高速道路を走行中に見かけるトラックのタイヤが浮いている現象は、決して故障ではありません。この驚くべき光景の正体は「リフトアクスル」と呼ばれる特殊な装置によるものです。リフトアクスルは、トラックの車軸の一部を持ち上げ、特定のタイヤを地面から浮かせることができる高度な技術システムです。
この装置は、主に荷物の積載量が少ない時や空荷の状態で使用され、車両全体の負荷を効率的に軽減する仕組みとなっています。空気圧システムを使用して作動し、車軸に取り付けられたシリンダーが運転席からの操作に応じて伸縮することで、車軸を上下させます。
最新のモデルでは、積載量や走行状況に応じて自動的に作動する自動制御システムも導入されており、ドライバーの負担を大幅に軽減しています。このシステムにより、4軸のトラックであればタイヤを浮かせて3軸走行にし、走行を効率化させることが可能です。
リフトアクスル機能の動作原理は、圧縮空気の力を利用したエアサスペンション技術に基づいています。空気バネでアクスルを引き上げるタイプや、チャンバーを使ってトレーリングアームを持ち上げるタイプなど、複数の構造が存在しますが、いずれも空気圧によって作動することが基本となっています。
このシステムは、軸荷重(積み荷の重さ)によって自動的に上がったり下がったりする仕組みです。空荷に近いときはタイヤを浮かせて運送コストを抑え、しっかりと荷物を積んでいるときはすべてのタイヤを接地させて、確実に支えるという非常に合理的な構造となっています。
エアサスペンションとの親和性も高く、もともと圧縮空気の配管やシステムを組んでいる大型トレーラーでは、リフトアクスルシステムの導入コストを大幅に抑えることができます。これにより、多くの運送事業者がこの技術を採用する要因となっています。
日本の高速道路では、車軸数の合計数によって通行料が大きく変わるため、リフトアクスル機能は経済的に非常に重要な役割を果たしています。NEXCO各社では、同じトラックでも接地している車軸数によって「大型車」「特大車」が区分けされています。
例えば、トラクターヘッドが2軸、トレーラーも2軸の4軸8輪の大型車両があった場合、トレーラー側の1軸を浮かせると3軸6輪の状態になります。これにより、高速道路における通行料区分が「特大車」から「大型車」にダウングレードされ、通行料を大幅に削減することができます。
この料金差は運送業界にとって非常に大きな経済効果をもたらしており、特に長距離輸送を行う事業者にとっては、年間の運送コストを大幅に削減する重要な要素となっています。車軸1本のものは大型車、それ以上が特大車に分かれるという明確な基準があるため、リフトアクスル機能の活用は必須の技術となっています。
リフトアクスル機能は、高速道路の通行料削減だけでなく、燃費向上にも大きく貢献しています。積載量が少ないときにタイヤを浮かせることで、大型トレーラーのタイヤが持つ走行抵抗を大幅に削減できます。この効果は約5%程度の燃費改善が期待でき、運送業界にとって非常に大きなメリットとなっています。
タイヤの寿命延長効果も見逃せません。荷重に合わせて車軸を上下させることで、必要のないタイヤを摩耗から守ることができます。トレーラーのタイヤは、前後方向への摩耗だけでなく、トラクターにけん引されることで発生するカーブの際のねじれによる摩耗もあります。リフトアクスルにより接地点が少なくなることで、ねじれによる横方向の摩耗も軽減されます。
さらに、車高調整機構としての機能も持っているため、荷役環境の改善にも活用できます。荷台の高さを調整することで荷物を積みやすくできるという付加的なメリットもあり、作業効率の向上にも貢献しています。
リフトアクスル機能を使用する際の運転特性についても理解しておくことが重要です。3軸のトレーラーの場合、どの軸をリフトするかにより運転特性が大きく変わってきます。接地軸を後端にすると、ホイールベースが長くなり回転半径も大きくなりますが、一方で前端を接地すると、回転半径が小さくなる反面、リアのオーバーハングが増すことで、運転操作により注意が必要となります。
一般的なリフトアクスルでは、トレーラーの後前軸(プラス後中軸)の車軸がリフトアップされ、2軸車の場合後前軸を、3軸車の場合後前軸と後中軸の2軸を浮かせる設計となっています。この設計により、最適な走行安定性と経済性のバランスを実現しています。
ただし、自由にリフトアクスルを操作することは違法行為になるため注意が必要です。リフトアクスルシステムは、軸重によって自動的に作動する仕組みとなっており、適切な荷重管理と合わせて使用することが法的に求められています。このような安全性への配慮により、運送業界全体の信頼性向上にも貢献しています。
運送事業者にとって、リフトアクスル機能は単なるコスト削減手段ではなく、環境負荷軽減と効率的な物流システム構築のための重要な技術として位置づけられています。特に往路は空荷、復路は荷物満載といった使われ方をする木材や鉱物運搬などの用途では、リフトアクスルを採用するメリットが非常に大きく、持続可能な物流システムの実現に不可欠な技術となっています。