全日本トラック協会会長歴代と業界を支える組織

全日本トラック協会の歴代会長について、中西英一郎氏から寺岡洋一氏まで、各会長の業績や在任期間を詳しく解説します。トラック運送業界を支える組織の歴史と、会長たちが直面した課題とは?

全日本トラック協会会長歴代

歴代会長の主な実績
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中西英一郎会長(2005-2011年)

軽油高騰対策や東日本大震災での緊急輸送を指揮

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星野良三会長(2011-2017年)

「ええ業界」を目指し、業界の明るい未来を提唱

坂本克己会長(2017-2025年)

働き方改革と適正運賃収受に尽力、坂本新法を実現

全日本トラック協会は1969年8月に設立された業界団体で、日本のトラック運送事業の健全な発展を目的としています。2012年4月1日には公益社団法人に移行し、全国47都道府県単位でトラック協会が組織されています。自動車に乗る人々にとって、物流を支えるトラック業界の組織体制を知ることは、日本の物流インフラを理解する上で重要です。
参考)全日本トラック協会 - Wikipedia

全日本トラック協会の中西英一郎会長時代

中西英一郎氏は2005年から2011年まで6年間、全日本トラック協会会長を務めました。就任時は高橋喬郎元会長の急逝直後という困難な時期で、中西氏は「『戦死』はしたくないので、無理はしない」と会見で語ったことが印象的でした。
参考)中西元全ト協会長逝く

中西会長の最大の功績は軽油高騰対策です。2008年8月には消費税抜き全国平均ローリー価格が143円台を突破してピークに達し、業界は深刻な経営危機に直面しました。全ト協は「軽油価格高騰・経営危機突破緊急キャンペーン」を設定し、業界初となる「燃料価格高騰による経営危機突破全国一斉行動」を実施しました。この一斉行動には延べ約2万人の事業者が参加し、全国各地で総決起大会や街頭行進、トラックパレード、要望活動が展開されました。​
中西元全ト協会長の業績詳細
中西会長の軽油高騰対策や東日本大震災での対応について詳しく解説されています。

 

2009年には政権交代が起き、中西会長はトラック議連の発足などに奔走しました。2010年の事業仕分けでは全ト協の交付金事業が取り上げられ、その後の法制化につながりました。2011年の東日本大震災では発災直後から陣頭指揮に当たり、トラックによる緊急輸送は延べ1万台を超える過去最大規模となりました。温和な性格で常にニコニコしていた中西氏は、2017年に89歳で逝去されました。​

全日本トラック協会の星野良三会長時代

星野良三氏は2011年6月から2017年6月まで3期6年間、全日本トラック協会会長を務めました。多摩運送(後の多摩ホールディングス)の代表取締役で、中西英一郎会長の後任として選任され、中西氏は名誉会長に就任しました。
参考)全ト協 星野氏が新会長に、中西氏は名誉会長就任|物流ニュース…

星野会長は「業界に入って60年間、この仕事を嫌と思ったことは一度も無かった」と語り、経営者が「これほど良い業界は無い」と信じれば、従業員もそう思うようになり、会社や業界全体が良くなって若い人が大勢入ってくる環境が生まれると信じていました。常に前向きで「業界はいま最も良い時代」との言葉で業界を励まし続けました。
参考)全ト協、坂本新体制が発足 「ええ業界」むけ一丸 - 物流ニッ…

星野会長時代には東日本大震災への対応が継続され、各トラック協会が地方自治体などからの要請を受けて稼働した緊急輸送車両は全国で6308台に達しました。義援金及び災害見舞金では全国38のト協から3億953万円が集まり、被災地支援に大きく貢献しました。また、公益社団法人への移行を推進し、2012年4月1日に全ト協は公益社団法人に移行しました。​
星野会長は2017年6月の退任後、名誉会長に就任しましたが、2024年に逝去されました。
参考)訃報 星野良三氏(ほしの・よしみ=多摩ホールディングス代表取…

全日本トラック協会の坂本克己会長時代

坂本克己氏は2017年6月から2025年6月まで8年間、全日本トラック協会会長を務めました。大阪運輸倉庫の代表で、星野良三会長の後任として選任されました。1938年10月27日生まれで、就任時は78歳でした。
参考)全ト協坂本会長が来年6月退任、後任は寺岡氏(愛知)

坂本会長は就任時に「現場で汗をかいているドライバーが『ええ業界や』と思える幸せな業界になるよう、運賃も料金もしっかり収受できる業界に進化させる」と抱負を述べました。適正運賃・料金収受に向けた取り組みに傾注することを宣言し、労働時間の改善とともに世間並み以上の給与をドライバーに持ち帰ってもらうことを重視しました。​
坂本会長の最大の功績は「坂本新法」と呼ばれる議員立法の実現です。2025年6月4日に国土交通省の尽力と国会議員の協力により、歴史的かつ奇跡的なスピードで法制化されました。この法律には業界が長年にわたって切望してきた内容が網羅されており、トラック運送業界の働き方改革と生産性向上に大きく貢献することが期待されています。
参考)全ト協/新会長に愛知県ト協の寺岡洋一氏を選出、坂本会長は最高…

