宇部興産のダブルストレーラーは、日本の道路を走る車両としては異例の巨大さを誇ります。ホイールベース15m超、総重量125トンという数値は、一般的な大型トラックの数倍に相当する規模です。
この巨大車両の正式名称は「ダブルス・トレーラー」と呼ばれ、88トン車として運用されています。車両の大きさは以下の通りです。
この規模の車両が公道を走行することは法的に不可能なため、専用の私道が建設されました。車両の巨大さは、セメント原料の大量輸送という特殊な用途に最適化された結果です。
トレーラーの運転席からは、一般的なトラックでは体験できない視界の高さと迫力を感じることができます。運転手にとっては、この巨大車両を操縦することが大きなやりがいとなっています。
宇部興産専用道路(現在は宇部伊佐専用道路)は、日本最長の私道として知られています。この道路は山口県美祢市の伊佐セメント工場と宇部市の宇部セメント工場を結ぶ、総延長32キロメートルの専用輸送路です。
この距離は東名高速道路の東京料金所から厚木インターチェンジまでの距離よりも長く、私道としては国内最長記録を保持しています。道路の特徴は以下の通りです。
道路の基本情報
道路建設の背景には、セメント製造における原料輸送の効率化があります。石灰石などの重量物を大量に運搬するため、一般道路では対応できない大型車両での輸送が必要でした。
この専用道路により、一般道路への負荷を軽減しながら、効率的な原料輸送システムを構築することができました。道路の維持管理も自社で行っており、24時間体制での運用が可能となっています。
宇部興産のダブルストレーラー運転手は、非常に特殊な技能を要求される職業です。新川物流株式会社が運行を担当しており、UBE三菱セメント株式会社のセメント原料輸送を主要業務としています。
運転手の勤務条件
この仕事の最大の特徴は、一般道路では絶対に運転できない巨大車両を操縦することです。運転手には大型免許とけん引免許が必要で、さらに専用の訓練期間が設けられています。
必要な資格と技能
異業種からの転職者も多く、ダブルストレーラー未経験者でも十分な練習期間が用意されています。スカニアやボルボなどの新型車両も続々導入されており、最新の運転環境で働くことができます。
運転者職場環境良好度認証も取得しており、働きやすい職場環境が整備されています。
2022年4月1日、旧宇部興産(現:UBE)と三菱マテリアルのセメント事業が統合され、「UBE三菱セメント」という新会社が発足しました。この企業統合により、ダブルストレーラーのデザインも大幅に変更されることになりました。
新デザインの特徴
現在、全31編成のトレーラーのうち、年間約2編成のペースで新デザインに更新されています。車両の耐久年数が8年とされているため、全車両の更新完了には約10年程度かかる見込みです。
新デザインのトレーラーは、従来の青系統から白ベースに変更され、より洗練された外観となっています。この変更により、企業統合後の新しいブランドイメージを視覚的に表現しています。
2023年12月には、新デザインの第1号車が完成し、特別な取材も行われました。白いボディに新しいロゴマークが映える美しい仕上がりとなっており、従来のトレーラーとは全く異なる印象を与えています。
宇部興産のダブルストレーラーは、その特殊性と話題性から、タカラトミーのトミカシリーズとして商品化されました。これは非常に珍しいケースで、実在する産業車両がトミカになった例として注目を集めています。
トミカ化の意義
トミカ版では、実車の特徴的なカラーリングが忠実に再現されており、細部まで精密に作り込まれています。この商品化により、自動車マニアだけでなく、一般の人々にも宇部興産のダブルストレーラーの存在が広く知られるようになりました。
実際の車両を見ることができるのは限られた関係者のみですが、トミカを通じて多くの人がこの特殊な車両の存在を知ることができます。特に子供たちにとっては、日本の産業技術の素晴らしさを学ぶ良い機会となっています。
トミカの売上も好調で、マニアックな車両でありながら多くの支持を得ています。これは、日本の産業技術への関心の高さを示す象徴的な出来事といえるでしょう。
宇部興産のダブルストレーラーは、単なる輸送車両を超えて、日本の産業技術の象徴として多くの人々に愛され続けています。その巨大さと特殊性は、今後も多くの自動車マニアや産業技術愛好家の注目を集め続けることでしょう。