車高が低いスポーツカーや一般的なセダンでは、運転席にアシストグリップが装備されていないことが多くあります。これは単なるコスト削減ではなく、重要な安全性の配慮が背景にあります。
車高が低い車種では、ルーフと運転者の頭部との距離が近くなるため、万が一の事故の際にアシストグリップに頭をぶつけてしまう可能性が高くなります。特に側面衝突や横転事故の際、アシストグリップが突起物として作用し、頭部に深刻な外傷を与える危険性があるのです。
トヨタのGR86やスバルのBR-Z、トヨタのスープラなどの代表的なスポーツカーには、運転席にアシストグリップが装備されていません。これらの車種は車高が低く設計されており、運転時の姿勢も一般的な乗用車とは異なるため、アシストグリップの必要性よりも安全性を優先した設計となっています。
また、事故時の頭部保護を目的として、意図的にアシストグリップを設定していない車種も存在します。自動車メーカーは衝突安全性能の向上に力を入れており、車内の突起物を最小限に抑えることで、乗員の安全を確保しようとしているのです。
自動車製造においてコスト削減は重要な要素であり、運転席のアシストグリップもその対象となることがあります。運転者はハンドルを握っているため、アシストグリップを使用する機会が他の座席と比較して少ないと判断されるケースが多いのです。
フルモデルチェンジ時には装備されていたアシストグリップが、マイナーチェンジやコスト見直しの際に省略されることもあります。特に競争の激しい価格帯の車種では、数百円から数千円の部品コストでも削減対象となることがあります。
日産のモコなどの軽自動車では、運転席にアシストグリップが装備されていないことが仕様として設定されています。これは運転席でのアシストグリップの必要性が低いと判断され、コスト削減の一環として省略されているのです。
しかし、すべての車種でコスト削減が理由ではありません。トヨタのプリウスやレクサスのRXなど、高級車や上位グレードの車種では運転席にもアシストグリップが装備されています。これは車種のグレードや価格帯によって装備内容が決定されることを示しています。
国産車メーカーの車種別装備状況を見ると、明確な傾向があることがわかります。トヨタでは「アクア」や「ルーミー」に運転席のアシストグリップが装備されておらず、ホンダの「ZR-V」も同様に運転席のみ装備されていません。
スズキのスイフトスポーツZC33Sも運転席にアシストグリップが装備されていない代表的な車種です。スポーツモデルという特性上、走行性能を重視した設計となっており、運転者はハンドルを握っているため不要と判断されています。
悪路走行を想定したオフロード車両でも、運転席にアシストグリップが装備されていないことが多くあります。スズキのジムニーでは、先代モデルには運転席にアシストグリップ用のネジ穴が存在していましたが、現行モデルではネジ穴自体が廃止されています。
これは悪路走行時の激しい振動や衝撃により、アシストグリップに頭をぶつける可能性があるためです。オフロード走行では予期しない大きな揺れが発生するため、車内の突起物は危険要素として排除される傾向にあります。
一方で、車高の高いハイエースなどの商用車では、乗降時の安全性を考慮して運転席にもアシストグリップが装備されています。これは車両の用途や使用環境によって装備の必要性が判断されることを示しています。
アシストグリップの本来の目的は、乗降時の補助ではなく、走行中の体を支えることです。多くの人が乗り降りの際に使用していますが、これは本来の使用方法ではありません。
正しい使用方法は、走行中のカーブや急ブレーキ時に体を支えるためのものです。運転者はハンドルを握っているため、走行中にアシストグリップを使用することはありません。これが運転席にアシストグリップが装備されない理由の一つでもあります。
乗降時にアシストグリップに全体重をかけて使用する人がいますが、これは破損の原因となる可能性があります。アシストグリップは走行中の体を支える程度の荷重を想定して設計されており、乗降時の全体重を支えることは想定されていません。
日産のキャラバンなどの商用車では、アシストグリップとは別に「乗降グリップ」が設定されています。これは乗降時専用の装備であり、アシストグリップとは異なる強度設計となっています。このような区別があることからも、アシストグリップの本来の目的が走行中の体支えであることがわかります。
運転席にアシストグリップが装備されていない車両でも、後付けで装着することが可能な場合があります。スズキのスイフトスポーツでは、純正部品を使用して運転席にアシストグリップを装着することができます。
後付け装着の際は、まず車両の天井部分にアシストグリップ用の取り付け穴があるかを確認する必要があります。多くの車種では、コスト削減のためにアシストグリップは省略されていても、取り付け用の穴は残されていることがあります。
装着に必要な部品は、アシストグリップ本体とプッシュピンなどの固定部品です。純正部品を使用することで、車両の内装デザインと調和した仕上がりとなります。ただし、取り付け穴がない車種では、天井に穴を開ける必要があるため、専門業者への依頼が推奨されます。
釣り愛好家の間では、アシストグリップがない車両でもロッドホルダーを装着するためのアイテムが販売されています。これらの製品は、アシストグリップの代替として機能し、釣り竿の安全な運搬を可能にします。
後付け装着を検討する際は、車両の安全性への影響を十分に考慮する必要があります。特に事故時の頭部保護の観点から、メーカーが意図的にアシストグリップを省略している車種では、装着を控えることが賢明です。
車種によっては、アフターマーケット製品として様々なデザインのアシストグリップが販売されています。ウッドパネル付きの高級感のあるものから、機能性を重視したシンプルなものまで、用途や好みに応じて選択することができます。
装着作業は比較的簡単ですが、車両の保証に影響する可能性があるため、事前にディーラーに相談することをお勧めします。また、車検時の影響についても確認しておくことが重要です。