高速道路のトンネル入口に設置されている信号機は、正式には「坑口信号機」と呼ばれています。この信号機は一般的な交差点の信号とは異なり、トンネル内の安全状況を外部の車両に知らせる重要な役割を担っています。
坑口信号機は、トンネル内部で発生する可能性のある事故や火災、渋滞などの異常事態を事前に知らせることで、二次災害の防止を目的として設置されています。トンネルの内部は外からでは状況が分からないため、危険に気付かずに進入してしまう車両を防ぐための重要な安全装置となっています。
この信号機は高速道路だけでなく、一般道路の長大トンネルにも設置されており、道路交通法第7条および道路交通法施行令第2条に基づいて運用されています。
トンネル信号が設置される基準は明確に定められており、主に以下の条件を満たすトンネルに設置されています。
代表的な設置例として、九州自動車道の肥後トンネルや加久藤トンネル、関越自動車道の関越トンネル、東名高速道路の日本坂トンネルなどがあります。また、首都高速道路では1300m程度の比較的短いトンネルでも設置されている場合があり、これは高速道路会社と警察、国土交通省の協議によって決定されています。
設置場所は主にトンネルの入口側や中間点となっており、トンネル内部の状況が分かりづらい長大トンネルを中心に配置されています。設置の決定は高速道路会社と警察、国土交通省が協議して行い、実際の管理や操作は各都道府県警察が担当しています。
トンネル信号は「青・黄・赤」の3色表示または「黄・赤」の2色表示があり、それぞれ明確な意味が定められています。
青信号の意味
青信号は通常の交差点信号と同様に「進行可能」を示しています。トンネル内に問題がない場合は青色が点灯しており、周囲の状況を確認した上でトンネルを通過できます。「黄・赤」タイプの信号機では、黄・赤が点滅または点灯していない状態が青信号と同じ意味になります。
黄信号の意味と対応
黄信号は点滅と点灯で意味が異なります。黄信号が点滅している場合、トンネル内で渋滞や車線規制、落下物などの交通障害が発生している可能性が高いため、速度を落としてトンネルに進入する必要があります。一方、黄信号が点灯している場合は、その後赤信号に変わるため、後続車に注意しながら速やかに停止する必要があります。
赤信号の意味と対応
赤信号は「停止」を意味し、トンネル内で事故や火災などの重大な危険が発生していることを示しています。この場合、トンネルへの進入は絶対に禁止されており、二次災害を防ぐためトンネル手前の停止線で停車する必要があります。
トンネル信号が設置されるようになった背景には、1979年7月に発生した「日本坂トンネル火災事故」という重大な事故があります。この事故は、東名高速道路の日本坂トンネル内で多重衝突事故が発生し、車両火災に発展したものです。
事故の詳細を振り返ると、当初は6台の車両による追突事故でしたが、トンネル内での火災に気付かずに進入した車両が多数あり、最終的に173台もの車両が焼失するという大惨事となりました。この事故では死者7名を出し、東名高速道路が1週間にわたって不通となる深刻な被害をもたらしました。
道路公団は「火災 進入禁止」という電光掲示板を設置しましたが、多くのドライバーが気付かずに進入してしまい、被害が拡大したのです。この反省から、事故が発見しづらい長大トンネルの入口に信号機を設置することが決定されました。
ただし、当初は道路公団や建設省は積極的ではなく、警察、道路公団、建設省の3者間で論争が起きることもありましたが、最終的に安全性を重視した現在の設置基準が確立されました。
トンネル以外にも信号機が設置されている特殊な高速道路の事例として、埼玉県戸田市にある美女木ジャンクションがあります。このジャンクションは非常に珍しい構造を持っており、高速道路同士が平面交差している箇所に信号機が設置されています。
美女木ジャンクションは東京外環自動車道、首都高速5号線、首都高速埼玉大宮線を接続するジャンクションですが、周辺が住宅地であり用地買収が難航したため、やむなく十字立体交差で接続することになりました。しかし、首都高速と外環自動車道が平面交差する部分があるため、その箇所には信号機が設置されています。
国土交通省からは「高速道路での平面交差はもってのほか」として使用許可が下りなかったため、このような特殊な形態となりました。この信号機は見やすくするために、通常の道路信号機よりもひとまわり大きなサイズで作られており、高速道路における信号機の特殊事例として注目されています。
このような例外的なケースも含めて、高速道路の信号機は安全性を最優先に設置・運用されており、ドライバーは常に信号機の存在を意識して走行する必要があります。特にトンネル接近時は、信号機の確認を怠らないよう注意深く運転することが重要です。