坂本会長は2024年7月の正副会長会議で、トラック運送業界が正念場を迎える中、気力・体力とも十分にあるとして5期目を務める意欲を示していました。しかし9月11日の会議で体調が思わしくなく、医師から会長職は無理をしないよう言明されたため、2025年6月の通常総会での退任を決断しました。
参考)坂本全ト協会長が退任表明

坂本克己会長の年頭所感
坂本会長の業界に対する思いや政策方針について詳しく知ることができます。

 

全日本トラック協会の寺岡洋一新会長就任

寺岡洋一氏は2025年6月26日、全日本トラック協会の新会長に選出されました。1956年生まれの68歳で、愛知県トラック協会会長および由良陸運会長を務めています。坂本会長との年齢差は18歳あり、世代交代の象徴的な人事となりました。​
寺岡新会長は2024年9月18日の正副会長会議で次期会長候補に指名され、満場一致で賛同を得ました。当初は「自分よりも経験豊富で能力の高い副会長は何人もおり」と抵抗しましたが、坂本会長から「満場一致で決まったから頼む」と言われ、最終的に受諾しました。​
寺岡新会長は就任にあたり、「会員ファースト、業界ファースト」を常に忘れず向き合っていくことを第一の抱負として掲げました。第二の抱負として、坂本新法の内容を一日も早く実現していくことを宣言しました。新たに坂本新法に特化した委員会を立ち上げ、国土交通省と緊密に連携しながら実行段階に移していく方針です。
参考)https://kantounyukouho.localinfo.jp/posts/57066194

坂本氏は寺岡新会長について「一旦この人と付き合ったら離れられない男。指導力、束ねる力がある。業界は絶対にバラバラになってはいけない。鉄の団結をやっていかなければならない」と高く評価しました。また「業界をまとめる名人、達人だ」とも語り、大きな期待を寄せています。​
総会では定款を変更し、新たな役職として最高顧問を新設しました。坂本氏は最高顧問に就任し、特に政治関係について引き続き指導する役割を担います。​

全日本トラック協会会長に求められる役割と課題

全日本トラック協会の会長は、日本のトラック運送業界全体を代表する重要な役職です。設立当初の1969年は、日本トラック協会、全国陸運貨物協会、全国貨物運送事業組合連合会の3組織を一本化する大規模な統合が行われた年で、組織をまとめるリーダーシップが求められました。​
歴代会長が直面してきた課題は時代によって異なります。中西会長時代は軽油価格の高騰と東日本大震災への対応が最大の課題でした。星野会長時代は公益社団法人への移行と業界イメージの向上が重要テーマでした。坂本会長時代は働き方改革と2024年問題への対応、そして適正運賃の収受が喫緊の課題となりました。​
現在のトラック運送業界は、ドライバー不足、長時間労働の改善、運賃の適正化など多くの構造的課題を抱えています。寺岡新会長は坂本新法の実現を通じて、これらの課題解決に取り組む方針を示しています。全ト協は全国47都道府県のトラック協会を束ねる組織として、業界全体の利益を代表し、政府や関係機関との交渉を行う重要な役割を担っています。​

会長名 在任期間 主な業績
中西英一郎 2005年~2011年(6年間) 軽油高騰対策、東日本大震災での緊急輸送指揮、交付金制度の法制化​
星野良三 2011年~2017年(6年間) 公益社団法人への移行、業界イメージ向上、「ええ業界」の推進​
坂本克己 2017年~2025年(8年間) 働き方改革推進、適正運賃収受、坂本新法の実現​
寺岡洋一 2025年~現在 会員ファースト、坂本新法の実行、業界の団結強化​

全日本トラック協会は1990年12月に貨物運送事業者適正化事業の実施機関として運輸大臣の認可を受け、運行管理者試験事務の指定実施機関としても指定されました。2014年7月には本部事務所を新宿エルタワーから全日本トラック総合会館へ移転し、2018年4月1日には公益財団法人貨物自動車運送事業振興センターを合併するなど、組織の強化を進めてきました。​
自動車を運転する人々にとって、トラック運送業界の健全な発展は道路の安全性向上や物流の効率化に直結します。歴代会長たちが取り組んできたドライバーの労働環境改善や適正運賃の収受は、安全運転の推進にもつながる重要な施策です。全日本トラック協会は今後も、日本の物流を支える基幹産業として、社会インフラの維持・発展に貢献していくことが期待されています。​