ミラトコットの生産終了が決定された2023年9月の登録台数は984台という厳しい数字でした。これは同じダイハツの主力モデルであるミライースの4,751台、タントの14,527台と比較すると、その販売不振の深刻さが浮き彫りになります。
発売から約5年間で累計販売台数は約7万2,000台に留まり、年間平均では約1万4,000台程度という結果でした。軽自動車市場において、年間販売台数が1万台を下回る状況は、メーカーにとって継続的な生産を正当化できない水準です。
近年の軽自動車市場では、以下のような変化が顕著に現れています。
この市場変化の中で、ミラトコットのようなシンプルなセダンタイプは、消費者のニーズから乖離していったのが実情です。
ミラトコットのデザイン戦略は、当初「エフォートレス(気楽な)」をキーワードに、過度な女性らしさを排除したユニセックスでシンプルなデザインを目指していました。しかし、この戦略が結果的に失敗に終わった要因は複数あります。
シンプル過ぎるデザインの問題点
ミラトコットは直線と丸を用いたシンプルなデザインを採用していましたが、これが逆に「魅力不足」として受け取られました。SNSでは「シンプル感はいいけど、魅力的に感じない」という声が多く見られ、デザインの個性が薄すぎたことが指摘されています。
ターゲット設定の曖昧さ
女性社員7人のプロジェクトチームが企画・開発に参画したものの、実際のターゲット層である若年女性のニーズを的確に捉えきれませんでした。「女性といえばこれだろう」という型にはめたカワイさを避けた結果、逆に特徴のない車になってしまったのです。
競合車との差別化不足
同価格帯には以下のような競合車が存在していました。
これらの競合車と比較して、ミラトコットの独自性や優位性が消費者に伝わらなかったことが、販売不振の大きな要因となりました。
ミラトコットの生産終了は、単純な販売不振だけでなく、自動車業界全体の構造的変化も大きく影響しています。
安全・環境基準の厳格化
近年、自動車業界では安全装備の義務化や排出ガス規制の強化が進んでいます。ミラトコットのベースとなるプラットフォームは比較的古く、これらの新基準に対応するためには大幅な改良が必要でした。しかし、販売台数を考慮すると、そこまでの投資を回収できる見込みが立たなかったのです。
トヨタ完全子会社化の影響
ダイハツがトヨタの完全子会社となったことで、コストダウンの圧力が強まったという指摘もあります。トヨタは本来軽自動車を重視していない企業であり、ダイハツの軽自動車ラインナップに対して厳しい収益性の要求をしている可能性があります。
スズキとの提携による戦略変更
トヨタとスズキの提携により、軽自動車分野での競争環境が変化しました。グループ内に複数の軽自動車ブランドが存在する状況で、収益性の低いモデルは整理統合の対象となりやすくなっています。
ミラトコットの生産終了後、後継車の開発については公式発表がありません。しかし、業界関係者の間では、ダイハツの軽自動車戦略の大幅な見直しが予想されています。
新コンセプトでの復活可能性
ミラトコットの失敗を受けて、ダイハツは以下のような新しいアプローチを検討している可能性があります。
ラインナップ整理統合の方向性
現在のダイハツ軽自動車ラインナップは、ミライース、タント、ムーヴ、キャスト、ウェイクなど多岐にわたります。今後は収益性の高いモデルに集中し、重複するセグメントの整理が進むと予想されます。
ミラトコットのようなエントリー向けセダンタイプは、ミライースに統合される可能性が高く、独立したモデルとしての復活は困難かもしれません。
販売不振で生産終了となったミラトコットですが、実際のオーナーや自動車愛好家からは惜しむ声が多く聞かれます。
オーナーが評価する実用性
実際にミラトコットを所有していたユーザーからは、以下のような評価が寄せられています。
デザインの独自性への再評価
生産終了の発表後、SNSでは「トコットのデザインは東ドイツ感があって良い」「余計な飾りを省いたシンプルな感じが魅力」といった、デザインの独自性を再評価する声が多く見られました。
特に、60~70年代のコンパクトカーを思わせるレトロポップな魅力は、一部の自動車愛好家には高く評価されていました。
スポーツ仕様への期待
オーナーの中には「スポーツモデルの登場をずっと待っていました」「MT搭載の仕様が欲しかった」という声もあり、ベースモデルの魅力を活かした派生モデルへの期待もありました。
しかし、販売台数の低迷により、そうした派生モデルの開発は実現されることなく、生産終了となってしまいました。
ミラトコットの生産終了は、自動車市場の変化と消費者ニーズの多様化を象徴する出来事といえるでしょう。シンプルで質実剛健なデザインは一定の評価を得ていたものの、激しい競争の中で生き残ることはできませんでした。今後のダイハツの軽自動車戦略がどのような方向に向かうのか、業界関係者の注目が集まっています。