の計画が具体化しており、2025年8月にルート帯案が公表されました。この計画は首都高S2埼玉新都心線をさいたま見沼出入口から東へ延伸し、東北道へつなげるもので、事業費は2800~2900億円となる見込みです。埼玉県南部で東西軸の道路が不足し混雑が激化していることから、その解消につなげる狙いがあります。
参考)首都高の延伸計画「核都市広域幹線道路」ついにルート案公表! …
東海環状自動車道や中央自動車道、東名高速道路などでも渋滞対策や4車線化の工事が進められています。第2東京湾岸道路が整備されれば、千葉県湾岸地域の高速道路や国道の渋滞が緩和されるとともに、一般道路の通過交通が高規格道路に転換することで生活道路の交通円滑化や定時性確保、交通事故減少が期待されます。
参考)高速道路の建設情報(SP)
NEXCO中日本 - 高速道路の建設進捗状況・開通予定
延伸計画の実現には莫大な費用と長い事業期間が必要です。大阪モノレール延伸事業では、当初事業費が約786億円とされていましたが、物価高騰や用地補償費の増加、土質調査結果による基礎構造の変更などにより約1,442億円(約656億円増加)に変更されました。特にコンクリートや鋼材といった主な材料は近年の上昇傾向が際立っており、建設労務費・資材単価が大きく上昇しています。
参考)https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/83188/r6-1_6_monorail-setsumei.pdf
宇都宮駅LRTの西側延伸では、延伸区間の開業時期を2036年3月とし、概算工事費は税抜きで698億円を見込んでいます。北大阪急行線延伸整備事業では、全体事業費650億円(建設費600億円、車両費50億円)のうち、市負担額が当初548.97億円とされていましたが、その後518.97億円に30億円減額されました。
参考)https://www.city.minoh.lg.jp/kitakyu/new_kitakyu/houdousiryou/documents/170531houdou.pdf
多くの延伸事業では、用地取得の長期化や設計変更などにより開業目標の見直しが行われています。北大阪急行線延伸事業では、用地交渉が長期化したことや基礎杭施工箇所での障害などにより、開業目標が2020年度から2023年度に見直されました。事業費は国、都道府県、市、鉄道事業者が分担する形で負担されるケースが多く、財政状況も踏まえた上で総合的に検討されます。
参考)京都市:「今後の道路整備事業の進め方」について
大阪府 - 大阪モノレール延伸事業の事業費変更に関する資料
延伸計画の実現は、自動車利用者にとって大きなメリットをもたらします。圏央道の松尾横芝IC~大栄JCT間が整備されると、従来の一般道を利用した場合の所要時間は約40分から約14分へと大幅に短縮されます。新東名高速道路は、ルート全体を通して勾配がゆるやかで急カーブが少ない道路線形となっており、東名高速道路と交通が分散されることで渋滞発生回数の減少が見込まれます。
参考)https://www.crinet.co.jp/WordPress/wp-content/uploads/2021/12/20201020_4.pdf
鉄道延伸も自動車交通に影響を及ぼします。東京メトロ有楽町線の延伸により、東西線や京葉線の混雑が緩和され、並行ルートの整備により一部の乗客が有楽町線経由に分散すると期待されています。これにより、自動車から公共交通への転換が促進され、道路の渋滞緩和にもつながる可能性があります。多摩都市モノレールの延伸により、JR箱根ケ崎駅から多摩センター駅までが繋がり、多摩地域の公共交通ネットワークが強化されることで、多摩地域のアクセス利便性の向上が図られます。
参考)東京メトロの有楽町線&南北線が大変身!延伸計画の展望と街の未…
有料道路の無料化や料金徴収期間の延伸も検討されており、無料化した場合は有料区間を避けて周辺道路へ迂回していた通勤車両や貨物車が幹線道路へ転換することで、周辺道路の交通量が減少して渋滞が緩和されます。さらに交通事故等のリスクが軽減され、地域の安全性が向上することも期待されています。
参考)https://www.pref.tochigi.lg.jp/h03/dourokeikaku/documents/20250310085515.pdf
延伸計画の実現には多くの課題があります。物価高騰による建設費の増加は各地の延伸事業に影響を及ぼしており、事業費の見直しが相次いでいます。用地取得の長期化も大きな課題で、土地収用法の手続きに至るなど用地交渉が長期化し、工事着手が遅延するケースが見られます。工事期間中の沿線道路・交通への影響や、完成後の沿線変化による地価高騰・家賃上昇が地域住民を圧迫する可能性も懸念されています。
参考)北大阪急行線延伸事業の開業目標を見直しました/箕面市
技術的な課題も存在します。沖縄新幹線のような構想では、青函トンネルよりも長いトンネルを掘削する必要があり、建設費用・建設コスト・維持コストは莫大です。鹿児島~沖縄の海域は広い上に海底が深い場所も多く、海中トンネルの技術はまだ実現した事例がなく、非常時の脱出口など課題は山積しています。地下鉄延伸では、地盤が不安定な場所での工法選定が難しく、施工中の地盤沈下や騒音・振動の発生、既存の上下水道管や電線などとの干渉も工事の大きな障壁となります。
参考)「地下鉄延伸ってどうやって進めるの?大江戸線延伸の開発、施工…
一方で、延伸計画の実現により地域の活性化や住宅開発の促進、新駅予定地周辺やルート沿線での再開発・地価上昇など、経済的な波及効果も期待されます。事業の進捗状況を踏まえながら、財政状況や地域の実状に応じた対応策を検討し、安全確保と周辺環境への十分な配慮を行いながら事業を進めていくことが重要です。
国土交通省 - スーパー・メガリージョン形成に向けた資料