トヨタ ヴィオスは2002年に初代が登場して以来、4世代にわたって進化を続けてきた東南アジア専用のコンパクトセダンです。初代ヴィオスはトヨタ「プラッツ」を流用して開発され、内装のダッシュボード上部にはヴィッツやプラッツと同様のメーター類を収めるパネルが特徴的でした。
2代目ヴィオス(2007年-2013年)は、日本では「ベルタ」として2005年から2012年まで販売された実績があります。ヴィッツと共通のシャシーを持ち、5ドアハッチバックのヴィッツに対して4ドアセダンモデルとして登場しました。
2013年に登場した3代目ヴィオスは、近年のトヨタのフロントデザインに共通する「キーンルック」を採用し、切れ長のヘッドライトと精悍な顔つきが特徴的でした。2018年にはフェイスリフトが実施され、より洗練されたデザインに進化しています。
最新の4代目ヴィオスは2022年10月にインドネシアで発表され、9年ぶりのフルモデルチェンジとなりました。新プラットフォームを採用し、ボディサイズは全長4410mm×全幅1740mm×全高1480mmで、先代比でホイールベースが70mm延長された2620mmとなっています。
ヴィオスの販売実績は東南アジア市場での圧倒的な成功を物語っています。特にタイ市場では、2003年から10年連続でコンパクトカー市場No.1の販売を記録し、2010年から2019年の期間で49万4319台という驚異的な販売実績を達成しました。これは同じくタイで人気のヤリス(旧ヴィッツ)の36万3102台を10万台以上も上回る数字です。
1997年にヴィオス(当時はソルーナ)としてタイで生産・販売を開始して以来、1999年からはASEAN諸国への輸出も開始し、7カ国に累計約18.7万台を輸出してきました。現在では世界80を超える国々に輸出されており、トヨタの新興国戦略における重要な車種となっています。
インドネシア市場においても、2003年の初代登場以降、累計13万台以上が販売されており、東南アジア全体でのヴィオスの人気の高さを示しています。
現行の4代目ヴィオスは、最高出力106馬力・最大トルク138Nmを発揮する1.5リッター直列4気筒エンジンを搭載しています。トランスミッションはCVTまたは5速MTの組み合わせで、燃費性能は100キロメートルあたり5.5リッターという優秀な数値を実現しています。
外観デザインでは、L字に光るLEDヘッドライトや薄いフロントグリルと台形の大型ロアグリル、タフな印象の力強いショルダーラインが特徴です。6ライトウインドウ(ボディの左右側面に合計6枚の窓があるデザイン)の採用により、伸びやかなシルエットを実現しています。
内装には9インチのタッチスクリーンを装備し、Apple CarPlayとAndroid Autoによるスマートフォン連携にも対応。全グレードに予防安全システム「トヨタセーフティセンス」を採用しており、安全性も確保されています。
価格設定は市場によって異なりますが、インドネシアでは3億1490万ルピアから3億6990万ルピア(約300万円から約353万円)、タイでは55万9000~73万4000バーツ(約182~239万円)となっています。
実際のユーザーからの評価では、ヴィオスの実用性の高さが高く評価されています。タイで3年間ヴィオスを使用したユーザーによると、「4人で高速道路を移動しても問題なく走れる」パワー性能と、「3年間トラブルがなかった」という信頼性が特に印象的です。
トランクスペースも意外と広く、ゴルフバッグ2セットが入る実用性を備えています。燃費についても、実際の使用では15~18km/Lという良好な数値を記録しており、エコな運転を心がければさらに向上する可能性があります。
一方で、コンパクトセダンの車高の低さによる見渡しの制限や、サイドミラーのサイズ、タイの荒い道での下擦りなどの課題も指摘されています。しかし、これらの小さな欠点を上回る「超安心のトヨタ車」という信頼性と、タイで売れて数がこなされていることによるパーツやケアの面での安心感が、多くのユーザーに選ばれる理由となっています。
現在、日本市場ではコンパクトセダンがほぼ姿を消している状況ですが、ヴィオスの成功は興味深い示唆を与えています。日本では「セダン=おじさんのクルマ」というイメージが定着していますが、タイでは「セダン=若者のクルマ」という正反対の認識があります。
都市部に住む若者が「もっとスポーティで、スタイリッシュなクルマに乗りたい」と考える一方で、ミドルセダンには手が届かず、ハッチバックのコンパクトカーは見栄えが悪いという理由で、コンパクトセダンが選ばれているのです。
日本市場においても、近年のSUV人気の陰で、実用的でスタイリッシュなコンパクトセダンへの潜在的需要は存在する可能性があります。ヴィオスのような「ミニカムリ」とも呼べるデザインアプローチは、日本の若年層にも受け入れられる可能性を秘めています。
トヨタが新興国向けに開発したヴィオスの技術やデザインノウハウは、将来的に日本市場向けのコンパクトセダン復活の際にも活用される可能性があり、自動車業界の動向を注視する価値があります。
参考:トヨタ公式サイトでのヴィオス発表資料
https://global.toyota/jp/detail/1868641
参考:東南アジア自動車市場の詳細分析
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2702Z_X20C13A3000000/