東名高速の横浜町田IC~海老名JCT間は、日本有数の混雑区間です。この区間の1日平均交通量は14万台にも達し、高速道路としては日本一の交通量を誇ります。2021年に完成した大和トンネル拡幅工事では、付加車線を設置して4車線化が実現され、交通容量の増加が期待されました。
しかし、実際の効果は限定的でした。下り線に関しては効果がほぼゼロで、上り線でも渋滞の先頭位置が大和トンネルから綾瀬スマートインター付近に移動したに過ぎず、渋滞量そのものはほとんど減少していません。むしろ、コロナ禍明けの交通量増加と圏央道沿道の巨大物流拠点集中により、平日の渋滞は拡幅前よりも悪化しているという指摘もあります。
大和トンネル付近の渋滞には、単なる交通量の増加以外の複雑な要因が絡んでいます。トンネル付近に存在する「サグ」と呼ばれる、下り坂から上り坂へと緩やかに変わる箇所が、渋滞発生の大きな原因です。
ドライバーが漫然と運転していると、この勾配の変化に気付かず、知らず知らずのうちに速度が低下してしまいます。このメカニズムは、東名高速における心理的渋滞要因とも呼ばれており、単に車線を増やしただけでは解決しません。拡幅工事実施後も、この物理的な勾配の問題は依然として存在したため、予想された効果は得られませんでした。
拡幅工事の失敗要因として、付加車線の設置方式も指摘されています。完成した付加車線は、通常の走行車線の左側に設置されました。ドライバーの多くは、付加車線が「一時的な補助車線」であることを認識しており、積極的に活用しない傾向が見られます。
さらに問題なのは、上り線で3車線区間が残されたことです。綾瀬スマートインター付近で4車線から3車線に減少し、その1.3km先で再び4車線に戻るという不可解な設計になっており、この中途半端な構成が交通流を阻害しています。本来、付加車線を第一走行車線として位置付けるなど、根本的な設計変更が必要だったと考えられます。
初期段階の拡幅工事の失敗を踏まえて、NEXCO中日本は2024年11月から新たな対策工事を開始しました。今回は大和高架橋、小田急高架橋、大東橋といった橋梁部分の拡幅工事が計画されており、2029年3月下旬までの約4年半にわたって実施される予定です。
この工事期間中は、片側3車線通行を基本的に確保しながら施工が進められますが、1車線あたりの幅が臨時で切り詰められるため、NEXCO中日本は年間約60日程度の渋滞発生日数増加を予測しています。前回の拡幅工事から得られた教訓を活かし、より実効性のある対策が求められています。
拡幅工事が十分な効果を発揮できなかった根本原因として、高速道路と一般道のネットワーク不足が挙げられます。大和トンネル周辺の一般道は、246号線や厚木街道、中原街道など限られたルートしか存在せず、交通量を十分に賄える代替ルートが確保されていません。
圏央道沿道への巨大物流拠点の集中と、首都高・横浜環状北西線の開通による流入増加も、状況を複雑にしています。東名への交通集中を根本的に解決するには、新東名の横浜地区への延伸や、東名全線の広範囲な4車線化など、より抜本的で広域的な対策が不可欠なのです。高速道路だけの工事では限界があり、都市計画レベルでの総合的な交通ネットワーク再構築が必要とされています。
渋滞対策について:NEXCO中日本の2024年7月25日発表「渋滞緩和を目指してE1 東名 横浜町田IC~海老名JCT間で橋の拡幅工事」に、最新の対策工事内容が詳細に記載されています。
大和トンネル周辺交通研究:乗りものニュース「"渋滞の名所"が変わった?『大和トンネル』聞かなくなったワケ」では、2025年時点での渋滞状況の変化と複合的な要因分析が紹介されています。
東名渋滞ボトルネック検討:西松建設「大和トンネルにおける拡幅工事の設計及び施工」には、トンネル拡幅の技術的課題と地盤改良などの専門的情報が記載されています。